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曖昧な記憶の先に、ピンクの宝石。

わたしが幼稚園生だった頃、キラキラ輝く、宝石のようなキーホルダーが流行った。
恐らくアクリル製であろうそれは、大きさも色も形もさまざまで、クラスの子でも何かしら持っている子が多かった。
もちろんわたしも憧れていてうらやましく思っていたが、なかなか買ってもらえなかった。
 
   ここで記憶が飛ぶ。
 
わたしは、ピンク色の宝石キーホルダーを持っていた。
結構大きくて、3センチくらいはあっただろうか。
当時売られていた宝石キーホルダーの中でもかなり大きい方だった。
キラキラして、大きくて、ピンクで可愛くて、すごく気に入っていた。
うれしくて、さっそく幼稚園のかばんにつけてもらった。
おじいちゃんが買ってくれたと記憶しているのだけれど、いつどこで買ってもらったのか、ちっとも思い出せない。
 
ウキウキ、ドキドキした気持ちで幼稚園に行く。
今日はかばんにお気に入りのキーホルダーがついているのだから。
誰か気付いてくれる人はいるだろうか。
 
   また記憶が飛ぶ。
 
ある日の、幼稚園からの帰りの時間。
宝石キーホルダーを手にしてまだ日が浅いその日、クラスの男の子がわたしのキーホルダーを指さして「それちょうだい」と言った。
当時、典型的な内弁慶かつ少々いじめられっ子で委縮しがちだったわたしは、あまり話したことのないその子に言われるがまま、キーホルダーをあげてしまった。
ものすごく、お気に入りだったのに。
 
ここも記憶があいまいだが、家に帰ってから母にそのことを話したような気がする。
すごくがっかりして、すごく悲しい気持ちで、少し腹立たしくもあった。
「ちょうだい」と言った男の子に腹が立ったのではなく、断れなかった自分に腹が立った。
ものすごくお気に入りで、大好きなキーホルダー。
おじいちゃんがせっかく自分のために買ってくれたキーホルダー。
どうして簡単に渡してしまったのだろう。
 
それ以降、この宝石キーホルダー事件のことは覚えていない。
でも、大人になったわたしの手元に、キラキラ輝くピンク色の、ちょっぴりチープな宝石があった。
キーホルダーの部分はなく、宝石の部分だけ。
 
おかしいな。
クラスの男の子にあげてしまったから、わたしの手元にはないはずなのに。
 
この話のことは、誰も正確に覚えていない。
当事者のわたしに至っても記憶が曖昧過ぎて、あげてしまったのが本当に宝石キーホルダーだったのかも自信がない。
でも、ピンク色の宝石キーホルダーを買ってもらえたのがすごくうれしかったことと、お気に入りだったことだけは覚えている。
 
手元に戻った宝石キーホルダーは、大人になってから見てもやっぱり可愛い。
やたらと大きいサイズ感がチープさを助長していると言えなくもないが、それも含めて夢があると思った。
たしかイヤリングにリメイクしてみた気がするのだけれど、まだ実家にあるだろうか。

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