もちぐん

Twitter: @mochimochigun

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最近の記事

おみくじ

 新年一月一日、近くの神社へ初詣に出かけた。普段は閑散としているその神社も初詣の時期はやはり人が多いようで、参拝するまでにいくばくかの時間を要した。この神社の神様も、こんな時だけ人がわんさかやってきて、やれ金運上昇だ恋愛成就だと次から次へとお願いされても、それを全て叶えるにはとても追いつけないだろう。せめて定期的に参拝していれば叶えようと重い腰を上げる気にもなるが、年一回だけお参りされても神様の知ったことではない。かく言う私もこの神社へは年一回程度しかお参りしないので、どの口

    • 京都に住むということ

       最近よく京都へ行くようになった。何をしに行くかと言われれば、一言で言えば「観光」の部類に入るのだろうが、特に有名な寺社仏閣をたくさん巡る訳でもなく、昔住んでいた住宅地や通っていた大学の周りをうろうろしたり、大好きな下鴨神社や鴨川デルタでのんびりと過ごしたりしている。ただしどれだけの頻度で京都に行こうとも、住むことと泊まることの間には大きな隔たりがあると最近感じるようになった。いくら懐かしい場所に足を運ぼうとも、所詮はよそ者が訪ねてきたに過ぎず、そこに住んでいた時に感じた、街

      • エッセイ好きのためのエッセイ

         最近寝る前にエッセイをよく読んでいる。元々は小説を読んでいたが、いざ読み進めて物語に入り込んでしまうと、続きが気になって一つの章を読み切らないと気が済まなくなってしまう。そのため就寝時間がどんどん遅くなり、昼間は寝不足のためうたた寝をし、昼に寝た分だけ夜中は元気になってずんずん読み進めるという、悪循環のお手本とも言うべき状態に陥ってしまった。  このままではいけないと思い、一度は就寝前の小説を諦めたが、床に入るとどうもしっくりこない。活字を脳内に取り込むことが一種の就寝前

        • 宵山メモリーズ

           7月に入り梅雨明けが待ち遠しくなる頃、その音色は町中からどこからともなく聞こえてくる。擬音語としては「コンチキチン」らしいのだが、そのように聞こえた試しはない。雑踏の中で聞く祇園囃子は、京都にこれから始まる長く蒸し暑い夏の到来を告げている。  学生時代、祇園祭と言えば宵山が最高の見せ場で、後の山鉾巡行は観光客がわんさか集まってただ眺めて楽しむもの、というよく分からない偏見を持っていた。宵山はいわば巨大な夏祭りの感覚であり、人混みの熱気に包まれながらその雰囲気を楽しむものだ

          謎のちょんまげ男

           その男は、周りの視線も気にせず、さもここが江戸時代であるかのように堂々と歩いていた。  あれは数年ほど前、まだ私が腐れ大学生時代を京都で過ごしていた頃のお話である。いつものように少し遅めの昼ごはんを食べようと大学の食堂へ向かうと、目の前から奇妙な髪型をした男が歩いてきた。おでこがやたら広く、髪がくくられて頭頂部で纏められている。しかもただ纏められているだけでなく、その髪でできた筒状のものが、頭上から垂直に生えているのである。これは明らかに、世に言う「ちょんまげ」に違いない

          謎のちょんまげ男

          熱帯A

          熱帯Aとの出会い 『熱帯』の発売から少し日が過ぎたある日、私は行きつけのバーでジントニックを飲んでおりました。そのバーは時々森見先生もご来店されるようで、森見ファンのお客さんも多いのが特徴です。その日はたまたまお客さんも少なくマスターと色々お話していたのですが、ちょうど『熱帯』の話になった際に、マスターからある一冊の本を手渡されました。 「白石珠子さんという方から、『熱帯』に興味がある方に渡して欲しいと頼まれまして…詳しいことは分かっていないんです」 夜の翼巡りで私は壮大

          鴨川デルタ探訪

           二月某日、人の少ない鴨川デルタに降り立った。京都在住時はよくここで過ごしていたが、今は遠く離れた地に住んでいるため、降り立つだけでもかなりの時間を要してしまう。それでも懐かしく感じるのは、色々な思い出が詰まっている場所だからではないだろうか。  デルタ周辺には下鴨神社と言う有名な神社があり、この神社は私も大好きでよく行っている。観光客の多くは下鴨神社の「ついで」にデルタに立ち寄ると予想されるが、デルタを知らない人にデルタ単体の魅力を説明するのは意外に難しい。 何か有名なオ

          鴨川デルタ探訪

          北白川と私

          かつて私は京都の北白川という地区に住んでいた。 大学生協の紹介でその地を初めて訪れた際、地名のかっこよさと静かな雰囲気が気に入ってここに住むことを決めたのだと記憶している。前者に関しては、なんとなく長い地名がかっこいいと思っていたことと、北白川と聞くと高級住宅地というイメージがあったことが関係する。要するに大した理由などなかったのである。後者に関しては、繁華街からも離れており、山が近くゆっくり暮らせると考えたからだ。 一度その地を見学したからといって、実際に住んでみると存

          北白川と私

          妄想的京都旅行 #3

           大文字山を下山し、今出川通を西に向かってずんずんと進んで行くと、カフェコレクション、進々堂など懐かしい名前の喫茶店が軒を連ねる。  カフェコレクションは友人たちとよく通っていた覚えがある。店名が少し長いのでいつも「カフェコレ」と略し、オムライスかトリ皮のバターライスを注文していた。フードメニューはどれもボリューム満点かつリーズナブルで、いつも腹ぺこな私たちの胃袋を満たしてくれた。店名の「コレクション」とは一体何のコレクションのことを指していたのか、真相は未だに分かっていな

          妄想的京都旅行 #3

          妄想的京都旅行 #2

           蹴上インクラインを北上し、南禅寺、永観堂を通り過ぎると若王子橋が現れる。この小さな橋が哲学の道の南端に位置し、ここから銀閣寺まで琵琶湖疏水に沿って道が続いている。哲学の道といういかにも文学的な名前は、善の研究で知られる西田幾多郎がこの道を散策しながら思案を巡らしたことに由来するらしいが、私には哲学のての字も分からないので詳細は割愛する。新緑の哲学の道を歩きながらしがない妄想に耽り、「嗚呼、哲学とはかくたるものか」と考えるが、これでは大真面目に哲学の研究をしていた昔の学者に大

          妄想的京都旅行 #2

          妄想的京都旅行 #1

           「今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました。まもなく京都です。」  車内に機械的なアナウンスが響き渡ると、乗客たちは一斉に席を立ち、ドアの方へ駆け寄っていく。「そんなに急いだって何も変わりゃしないよ」とは思いつつ、車窓から鴨川が目に入ると、私の心の中に眠っていた思い出たちがむくむくと湧き上がってくる。高まる気持ちを何とか抑えながら、ゆっくりと席を立つ。さも「京都なんてちょっと旅行で来たかっただけで、特に愛着がある訳でもないし」とでも言わんばかりに。是が非で

          妄想的京都旅行 #1