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投手を推すきっかけはなんでしたか?

1 はじめに
 その投手を推すきっかけはなんでしたか?と聞かれて何と答えるでしょうか。投手を「応援する」きっかけでも「好きになった」きっかけでもない「推す」きっかけ。最近では「推す」という言葉は広く使われるようになりました。わたしもこの「推す」という言葉は使いやすいと思っています。前述のとおり,「応援したい」だけでも「好き」だけでもないそれを超越した感情が込められていると考えています。
 わたし自身のきっかけや周りの野球ファンの友人・知人等から聞き取り調査を行った結果からさまざまなタイプの「きっかけ」があることがわかりましたので,そのきっかけを紹介します。


1)出身が一緒だから

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 出身地に魅力がなければないほど,同郷の野球選手というのはうれしいものです。わたしの出身である栃木県は,ブランド総合研究所が発表した第15回「地域ブランド調査2020」で魅力度都道府県ランキング最下位となってしまいました。私自身も幼き頃から栃木県といえば可もなく不可もない県であると感じながら育ってきました。そんな栃木県からプロ野球選手が生まれたとなれば,無条件で応援したくなります。甲子園で活躍した投手がそのままプロ野球選手になったらそれはもうほぼ自分の息子のような存在となってしまうのです。
 栃木県出身といえば栃木の星・今井達也投手ですが,未だに今井達也投手凱旋試合である埼玉西武ライオンズ主催の栃木県での一軍の試合が開催されていません。平和で穏やかな季節が訪れた時には,栃木県民全員が首を長くして待っておりますので開催のご検討をよろしくお願いいたします。

2)はじめて行った試合で活躍していたから

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 初めて観に行った試合で先発をしていたから,あるいは初めて行った試合で救援投手として活躍していたから等の理由です。生まれたての雛鳥が初めて見た鳥を親鳥だと思ってついて歩くように,初めて観た試合で活躍していた投手に対し「推しだ!」と思うすりこみ現象です。
 誰しも最初は野球場に行ったことがなく,どの投手が推しなのかその姿さえ知りませんが,投手の輝く姿が目に入ってきた瞬間本能的にその投手を推しとして覚え,その後も推し続けるのかもしれません。


3)夢に出てきたから

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 全くピンとこない理由かもしれませんが,わたしの周りではポピュラーな理由です。特に今まで試合でみかけてもなんとも気にかけていなかった投手が,ある日突然夢に出てきて姿を見せてきたら…目が覚めた瞬間から,「推し!」となるそうです。その夢の中での姿が,自分に対して優しかったかとか一生懸命野球を頑張っていたかとか野球と全く関係ない登場の仕方だったとかそんなことは一切関係なく,夢に登場したら推しになります。
 平安時代の貴族の藤原敏行朝臣はこんな歌をよんでいます。
住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ (小倉百人一首)
 平安時代は好きな相手が夢に出てくるのは相手が自分を想っているからと考えられていたようです。自分では気づかぬうちにその投手を想っており,そして夢に見ることで気づく推し心もあるのかもしれません。


4)入団の経緯を見て

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 新聞記事やテレビ番組インタビューなどの,投手の入団に至るまでの情報から「この選手を推していきたい…」と思うものです。シンプルに「社会人出身の投手にグッとくる」というものから,ドラフト会議の日に放送されている「お母さんありがとう」の番組を観てその投手が入団に至るまでの経緯に胸打たれた…というものまで様々です。埼玉西武ライオンズの伊藤翔投手は,高校卒業後,独立リーグ行きを決めました。それは,大学に進学するとドラフトは4年後,社会人に進むと3年後になってしまいますが,独立リーグに進んだ場合は1年目から指名対象となるから,という理由でした。これを知ったとき,なんてガッツのある若者なんだ…とわたしは感銘を受けたものです。
 このように,投手のこれまで歩んできた人生や意志を感じることがきっかけで推し始めることもあります。


