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RAGE 2022 Spring はリアル有料eスポーツイベントの成立を意味するのか(後編)

 前回の続き。『Apex Legends』の人気が今後落ちていくのではないかと予測した。今回はそれらの要因と本題である『RAGE 2022 Spring』の成功は何を意味するのかそれらを検証していきたい。
 まず、『Apex Legends』の人気が日本で落ちる理由だが、Apex Legendsを牽引していたVtuberの人気が相対的に落ちているからである。

2021年~2022年ゲーム実況者・Vtuberランキング

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1Y_hiK8XHX05rXU7S09outnBdxFKKbSQT7sj3qis8vYg/edit?usp=sharing

Twitchの隆興とプラットフォーム移行への苦戦


 大まかな傾向としては、2020年後半は「にじさんじ」系Vtuber→2021年前半~中盤に「ホロライブ」系Vtuber→2022年ゲーム実況者という流れになる。注意点としては、あくまでこのランキングは「ライブ配信」のランキングであって、アーカイブ型の動画は含まないことである。ただし、アーカイブ動画からライブ配信への移行、Youtube LiveからTwitchへの移行は起きていると推測されており、ライブ配信の影響力は増していると言えるだろう。
 YoutubeからTwitchへの移行は、Youtube と Youtube Liveの相性の悪さが理由だ。実況は最低でも1~2時間を消費するコンテンツであるが、現代のユーザーはより短い動画を求めるようになっている傾向がある。そのため、生ではないライブ配信のアーカイブ動画は再生数が少なくなる。そして、再生数が少ない動画がリスト混ざると、Youtubeのアルゴリズムの関係でチャンネル自体がリコメンドから外されていく。そのため、アーカイブ型動画でユーザーを確保してきたインフルエンサーは、Youtube上でライブ配信を嫌がるようになってくる。
 結果として、配信者はYoutube LiveからTwitchへの移行を行うが、一方で海外の事例ではあるが、ユーザーは配信者についているのではなく、意外とプラットフォームに住み着いていたこともわかっている。(Mixerの顛末)。同様のことが、現在Vtuberにも起きていると予測され、その間にゲーム実況者が人気を獲得してきたというのはありそうだ。

2021年中旬に人気が上昇してきたJasper氏

 また、ライブ配信は配信者との距離の近さが重要であるコンテンツだが、Vtuberと実況者を比較したときに、生の人間の方が感情の機微など個性の把握という点で優位性があるという話もある。そもそもゲームがなぜ配信コンテンツとして重要な位置を占めるのかは、ゲームが個人によって結果が変わるインタラクティブなコンテンツで、配信企画の難易度が低いわりに視聴者から配信者のキャラクターを把握してもらいやすいからだ(特にコンテンツの作成が難しかったコロナ禍ではだ)。また、配信は2~3時間を簡単に奪うコンテンツで、同時に選択が難しい選別性の高いコンテンツだ。1回目のコンテンツの視聴でキャラクターや人間性が分からないと長期にわたっての視聴(つまりは、フォロー・サブスク)されない可能性が高い。

参考文献:ゲーム実況を制するものがビジネスを制する時代に知っておきたい「ゲーム実況マーケティング」の全体像と機会と課題

 長くなってしまったが、『RAGE 2022 Spring』を語るうえで土台となる説明ができたので、次はようやくイベントそのものに視点を合わせていきたい。

RAGE Springが成功した要因とは


 結局、なぜ過去最高の単独タイトルで有料の観客イベントで過去最高の記録を更新できたのか。それは、幾つかの要因の掛け算だ。1つ目は初日にストリーマー(実況配信者)をメインイベントとして組み込んだことだ。

Day1 - Streamer All Star

 現在のゲームシーンを語るうえで、動画配信を語るうえでゲーム配信者を語るのは外せない。そして、有料のリアルイベントがオンラインイベントが持つ唯一のオフラインイベント以上の付加価値は、ゲーム配信者に実際に会うことが出来ることである。会場では、応援アイテムやイラストボードを持ってきた参加者が多かったようだ。また、ファンアートが多く紹介されていたのも印象的だ。

会場にて表示されていたファンアート(参照:Negitaku)

 出演者が男性ばかりというのも一つのポイントなのかもしれない。ゲーム配信者がアイドル化しているということで、実際に参加者の約3割は女性だったという声もあり、従来のeスポーツファンだけで構成されているよりは、新たな層を開拓しているというのが実態として正しいのだろう。

 2つ目は『Valorant』というタイトルであったことだ。直前に開催されたVALORANT公式国際大会『VALORANT Champions Tour 2022 Stage1 Masters』にて日本代表の『Zeta Division』が、世界3位という快挙を遂げた。Twitterでは世界1位のトレンドになるなど、『RAGE』というイベントにとしてはこれ以上ない幸運で、プロチームが主体であるDay2のイベントも大盛況だった理由はやはりこの件は大きく影響があるだろう。なお、スケジューリング自体は意図したものであるので、そのあたりは運ではない。

