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【短編小説】異世界:魔法使い(特級)が雇われて・上

■本文

 ここは魔法が存在する西洋ファンタジー的な世界。これはそこで暮らす、とある職業人の物語である。

 私はパナセーア。数少ない魔法使いの中の、更に希少な『特級』の魔法使いである。
特級とは実績もろもろ含め、特に優れた魔法使いに与えられる称号である。

この称号を手に入れる為に、一体どれほどの賄賂を払って・・・、いや、どれほどの修行を積んだことか。
落差200mの滝に打たれたり、剣先の上を裸足で歩いたり、ペンキを塗ったりワックスをふき取ったりなど、今思い出しても鳥肌が立つ修行ばかりであった。

そのお陰か、私はどんな系統の魔法でも多彩に使いこなすことが出来る。
火、水、風、土、身体強化、聖に闇、そしてちょっとエッチな魔法もだ。
さあ、こんな私にふさわしい依頼はあるかな、と掲示板を探していると目についた貼り紙があった。

『急募:どんな魔法でも多彩に使える魔法使い募集。体力に自信があれば尚良し』

依頼元はテクノーラ社と記載がある。魔道具を扱っているらしいが、私は聞いたことがなかった。
『体力に自信があれば』という文言が多少引っかかったが、それは身体強化の魔法で何とかなるだろう。

そう考えた私はこの貼り紙を手に取り、受付へ向かった。

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マドコップ ―新作魔道具展覧会―』

そう書かれた大きな看板が掲げられた会場が、仕事の指定場所であった。中に入ると会場はとても広く、そこかしこに会社の紹介板と新作魔道具と思われる展示品が飾られている。

人混みの中を縫うように歩いていると、やっとのことで依頼先である『テクノーラ社』のブースを見つけた。

ブースの中では、若い男と壮年の男性が話し込んでいた。

「・・・うまくいきますかね、センパイ?」

「それは依頼を受けた人次第だな。うまくいかなかったら・・・ 転職先を探すしかないだろうな」

「そんなあ~、僕この間、子供が産まれたばかりなんですよ。路頭に迷うことになったら、どうすればいいのか・・・」

「だったら気合を入れるんだ! この案が上手くいけば、きっと大成功する!」

取り込み中のようだが、私は声をかける。

「あの・・・」

しかし、なかなか気づいてもらえない。そこで私は、小さな爆発魔法を放った。

パァン!

「う、うわっ!」

「な、なんだなんだ!?」

ここで二人はようやく私に気付いたようだった。

「ギルドの依頼を受けたものだが?」

私がそう言うと、若い男の方が近寄ってきた。

「あ、そ、そうだったんですね。これは、失礼しました! ・・・あの、さっきの音はあなたが?」

「ああ、そうだ」

私は答えると同時に、さっきと同じ魔法を放つ。

「す、すごい・・・。 あ、私はテクノーラ社のカインと申します。どうぞよろしくお願いいたします!」

カインと名乗った若い男は、丁寧なお辞儀をした。すると、今度はもう一人の壮年の男性が近づいてきた。

「あんた、あんな魔法を使うなんてなかなかの腕前みたいだな。他にはどんな魔法が使えるんだ?」

「・・・・・・」

私は問いには答えずに、『特級』の証である翡翠のペンダントを二人に見えるよう目の高さに掲げた。

「あ! こ・・・ これは、特級魔法使いの証!」

「え! こ、これが!? 僕、初めて見ました!」

二人は私が特級魔法使いと知って、大いに驚き口調も丁寧なものへと変わった。
これこれ、この反応がたまらなく気持ちよく、特級になって良かったと私は暫し感慨に浸る。

「特級の人がやってくれるのなら・・・ セ、センパイ!」

「ああ! この人なら、きっとイケるぞ!」

二人の異様な喜びようの理由がわからなかったが、私はとりあえず依頼内容を尋ねた。

「して、今回の依頼内容というのは?」

「はい、依頼というのはですねえ。・・・ちょっと、こちらへ来て頂けますか?」

そうして私は二人に付き従い、ブース内のテントへと入っていったのだった。

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「・・・これを?」

「はい、そうです! パナセーア様!」

私が指差した先には、鉄で出来た甲冑のような物体があった。

「これを着て、一体どうしろと?」

依頼なので断るつもりはなかったが、せめて理由は知りたい。すると、壮年のセシルと名乗った男性が説明を始めた。

「実はですね、我が社では今回の展示会に間に合わせるべく『魔道ロボット』というものを開発中でした。ところが、色々とありまして展示会に間に合わなくなってしまいまして。・・・そこで、考え出したのが」

「誰かにロボットの振りをしてもらう、と?」

「その通りです」

私はふうっと大きなため息をつく。まさか、特級魔法使いの私がロボットの中身の役をやらされることになろうとは。

それに『魔道ロボット』と言えば、数ある魔道具の中でも特に難しい分野であり、国家レベルでの研究がなされていると聞く。そんなものを、こんな名前も聞いたことがない弱小メーカーが作れるはずなどない、と私は思った。

「「それで・・・その・・・、やって、いただけます、か?」」

二人は私が考え込んでいる様子を見て迷っている、と感じたようだ。

「まあ、いいでしょう。展示会の期間中だけですよね?」

「「・・・は、はい! ぜひとも、よろしくお願いします!」」

私が承諾すると、二人は土下座でもせんばかりの勢いでお辞儀を何度も繰り返したのだった。

こうして私は開発中のロボットの仕様を教わり、魔道ロボットになり切ることにしたのだが・・・

「そう言えば、このロボットの名前は何と言うのです? まさか、私の名前を呼ぶわけにもいかんでしょう」

「はい。名前は開発コードから取りまして、その名も『出来るんデス』です!」

カインが力強く答えた。

「そう、ですか・・・」
(名前のセンスが・・・(汗) きっと開発中のロボットも大したものではないのだろう)

適当に相槌をうってはいたが、心の中では毒づいていた。

つづく


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