新宿方丈記・36「つまらない人生」
世の中には様々な人がいて、しかも苦手な部類の人も結構いて、まあ大人だから、それなりに我慢して仕事などはそつなく進め(相手も大人だし)、余程のことがない限り、バトルが起こるようなこともなく(大人だから)、それでも時には訳のわからないことを言うモンスターおじさんと揉めたりはしても、見えないところでこそこそネチネチ言う奴よりはマシか、などと納得できたりもするのだが、とにかくこの人にはかなわない、とお手上げの人が、今までの私の人生で出会った人の中に一人だけいたのだ。あくまで私個人の見解であり、もしかしたら世の中の多くの人にとっては全く普通の人なのかもしれないが、とにかく私には1ミリも理解することができなかった。仕事もきちんとできるし、親切だし優しいし、声を荒げて怒ることもない。毎日きちんと自分で作ったお弁当を持参して、1分単位まできっちり1時間の昼休みを取る。世の中の流行をチェックするため美容院で雑誌を読み、流行りのドラマをチェックして、洋服には週末にまとめてアイロンをかけ、決まった店でだけ買い物をする。ペットボトルのお茶は一切飲まず、自分で水筒を持参する。何があろうと定時に退社し、定年退職後に楽をするために、せっせとお金を貯めることが一番の楽しみ。…一見、ストイックな真面目な人である。そしてきちんとした礼儀正しい人である。まさにそうだった。だけど裏を返せば、自分の目的のためならば、場の空気や人間関係などどうでもよく、とりあえず何事もなく1日を過ごして一刻も早く家に帰り、最小限の労力で給料をもらうために全ての力を注いでいるような人だったのだ。でも、一応間違っていると指摘するほどの点はないし、周りとの微妙なズレを本人が気にしていない限り、平和にこれからも生きていくだろうと思われる。最大公約数の優等生、みたいだなあと私は思っていた。こう言う人を、真面目な日本人の基準値、なんかに設定すればいいのではなかろうか。
不真面目で適当な私と比べれば、信じられないようなよくできた人である。しかし、私はこの人が嫌いではないのに、とうとうかけらも理解することができなかった。なぜなら、「つまんない。」からである。余白や遊びや道草が一切ない人生、素晴らしいけれど私には何の魅力もない(私の人生ほとんどそればっかり)。決定的だったのは、私が人形やら何やらを作っていると知った時の彼女の、心からの一言。「何でそんなお金のかかることするんですか?」だった。素直な声だと思う。おっしゃる通りですね。お金かかるしもうからないし。でも私の人生、全然つまんなくないから、それでいい。この人、最強だなあ。どんなモンスターよりも強いかも。こう言う人ばかりだと、真面目で勤勉な日本の未来は安泰だなあと、嫌味でも何でもなく思ってしまった。もう職場も変わってしまったので、おそらく二度と会うこともないと思うが、今でも我が道を歩いて一歩も譲らない姿が眼に浮かぶ(そういえば大人としてどうなの!?というくらい頑固だった)。同時に全く正反対の自分で良かったと、こっそり安堵したことも付け加えておく。おかげさまで私の人生、そこそこ楽しいですわ。