ZETA DIVISIONのブースには長蛇の列 (参照:ファミ通)

 eスポーツシーンにおいては、世界で勝てるチームが必要だという鶏が先か卵が先か理論が存在したが、プロプレイヤーがマス層に認知される、またはゲームが認知されるという点で大事なことの一つであるというのは私も同意見だ。ただし、あくまでこの要素はブースティング的な要因に過ぎない気がしていて、もっと大事なことがあると思っている。 
 筆者は10年近く『League of Legends』を遊んでいる愛好者であり、世界で流行っている『League of Legends』が何故日本では流行らないのか考えていたが、結局PCゲーム自体が主流ではないということにつきると思っている。その点においては、現時点でも大きくは変わっていない。
 
間接的な資料ではあるが、『Valorant』や『LOL』の日本人口を推測する方法がある。ランク戦の分布態からだ。年間(シーズン)を通してLOLは2022年2月時点で10万人程度、Valorantは20万~30万程度ではないかと推測される(参照:OPGG)。一方で、Apex Legendsは2019年時点で公式が発表しているでもMonthly Active User(月のユーザー数)で20万人だった。現時点では100万人程度いてもおかしくない。これらの違いは何かというと、ゲームへのアクセスのしやすさであり、遊べるプラットフォーム数の差であると思われる。このことをValorantの開発元であるRiotも認識しているようで、PS4版・Switch版・モバイル版に関するリーク情報が出ており、マルチプラットフォームへ展開は一つの既定路線であると思われる。

大型タイトルのプラットフォーム対応表

 一方で、プレイヤー数が少ないことがeスポーツとして失敗を意味するかというと全く別の話だ。現状、世界的eスポーツとして興行レベルで成立しているとかろうじて言えるのは、『CS:GO』『Valorant』『League of Legends』であるが、上記のタイトルはPCのみであり、最も人気のあるタイトルではない。つまり、eスポーツ的に成功するタイトルと、最も人気のあるタイトルは異なるのだ。

世界 eSports Tiers 2021(THE ESPORTS JOURNAL) 
日本 eSports Tiers 2020 (配信技研)

 なぜユーザ数の最も多いゲームがeスポーツで最も成功するゲームとならないのだろうか。それは、サッカーとアメフトとアメフトの関係に似ている。しばしサッカーとアメフトはアクションゲームとRTSゲームの違いとして言われるが、ターン制があるゲームは観戦しやすいというのがある。観客はルールをしらなくても、攻撃側か防御側かがはっきりするため、興奮するポイントを理解しやすいのだ。一方で、ゲームルールが少し複雑になったり、競技自体が複雑なため、実際に遊ぶには難易度が高くなる。
 筆者個人の意見だが、恐らく『League of Legends』と『Valorant』の開発元であるRiotは最初から『League of Legends』をサッカーに見立てたうえで、『Valorant』をターン性のゲームとして開発したのだろう。当時から(そして、現在でも)eスポーツとしてライバルの『Counter Strike Global Offence』とシステムが似ているのもそのためである。
 初心者でも勝てる要素のある「バトルロワイヤル」ではなく、タイムリミットがありドキドキする「爆弾設置/解除」を採用し、ヒーロの活躍を演出しやすい5人抜きを強く表現するために、待機時間が発生してしまいユーザビリティを損なう「再リスポンなし」を採用する。プレイアビリティよりも観客として熱狂できるようなゲームデザインは開発時から意図されたものであったのだろう。(プレイアビリティも基本的に高いが。)

今後のリアルeスポーツイベントはどうなるのか


 今後の予測について最後に語りたい。2021年配信技研は『Esports Tiers in 2021』を出さなかった。理由として「日本で盛り上がっているゲームの布教が十分になされたこと」と「eスポーツの立ち位置の変化」をあげ、今後も「ゲーマーが誠意を込めて発信しているコンテンツ」、「視聴者が本当に楽しんで視聴しているコンテンツ」が評価されるために取り組みを続けると発表している。
 もっと率直に言えば、eスポーツTierはeスポーツ向けの一部のゲームの人気を指す指標であり、全体的なゲームの人気を指し示すものではなくなったということなのだろう。そして、リアルeスポーツイベントは、ゲームコンテンツを楽しむイベントというよりは、ゲームを通じて有名人にあったり、同じコンテンツを楽しむ人に会いに行く交流会のようなコミュニティイベントになっていくのだろう。

 
元々、eスポーツはリアルスポーツと比較して、収益性に無理がある構造をしている。リアルスポーツの収益源は『リーグ報酬』『入場料収入』『物販収入』『放映権収入』である。だが、eスポーツにおいては『放映権収益』はなく、視聴もデジタルが主流なため『入場料収入』も薄いのだ。

ヨーロッパのサッカークラブの収益構造


 少し外れるが、5月2日、Vtuberグループ「にじさんじ」を運営する『ANYCOLOR』が東証に上場することを発表した。その中で、収益源が記載されていたが、売上の中心はライブストリーミング領域ではなく、コマース(コンテンツ販売・イベント開催)と発表した。(参照:Gamebiz)

Vtuber/バーチャルライバープロジェクト

 これらを纏めて考えると、eスポーツ興行も、ライブストリーミング領域の放送だけではとても成立するようなものではないということが予想できる。『RAGE 2022 Spring』は大成功をおさめたが、有料eスポーツイベントの今後はまだまだ前途多難だ。

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