シナリオ・センターに通ってた頃の宿題その4
テーマ:時代劇 タイトル:「青い目の侍」
①江戸 高輪 東禅寺内(夜)
T安政7年3月2日
薄明かりの中、顔の見えない男と、ラザフォード・オールコック(51)が会話をしている。
オールコック「Tomorrow morning?」
男「Yes」
オールコック「Really?」
男「Yes」
オールコック「Oh,poor man!」
東禅寺の境内から立ち去ろうとする男。
オールコック「Thanks good information」
振り返る男の目は青い。
②江戸城、桜田門前(朝)
T安政7年3月3日 9時過ぎ
辺りを静寂が包む中、木陰に幾つかの人影がある。
桜田門の前に、井伊家の家紋がついたカゴを伴った武士の一行が現れる。
③井伊家の籠の中(朝)
籠の中では、井伊直弼(44)が書に目を通している。
井伊「もっと早よぅ、動けんのか!」
籠の外で、鳥の群れが一斉に飛び立つ音が聞こえる。
④江戸城、桜田門前(朝)
木陰から浪士たちが次々に飛び出す。
それにつられ、鳥の群れが一斉に飛び立っていく。
浪士「赤鬼! 天誅じゃあ!」
浪士に応戦する一行の武士たち。切られながらも鬼気迫る浪士たちは次々に井伊家の家紋がついたカゴに刃を突き立てる。
その度に言葉にならない呻き声がカゴから聞こえてくる。
ついにはガタガタのカゴの中から井伊の変わり果てた姿が露わになる。
浪士「我らの勝利じゃ!」
浪士は高々に宣言すると、生き残った浪士は四方に散っていく。
それを追いかけていく一行の武士たち。
武士「一人残らず、命奪い取れ!」
⑤江戸の町(朝)
浪人風の出で立ちで、高倉英之進(23)が考え事をしながら歩いていると、前方より永倉(43)が勢いよく走ってくる。
永倉「そこの、お前どけっ!」
英之進「え? ちょっと」
永倉から逃げるように走り出す英之進。その後ろから、長安(32)が追ってくる。
長安「お前たち、成敗してくれようぞ!」
英之進「えっ、拙者も?」
永倉「悪いな。巻き込んじまったみたいだな」
英之進たちの前方で道が二手に分かれている。
永倉「よし、お前が右で、俺が左だ」
英之進は右、永倉は左の道へと足を進める。
長安は英之進を追いかけてくる。
英之進「ちょっと、何で」
と、行く手が壁で阻まれている。徐々に差が縮まっていく英之進と長安。
長安「なぜ、大老を殺めようとした?」
英之進「いったい、何の話を申されている?」
長安「貴様、しらばっくれる気か?」
刀を上段で構える長安。
英之進「お待ち申されよ。拙者はただ追われたから逃げていただけで」
長安「それに、相違ないが、ん!」
何かに気付く長安。
長安「貴様、なぜ青い目をしておる。馴れ馴れしくも侍の格好などしおって、この南蛮人が。挙句の果てに大老を殺めることに加担するなど持っての他、覚悟は出来ているだろうな」
思いっきり刀を振りかぶる長安。
英之進「あっ」
銃声が響く。
刀を振りかぶった姿勢のまま崩れていく長安。
英之進が震える手で、ピストルを構えている。
武士の声「長安、どこに行った? 返事をされよ!」
英之進「やべぇ」
急いで、その場を立ち去る英之進
木の陰から、英之進を見ている男。
⑥江戸城 御用部屋(朝)
安藤信正(40)の下へ藤本(33)が歩み寄り、耳打ちする。
安藤「そうか」
扇子を軽く膝で叩く安藤。
藤本「で、どうされるのですか?」
安藤「策は講じているから気にするな」
藤本「しかし、影響が大きすぎやしませんか?」
安藤「くどい! 万事上手く事は運ぶ。貴様は気にするな。少し篭るから席を外せ」
床に頭をつけ、場を後にする藤本。
⑦同 御用部屋の前(朝)
藤本と入れ替わりに御用部屋に入っていく久世広周(41)。久世のほうを振り返るが、そのまま去っていく藤本。
⑧同 御用部屋(朝)
向かい合っている安藤と久世。
安藤「久世殿はこの難局をどう捉える?」
久世「拙者は、これを好機と捉えまする」
安藤「ほぅ」
一度、外へ視線を外す安藤。
安藤「それがしは、久世殿にもう一度戻ってきてもらいたい。力を貸してほしい」
久世「喜んで拝受いたしまする」
安藤「そうか」
笑顔で久世の下へ近づく安藤。
安藤「ただ、これはくれぐれもまだ内密にな。これから済ませなくてはいけないこともあるよってに」
久世「しかと、承知」
⑨江戸の町
騒然としている江戸の町。周囲を警戒しつつ、歩いている英之進。
英之進「いつ、バレたんだ?」
遠くから英之進を見ている男。
英之進「だが、拙者は何もしていない。ということは、バレていない、ということになるか」
自分に頷きながら歩いている英之進。と、オールコックが馬を走らせてやってくる。
オールコック「(必死の形相で)You!」
オールコックは英之進を半ば強引に馬に乗せると、そのまま来た道を戻る。
騒然としている江戸の町民たち。
英之進を見張っていた男は軽く舌打ちをし、その場を去っていく。
⑩江戸城 大広間
上座に徳川家茂(14)が座している。そこへ重い足取りで入っていく安藤。
家茂「信正、また急に何用じゃ?」
安藤「掃部頭様が急な病に伏されまして」
家茂「それは大変じゃ。早速見舞わねばなるまい」
安藤「いえ、上様、流行り病かもしれません故、上様に参っていただくわけにはいかぬとの仰せで。万が一とのことで、養子願いも出されてます故。ここは何卒、ご配慮賜りたいところ」
家茂「わかった」
安藤「また、ご報告に参じまする」
将軍の間を後にする安藤。
⑪とある場所
久世と永倉が向かい合って座っている。
永倉「で、いつ貰えるんだ?」
久世「して、何の話でしたかな?」
永倉「しらばっくれるんじゃねえぞ!」
久世「ふっ、まぁ、そんなことはどうでもいい。貴様はここで死ぬ!」
永倉「!」
大勢の武士に取り囲まれてしまう永倉。
永倉「捨て駒にされたか」
久世「気付くのが遅いな」
その場を去っていく久世。久世の背後からは断末魔の叫びが聞こえる。
⑫江戸 高輪 東禅寺内(夜)
オールコックの下を訪れている安藤。
オールコック「Mr.Ando,next Taikun?」
安藤は意味深な笑みを浮かべる。
安藤「今日、伺ったのは、最近良くない噂を耳にしまして、確かめに参ったもので」
通訳がオールコックに耳打ちする。
オールコック「Rumor?」
安藤「こちらに国策を妨害している間者がいるとの話がありまして」
部屋の障子を隔てて、話を聞いている英之進。
英之進「(小声で)は? 安藤殿どういうことだ? 元はといえば安藤殿が……」
オールコックの表情が険しくなる。
安藤「その間者を引き渡していただければ、万事上手く収まりますゆえに、ご配慮いただきたい所存で」
意味深な表情をする安藤。オールコックは側にいた使用人に言付けをする。
部屋を後にした使用人(31)は、すぐに英之進の下へ駆け寄る。
使用人「(小声で)Harry up! Run away!」
東禅寺の周辺がざわついてくる。
英之進「いったい全体、どうなっている? 掃部頭が襲われてから、何かがおかしい」
end
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?