7/5 『ブギーポップ・パズルド 最強は堕落と矛盾を嘲笑う』を読んだ
刊行前に電撃の——今は亡き――いや今現在は見れない――小説サイトで全編無料公開連載されていて、2ヶ月近く毎日それを読むという日々が続いていた。良ぇ日々やった……無料連載は前作の『ブギーポップは呪われる』でも確かやっていたが、その時は一気に読めた方がいいっしょと思って読まずにいた。今回は連載で読んでみたわけだが、どちらがいいかと言ったら……まあどちらも良い。
今回のメインはみんな大好きフォルテッシモ、その最強の謎と秘密に迫るといったところだが、どちらかというと最強さんよりもその能力、〈ザ・スライダー〉の秘密に迫っていた。ただ、迫ったところで真実に辿り着けるかというとそうでもなく、むしろ切り開いたその先には途方もない虚空が広がっていたという……それがもう真実なのかな。
連載時にはなかった最たるものとしてイラストがあるわけだが、今作においてはこの緒方剛志センセのイラストが極めていい仕事をしていたと思う。〈ザ・スライダー〉の世界に走る無数のヒビを、ここまでわかりやすく可視化してくれているのだから。素晴らしい。それはまるでマンガのワク線やコマ割りのようでもあり、マンガにおいてコマに干渉できるとなればそらもう最強でしょうと言うほかない。ただ『ブギーポップ・パズルド』というサブタイ(と言うのか? むしろ『最強は~』の方がサブタイなのか?)と合わせて考えると、まんまスライドパズルのそれなんじゃねえかとも思える。作中における指をついっと振る動作とかも、パズルピースを動かしてる動作のようでもあり……でもペイントソフトの消しゴムペンを使ってるような動作にも見える。見るものによって違うのか。
フォルテッシモの能力が、なんだかわからないが世界を維持するための機能に近いものであり、かれ自身が世界に用意された自動的な存在であるかのような言及が、他ならぬブギーポップからなされるわけだが、果たしてそれもどの程度正直に受け取っていいか、考えどころだ。それを言うならすべてのMPLS能力がどうなんだということにもなり、ともするとこれまでの前提がまるごとひっくり返るんじゃないか。スタンド能力のように個人の精神性に依った心の具現とかではなく、世界に与えられた、あるいは世界と個人との擦り合わせによって生まれた摩擦のようなものであるのか……とか、想像が膨らむ。答えは出ない。
フォルテッシモが虚空の中にブギーポップを見た理由。これはフォルテッシモがブギーポップのことをどう思っているのか、竹田くんの恋敵になるつもりはあるのかという話にもかかってくるが……中に入っているものが何であれ、その姿は未練によって形作られることから考えると、おそらくはこの世界、この時代と共に一抹の泡として消えゆくのであろうブギーポップと、どういう経緯かはわからないが遥か超未来の彼方でも戦い続ける運命にあるフォルテッシモ、最強とはまた異なる孤独を抱えた存在である「ご同輩」への、その未来から見たときの未練だったんじゃないかなと、これまた想像を膨らませていた。
なんといっても今回、フォルテッシモはいかなる気まぐれか「最強」を脱ぎ捨てようとしていたきらいがあり、それは臣井くんの『才能』に彼もまた影響されてのことだったのかもしれないが、しかし結局再びそれを纏ってしまった。逃げることは、世界や運命以前に己自身が許さなかったのか。うーんそうしてみるとスキャッターブレインの格がめっちゃ上がる……いやあれも別に逃げてはないんだったか。また今度読み直すか。
フォルテッシモのことばかりぐだぐだ述べたくるだけでどこまでもいけてしまいそうで、流石人気キャラというのもあるが、今作は普通人がほとんど登場してなくて、統和機構内で大騒ぎしてただけで(だから凪も言葉だけで本編に出てこなかったんだな)事件としては実にみみっちいので仕方ない。合成人間たちのやりとりはなんか、そこはかとなく鳥山明感を感じていた。フリーザ軍の辺境惑星戦闘員たちの会話みたいな。気をつけ肩すくめジト目で会話してるような。カチューシャのコメディエンヌぶりとかな。この状態から堕ちれる恋があるんですか、飛鳥井先生?