劣悪な環境とポケモンスリープの記憶
大人気スマホアプリ『ポケモンスリープ』をご存じだろうか。可愛いポケモン達がせっせと集めた木の実を、たった一匹のカビゴンがバクバクと貪り食い成長していくという不思議なゲームである。
大学3年生の春。窓から流れ込むうららかな暖気が心地よいあの日、私は周囲で評判だったこのアプリをインストールした。
目当ての可愛らしいイラストや残酷な世界観を味わいつつ、やがて訪れた眠気に身を委ねて「ねむる」ボタンを押したのだった。
翌日。いつもより重い瞼をこすりながらアプリを起動すると、一晩で記録された睡眠のグラフが表示される。ふむふむ、確かに睡眠が浅かったようだ…。
と、ここで目に入ったのが「ねごと」を録音してくれる機能である。どうやらスマートフォンのマイクで寝言を記録するらしい。
目を向けると、そこそこ長い時間記録されている。変なこと言ってない?大丈夫?と恐る恐る「ねごと」を聞くボタンをタップすると、
ドゥン…ドゥン…
!?
Hooo~!! ×4
フェスだ。
ずっしりと響く重低音のビート、湧き上がる野太い歓声。まるで興奮の渦巻く会場のど真ん中に立っているかのような、気迫こもった「ねごと」が流れていった。
住んでいるマンションの薄い壁に辟易としたのか、最近越してきたというあの陽気な隣人への恨み節でも口にしたのか、今ではあまり覚えていない。
ただ、気持ちよく開かれた窓を通って、満足気に眠るカビゴンと目の下を黒くした私を照らす穏やかな光が差し込んでいた。