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2/28 『筺底のエルピス5 迷い子たちの一歩』を読んだ

『百億の昼と千億の夜』を読んだ後に次に読む本としてこれを手に取り、そういえばこの作品も人類を滅ぼそうとする謎の存在と戦うお話だったよなあ……と思って、ふとカバー折り返しの既刊一覧見たら次巻のサブタイトルが「四百億の昼と夜」で、いやまんまじゃーん!とちょっと愉快になってしまった。
古典名作はこういうことがあるために読んでおくものなんだろうな、と思いつつ、しかしお話としては重苦しい展開が続く。大きな事態の変化はなく、むしろ今しがた収束した大きな事態の後始末と、いろいろ始末されて散々になっちゃった組織の再編の話が今巻。冒頭の登場人物紹介からして悲痛で、捨環戦を経た乾叶がイヌイ・カナエと、いかにもアナザーな表記にされてしまっているのが悲しい。俺が4巻までその軌跡を見届けてきたのはお前の方なのに。しかも、他ならぬ自分自身に「修羅」とまで表現されるまでになって。ていうかここで「修羅」と表現されるって、つまりあしゅらおうじゃん……それまでの世界の運命を背負ってたった一人生き残るとことか。背負わされた重荷の解像度がぐっと上がってしまった。
あと阿黍師匠の復活にも驚いた。未だ捨環戦の仕組みを理解しきってなかったせいもあり、すっかりもう死んでしまって戻らないものと思っていたので。だがまあ復活したのはまだいいとして、更に謎とキャラ格を盛られた上で主人公らにとって油断ならない相手として立ちはだかる存在になるとか予想できるか。いにしえの少年マンガみたいな身の浮き沈みっぷりをハードSFライトノベルでやるんじゃない。
そんな阿黍のいる領域、修羅に堕ちかけたイヌイ・カナエを辛うじて人の域に押し留めたのが、2年間の地獄を経てもなお褪せることなくその身に刻まれていた空手だった、とは……なるほどだった。盲点というか、正直忘れかけてたというか。だってこの作品に出てくる人らってたいがい異星からの超技術で超常の力を持った奴らばっかだし、うち一勢力は肉体も不死級に改造してる超人だし、大元の敵というか倒すべきものは超人どころか現象だし。今回のような徒手での白熱した戦いは、滅多に見られるもんじゃないだろう。ロマンはるが……《I》の不死の超人どもをカラテでばったばったとなぎ倒してく展開。でもこの作品ではそういうのはないか。そうか。
罠とはいえ、「貴方と、もうひとりの貴方の人生が、枝分かれした場所」に、その運命の登場人物たちが改めて一堂に会し、新たな身分と決意を手にして共に未来を歩む覚悟を決めるのだから、感極まらないわけがない。カナエも、元通りにはできずとも希望ある新しい名前を得られて良かった。今巻で存在感を増してきた光一君にも注目だ。作中の根本の謎にも迫るようだし、ああいう子はいい働きをするよきっと。頑張ってほしい。

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