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虎の子日記     鬼の面と眠れぬ夜

その昔、日本一周フーテンの一人旅をしたことがある。

当時は女性の一人客は旅館には泊めてもらえない。(自殺したりするからだそうだ)女性用のカプセルホテルやネカフェなどもない時代である。
一応うら若き乙女だったのでテント張って野宿の度胸はないし、最悪車中泊の準備として寝袋は持っていたが、お風呂にも入りたいし、トイレも困る。
毎日のこととなると宿代もかさむので、宿泊先は重要ポイントだ。
そこで大学時代ユースホステルサークルだったという友人から、ユースホステルという存在を教えてもらい、登録の宿を転々としながら旅を続けることにした。

ユースホステルというのは当時平均3000円くらいで、夕食は一食500円程度。風呂・トイレは共用。部屋は男女別で、二段ベットなどで一部屋に何人か一緒に寝ることもある。少年自然の家みたいなイメージだ。
登録している宿泊先は、ガチの少年自然の家もあれば、お寺の宿坊だったり民宿だったり、時にはこじゃれたペンションなどもあった。

そしてその日の宿は茨城県の「加波山神社」と登録があった。
加波山という山の麓の神社の近く?そういうバス停があるとか?とりあえず行ってみることにした。
ユースホステルというのは大抵田舎にある。街中にあったのは京都と奈良くらいなものだ。そして交通の便などもあまりよろしくない。私は車だったが、地図上ありえない場所にあることもザラである。

夕方日が暮れようとしていた頃にやっとそのユースホステルについた。
神社だ。え?ほんとに神社の宿?でも鳥居あるし、まじもんで神社?
神社って泊るところなんだろうか?そもそも夜の神社なんて藁人形とか、丑の刻参りとかオドロしいイメージしかない。背筋が冷たくなってきた。

やさしそうな老夫婦に迎えられ、まるでおばあちゃん家のような夕食をご馳走になり、遠いところからよう来たねえ、なんておしゃべりをして和んだ私は、「うん、これなら怖くないな」と、さっき入り口で感じた恐怖感はなかったことにした。
「したら、茶碗はさげとって。お風呂はそこ。私らは帰るけん。また明日の朝くるから」
え?帰るの?っておばあちゃん達もここに泊まるんじゃないの?
え?夜の神社に私ひとり?
そう。他にはお客は居ない。宿主もいないこの広い神社の、孤独な夜が始まったのである。                 (つづく)


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