はじめての彼氏の話
中学1年生のときにできたはじめての彼氏とは、3日で別れた。けんくんっていう名前の男の子だった。
けんくんとは小学校も一緒だったけど、特別仲がいいわけでもなかったし、何なら友達の祥子ちゃんの好きな人だったからその相談にも乗ってて。つまりはけんくんのことはまったくそういう対象として見ていなかった。
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けんくんとよく話すようになったのは、たまたま隣の席になってから。メールをするようになったのは何がきっかけだったっけなあ。もう忘れちゃったけど、いつの間にかAくんから「明日の時間割教えて」とメールが来るようになった。毎日同じくらいの時間に、同じ文面で。時間割を教えた後は、たわいもない会話を続ける。それが日常のなかに組み込まれて、お互いにとって当たり前になった。
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そしてそれは席替えで隣の席じゃなくなった後も。席が離れてしまったことで学校で直接話すことはなくなったけど、メールのやり取りは毎日欠かさず続いた。こういう関係ってこの頃の男女のあるあるなんじゃないかな。
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そんなやり取りがしばらく続いて、向こうから好意が寄せられていることは薄々感じてた。わたしは人から初めて寄せられる好意がうれしくて。なんだか大人の仲間入りを果たした気分になっていた。きっと祥子ちゃんに対する優越感もどこかにあった。そのころにはもう祥子ちゃんの相談に乗ることはなくなっていた。
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そんな日々が続き、ある日曜日。ひとり家でゲームをしていると、Aくんからのメール。
「好きやから、付き合ってくれませんか?」
そろそろ告白されるかもな、と思っていたので特別驚きはしなかった。それで、人生ではじめてされた告白なのにそんなに舞い上がりもしなかった。
すごく好きな人だったらもっとドキドキしてもっと嬉しいもんなのかな。そう思って悩んで、けど自分にそんなに途方もなく好きな人ができるのかな、と思ったりもした。漫画やドラマで見るような、大好きで大好きで仕方ない人。そんな感情自分のなかにある?
ちょっと考えて、「いいよ」と返事をした。
いくら覗いても、自分のなかに答えを見つけ出せなかったから。
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次の日学校に行くと、けんくんと仲のいいグループの男の子たちがニヤニヤしてこっちを見てくるのがわかった。ああ、けんくんが付き合ったことを報告したのか。わたしはうれしいとか恥ずかしいというよりも、なぜか嫌な気持ちになった。そのときにわかった。
きっとわたしはこの人のことを好きじゃない。
だってそうじゃなかったらこんなときに嫌な気持ちになるわけないんだから。
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そのモヤモヤとした気持ちを、友達に言ってみた。なんとなく言いづらくて、告白されて迷ってるということにして。
「はじめての彼氏は大事にしないと」
そう言われて、そんなのわかってるよと思った。別に「はじめての」じゃなくてもそういうのは大事にしないといけない。そんなのわかってる。
でもじゃあ、好きっていう感情がわからない人はどうしたらいいの?本当に好きな人が見つかるかもわからないまま、ずっとひとりで生きていくの?
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自分の気持ちと、相手のことと、祥子ちゃんのことと、友だちの意見。ぐるぐる考えて、次の日けんくんに別れを告げた。
「ごめん、付き合うってよくわからない」
そんなあっけない言葉で終わった。
結局、自分にこの先本当に好きな人ができるのかはわからなかったし、いちばんいい最後の迎え方もわからなかった。ただひとつわかったのは、わたしははじめての彼氏を大事にできなかったということ。きっとその事実はこの先ずっと忘れないと思う。それがいいことなのか悪いことなのかはさておき、きっと忘れない。
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