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【怖い話】創作怪談「環境音の中の」

サブスクって便利ですよね。今って何にでもサブスクがありますけど、やっぱり個人的には音楽のサブスクですね。昔から音楽が好きなんです。普段からよく聴くし、周りにも音楽好きが多くて。プレイリストを作って送りあったりとか、楽しく使ってました。

本当にいろんな音楽が聴けるんですよ。日本の音楽だけじゃなくて、海外の、タイとか案外ポップな曲が多くていいですよ。民族音楽なんかも聴けますしね。でも実は、そういう使い方だけじゃないんです。

寝る時ってどうしてます?照明は真っ暗にしますか?ちょっと明るくないと寝れない人も居ますよね。アロマオイルを焚いたりとか、そういえば最近加圧布団?が気になってるんですけど…ああ、それは置いておいて、僕が言いたかったのは、睡眠導入用のBGMってのがあるんですよ。

BGMといっても色々です。アンビエント系っていうんですかね、ぼんやりしたシンセがふわーっと鳴っている神秘的な曲とか、波の音、焚き火の音みたいな環境音系も沢山ありますし、ノイズの音とかもいいですよ。ノイズって言っても、すごく心地いいんです。なんでもホワイトノイズって種類のノイズは、胎内の音に近いとか。まあ、よく知らないんですけど。

その中でも、僕は環境音系の睡眠導入BGMがお気に入りで、寝る前によくかけていたんですよね。聴きたいときはそのまま「波の音」とか、「環境音」とか、「睡眠」とかで検索して調べるのもありですね。落ち着くんですよ。おすすめです。

でも、気をつけてくださいね。って、そんなよくある話ではないと思うんですけど、僕一回すごく怖い目に会ったことがあって。もしかしたら同じようなことになっちゃうかもしれないので、軽く聞き流すつもりで聞いてください。

ああいうのって、具体的なアーティスト名とかがあるわけでもなく、具体的な曲名があるわけでもなく、漠然としたものが多いんですよ。アーティスト名も「環境音ギャラリー」とか、曲名なんて「落ち着く音」とかの時もありますからね。どんな音だよって。

それで、なんとなく気になったアルバムとかを通しで聴いたりするんですけど、ある日、ちょっと気になったアルバムを見つけたんですよ。その日はなんて検索したんだっけなあ。それが思い出せればもう一度聴くこともできるかもしれないんですけどね。まあ、2度とあんなの聴きたくないですけど。

そのアルバムは、曲名が日付になってるんです。今サブスクって誰でも無料で配信できたりしますから、そこらへんの人がフィールドレコーディングとかした音声なのかな、って。結構いるっぽいんですよね。自前の機材を持っていって、街中の音とかを録音するのが趣味の人って。具体的には覚えてないですけど、日付は比較的最近で、結構飛び飛びだった気がしますね。短期間で録ったものではなかったような。

それで、なんでそのアルバムが気になったかっていうとですね、そのアルバム、ジャケットが笑顔の男の人だったんです。環境音系のアルバムって、基本的にフリー素材みたいな森の写真とか海の写真とか、そんなのが多いんですよ。製作者も不詳だし、間違っても特定の人の写真がジャケットになるなんてないですから。気になりますよね。

その男の人は、なんというか、本当に特徴がなくてですね…説明のしようがないんですが、まあ本当にどこにでもいる感じの、どちらかというとひ弱な印象ですけど、別にインドアな印象も受けないというか。ああ、顔面ドアップというわけではなくて、バストアップくらいの。着てたのは多分、青めのチェックのシャツだったかな。外で撮った写真みたいなんですけど、緑っぽかったので自然の豊かな場所なのかなと思って、森林とかで録音した音声のアルバムなのかなって思いました。

実際に聴いてみると本当にその通りで、風が吹いてガサガサと揺れる木々の音だったり、名前はわからないですけど、鳥の声が聴こえたりだとか、そういうタイプの音声で。癒されるなあって、そのアルバムを再生しながら布団に入ったんですね。