5)顔が好きだから

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 球場や写真やポスターあるいはインターネット上の画像を見て「いい顔…すき…推し…」となってしまうものです。ただ,これは「顔がととのっている投手だから」おこることではありません。「自分がいいなあと思う顔だから」おこる現象です。人を見た目で判断してはいけないこと,また見た目から勝手なイメージを作ったりするのも避けた方がよいとわたしは考えています。しかし,世の中にある人間や動物の見た目・二次元のキャラクター・色・美術品など,それを一目見て「自分の好みである」と思うのは感覚的に発生するものだと思っています。
 顔が好きだという理由だけで選手を応援しているファンのことを「顔ファン」などという言葉で揶揄することがありますが,たとえ投手の顔がきっかけであっても,それが野球を観るきっかけになるのであればよいと思っています。顔が好みの選手がいるという理由だけで,球場に行きグッズを買いファンクラブに入ってしまうということはないでしょう。そこまでしてしまっていたら,あなたはもう立派な投手のファンであり,野球ファンです。


6)あとから思い出したように

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 試合を見ているときや選手が出演しているバラエティーを通して投手をしっかり観ているときではなく,なんとなくその日観た試合を思い出していたり,新聞記事を読んでいたりしているときに「あれ…この投手わたし好きだな…推しだ…」とふとしたきっかけや瞬間に気づき,推しになってしまうものです。
 このきっかけで投手が推しになった場合,しばしば同時に発生する感情が「もっと早くこの投手を推していればよかった」という後悔の念です。もっと早くその選手の魅力に気付いていれば,入団,初めてのキャンプ,二軍キャンプ,ファームでの試合,フェニックスリーグ,その投手が育つまでの過程など様々なものが観られたはず…また多くのグッズが買えたはずと思うのです。悔やむ気持ちもわかりますが,その投手を何らかの形(現役選手コーチ解説者問わず)で今この瞬間から推せることを素晴らしさを感じましょう。気づくのに遅すぎるということはありません。

7)横のつながりを感じて

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 先発投手であれば先発投手同士のつながり,中継ぎ投手であればブルペン内での投手同士の人間関係を知る中で様々な投手を知っていき,推しが増えていく…いわゆる「ねずみ算式」な推しの増え方です。
 推しの先発投手がある先発投手にアドバイスを受けており気になり始めた,推しの中継ぎ投手が救援に失敗した際,ある投手にねぎらわれており気になり始めた…その他にも,推しの投手が調子を落としてファームで調整している間に仲良くしていた投手が気になってしまうことや,推しの投手の同期入団の投手が気になってしまったり,推しの投手と同じ世代の投手が推しと切磋琢磨しあっている姿を見て気になってしまうなど,選手の人間関係を知れば知るほど推しは増えていってしまうのです。先発投手を推していたとしても,その投手が中継ぎをすることになりブルペンの投手に注目し始めてしまう…ということもあります。これは今までに書いてきた中で一番危険なきっかけです。

8)なんとなく直感

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 投手を球場で観て,顔が好みなわけでも活躍していたわけでもないのに,その投手の情報を一切知らないのに,ただそこにいるだけの投手を見て「推し…!」となってしまう,今まで述べたきっかけの中でもいちばん説明し難いきっかけです。わたしの周りにはこのきっかけをもつ人間が多かったです。詳しく聞いてみると,推しの投手を推すきっかけについても詳しく覚えていないし,現在その投手を推す理由についても,直感でその投手を好きだと感じているからという理由であり,うまく説明できないというものでした。推しの投手だからその選手の顔・投球スタイル・手指・話し方が好きであり,まさに「好きになった人がタイプ」状態です。
 さらにこのきっかけで推し始めた投手に対しては,とてつもない想いを持ちながら推していることもわかりました。それがなぜなのか説明できないからこそ理屈抜きで推してしまうのかもしれません。

2 おわりに
 投手を推すきっかけはさまざまです。推し投手の数だけきっかけがあると思っています。また,試合の数だけきっかけが,試合の数だけでなく日常の中にも投手を推すきっかけが存在すると思っています。野球選手はとても魅力的で素晴らしいものです。日々の中からきっかけを見出したら,推しの投手はどんどん増やしていきましょう。そうすることで,とんでもない負け試合でも何気ない日常でも楽しく感じられる瞬間が多くなるとわたしは思っています。
  また、きっかけは些細なことで良いと考えています。きっかけがなんであれ、推していること自体がそれはすばらしいことであり,また,投手を推すことで得るものが沢山あると思っています。
  それではみなさま,すてきな野球ライフ&人生を!



画像/文 打子


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