民訴法:R6 予備試験 再現答案

第1 設問1
1 民訴法157条1項(以下、法名省略)の要件は、「故意または重大な過失」、「時機に後れて提出した」こと、「これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認め」られること、である。
2(1) 「時機に後れて提出した」とは、もっと早く提出すべきであったし、実際に提出する機会があったことをいう。「訴訟の完結を遅延させることとなる」とは、当該攻撃防御方法の提出がなければ直ちに審理を終結できる段階にあることをいう。「重大な過失」の有無は、攻撃防御方法の性質等の諸要素を総合考慮して判断する。
(2) 本問では、Yが相殺の抗弁を提出したのは、結審が予定されていた口頭弁論期日であるので、相殺の抗弁の提出がなければ直ちに審理を終結できる段階にあったといえ、「訴訟の完結を遅延させることとなる」の要件を充たす。
(3)(ア) L2が主張する通り、基準時後に相殺権を行使したことを請求異議の訴えの異議事由とすることは、前訴確定判決の既判力(114条1項)によって遮断されず許されるとするのが判例である。これは、①相殺に供する自働債権は前訴の訴訟物とは別個独立の債権であり、前訴の訴訟物に付着する瑕疵ではないこと、②相殺の抗弁は、自働債権の消滅を伴う実質敗訴であり、早期に提出することは期待できないこと、③相殺の抗弁を認めないと、双方が強制執行を掛け合う事態となり、訴訟経済に反すること、等が理由である。
(イ) 本問では、口頭弁論をスムーズに行なうために、弁論準備手続による争点整理がされている。しかし、上記の理由①②③は、弁論準備手続を経た場合であっても妥当する。
(ウ) たしかに、相殺の抗弁を仮定的抗弁として提出しておくべきだったとも思える。しかし、仮定的抗弁であっても、実質敗訴である主張をすることは、裁判所に対して弱腰な印象を与え、Yによって事実上の不利益を与えるおそれがある。そのため、上記②の理由は、本問においてもなお妥当する。
(エ) そうだとすると、本問において、相殺の抗弁をもっと早く提出すべきであったとはいえず、「時機に後れて提出した」の要件を充たさない。
3 以上より、Yによる相殺の抗弁の提出は、時機に後れた防御方法の提出にはあたらないため、裁判所はこれを却下すべきでない。
第2 設問2
1(1) 訴訟告知を受けた者が訴訟に参加しなかった場合、53条4項によって、その者に当該訴訟の裁判の「効力」(46条1項柱書)が及ぶ。Aに、前訴確定判決の「効力」が及ぶか。
(2) 「効力」は、補助参加人に及ぶものである(46条1項柱書)以上、被告知者が補助参加の利益(42条)を有する場合に限り、「効力」が被告知者に及ぶと解する。
(3) 本問では、被告知者であるAは、前訴において補助参加の利益を有していた。
(4) よって、前訴確定判決の「効力」は、Aに及ぶ。
2(1) 「効力」の意義をいかに解すべきか。
(2) 46条の趣旨は、訴訟で主張・立証の機会を与えられた参加人に、衡平の見地から敗訴責任を分担させる点にある。そこで、「効力」とは、参加人が被参加人に対して判決の不当を主張することを禁ずる参加的効力であると解する。参加的効力は、①被参加人が敗訴した場合に 、②被参加人と参加人の間に生じ、③判決主文における判断のみならず、主文を導き出すのに必要な判決理由中の判断にも及ぶ。参加人と被参加人の間で問題となるのは、判決主文中の判断であることが多いためである。「主文を導き出すのに必要な判決理由中の判断」は、 主要事実に係る認定と法律判断をもって必要十分である。
3(1) 「AはYから代理権を授与されていた」というAの主張は、「効力」によって封じられるか。
(2) 前訴確定判決において、裁判所は、判決理由中において「AはYから代理権を授与されていなかった」という判断を示している。代理権の有無は、前訴確定判決の主文を導き出すために必要な主要事実(民法99条)である。そのため、Aが、「AはYから代理権を授与されていなかった」という前訴確定判決の理由中で示された裁判所の判断に矛盾することを、後訴で主張することは「効力」によって封じられる。
(3) よって、Aが、後訴で「AはYから代理権を授与されていた」と主張することは、「効力」によって封じられる。
4 Xは、後訴において、以上のような主張をすべきである。
以 上

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