
6/4 『ありえない仕事術 正しい〝正義〟の使い方』を読んだ
『ハードボイルドグルメリポート』は番組も書籍も大変興味深く観たり読んだりさせてもらったから、その仕事術も何か驚くべきメソッドが隠されているのかと思いきや、そういうものではなかった。『ハードボイルドグルメリポート』が我々の日常にはない衝撃的な光景を見せてくれたから同じものをと期待したけど、考えてみれば仕事というのは日常なのだからそんなものを期待するべきではなかったな。仕事術の本をいっぱい読んでてもっと成長もっと成功って考えてる人には異なる視座を与えられる本として書かれたものだったのかもだが、俺向けではなかったのかもしれない。でも「はじめに」で世にある仕事術本なんて当たり前のことしか書いてないなと言いつつ、これだってわりと当たり前のことをやりましょうというのが論旨だったのでちょっとズルいぞ、……というのが第一部の感想だった。
第二部では一転して番組の制作記となり、仕事術の本だということを忘れて読み入っていた。コロナウイルスという未曽有の疫禍に立ち向かう病院も、ALSという絶望的な病に抵抗し続ける青年も、それを傍から撮り続ける番組制作陣の一人になった気分でその迫真さに同化していたが……伊野さんの死の後あたりで、ようやく仕掛けに気づいた。そのあたりから急に描写が急ぎ気味になっていたということもあるし、それまであえて取材対象のこともググったりせず後で調べてみようと思っていたのが、積極的に情報収集してなかったとしても書かれてるようなことを今まで露ほども耳にしていないのはさすがにおかしいと思えてきたのもその辺だったからだ。なるほどこれがモキュメンタリーというやつだなと最初は思って、読み終えた後で第1部を見返しさらになるほど、むしろ第2部は運転免許の講習ビデオよろしく、第1部の実践的失敗例とでも言うべきものだったかと納得した。〝正義〟の暴走も、そうとわかって読めば「いやいやこんなわかりやすく堕ちることなんかないでしょ」とは思えるが、いざ現実に直面したらどうなるか、むしろわかりやすいくらいに物語じみた醜態を晒すものかもしれない、そんなところも免許講習ビデオっぽい。
なるほどね、とは思ったものの、第1部の「実証」例としての第2部だった、と考えると、そもそも第1部はそんなに響かなかったこととぶつかってしまって、なんと言うか、なんと言うべきなのか……という気分だ。参考にします、というのもなあ。それこそ自分がいつか何かの際に〝正義〟を暴走させ、拘置所でないにしろどこかで己を省みる機会があったときに本書を思い出し、あァあれは正しかった、と思うのかもしれない。そんな日が来ないことを祈り、この仕事術が役に立つ日が来ないことが、幸福への道標、だろうか?