寝付きは悪い方なので、しばらくは耳を澄ませて環境音を聴いてしまうんですよ。音質がよくないと、あああんまりいいマイクじゃないな、とか思っちゃったりもして。そのアルバムも、やっぱり個人制作っぽい質感で、ハンディレコーダーかなんかで録ってるんでしょうね。もちろん聴くに堪えない程ではないので、そのまま心を無にして眠りにつこうと努力してました。

そういえば言っていませんでしたけど、その音声には足音も入っていて、製作者はそのあたりを散歩しながら録音しているようでした。ざっ、ざっ、と土を踏みしめる音も、心地のいいものです。どんな景色を見ているんだろうなんて思いながら、15分くらい経った頃でしょうか。ちょっと違和感があったんですよね。

遠くから、人の声がするんです。
それも、叫び声のような声。

まあ、森だか山だか分かりませんけど、たしかにどんな人がいてもおかしくないですよね。気持ち悪い虫でも見てしまったのかもしれませんし。ただ、睡眠導入に使っている音声に叫び声が入っているんだから、こっちとしては気分が悪いですよ。配信をかける前に気づけなかったのかな、とか思いながら、そこからより注意深くその音声を聴いていったんです。

製作者は、ゆっくり確実に地面を踏みしめてそこを歩いているようでした。心地のいい木々の音が続くんですが、たまにその人の声のようなものが聞こえて。その間隔は徐々に短くなっていって、声も少しずつ近くなっているように思えました。

何を言っているかはまだ分かりません。でもずっと同じ人の声です。男の声でした。妙に切迫していて、やっぱり一言で言い表すなら「叫び声」というのが一番しっくりくるような、思わず耳を覆いたくなるような声でしたね。でも、ここまでくるともう気になってしまって、嫌なんですけど、その声の実態をどうにか捉えようとしてしまうんですよ。

そして、遠くでガサッと音がしたところから、その叫び声は徐々に鮮明になっていくんです。

「ぎゃあ、助けてくれ。助けて」

製作者は、随分と長いこと歩いていたと思います。その頃には、もうはっきりと叫び声が聴こえるようになってましたよ。多分、その叫び声の主は転んだか何かで、動けないんでしょう。もう、木々の音も鳥の鳴き声もほとんど聴こえません。ほとんど叫び声だけの音声です。

「来るな。誰なんだ、お前は。」

どんどんとその声は大きくなり、ついに泣き喚くその声を遮るように、

ごっ。

と、硬く鈍い音が響いたんです。ぱたりと叫び声は止んで、また静かに自然の音が聞こえだして。そして程なくして、フェードアウトしながらそのトラックは終了して、次の曲に移りました。

そりゃあもう、途中からは聴いていて冷や汗が止まりませんでしたよ。でも怖さで固まってしまって、再生を中止することもできなくて。感覚はどんどん鋭くなって、その光景を想像してしまうんです。

何が行われていたかは実際にはわかりません。もちろんその音声全てがフィクションで、そういう作品だったのかもしれませんし。

でも、僕には手にとるように分かりましたよ。
人に斧だか鉈だか、重たい凶器を叩きつける感覚が。

もちろん、僕はそこでアルバムの再生を止めましたし、履歴も全部消しました。だから、その音声があることの証明はできません。でも、今でもあの叫び声と、鈍い音は覚えています。もし他のトラックも全て「そう」なのであれば、10人弱も被害者がいることになりますからね。僕だって信じたくないですよ。

勘違いしないでくださいね。そんな滅多にある事じゃないですよ。それからそういう森林の音をBGMとして選ぶことは無くなりましたけど、環境音は相変わらず寝る前に流してますよ。それ自体はおすすめなんです。

ただ、気をつけてくださいね、って話です。
でも環境音を聴いていて、人の声が聴こえてきたらそれ以上聴くのはやめた方がいいと思いますよ。

その人がどうなっちゃうか、わかりませんから。

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