わらびもち

20代女性、自己満足の読書記録・感想文。たまに日記。

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最近の記事

読書記録_ユートロニカのこちら側

『ユートロニカのこちら側』 小川哲著 早川書房  監視社会で暮らす人々やその周りを描いた連作短編集。『地図と拳』がずっと気になっていたけれど、はじめて読む作家の作品としては分厚すぎて尻込みしていたので、まずはデビュー作のこちらから。ハヤカワSF大賞受賞らしい。  正直に言うと、これが大賞って本当?と思ってしまった。期待が大きすぎたのかしら。ほかの分厚い作品を読む弾みになるはずが、辞めておこうか迷っている。成長(なんて上から目線な言い方)が見えそうな点では気になるのだが。

    • 日記_ケーキを食べる

       いちごの季節はアフタヌーンティーに行きたくなる。 ◯ウェスティン恵比寿  昨年のリニューアル後初訪問。テラスのスイーツビュッフェの頃と変わらず、見た目も味も重量も都内最高峰だとおもう。次の日の胃袋を前借りして訪れたいお店。  上段奥から反時計回りに ・フレジェ …定番。ピスタチオバタークリームの濃厚さといちごのフレッシュさの対比が鮮やか。 ・苺とピスタチオのリコッタチーズクリーム…リコッタときいて思い浮かべるよりもチーズの主張が強い。上にのったルビーチョコの食感が楽し

      • 読書記録_ビューティフルからビューティフルへ

        『ビューティフルからビューティフルへ』 日比野コレコ 河出書房新社  話題になっていた、日比野コレコの一作目。  ネグレクトされて育ち進学校に通う「ナナ」、大切に育てられるあまり歪んだ嗜好を持つ「静」、自分の考えを持てずに友人の腰巾着として振る舞う「ビルE」の3人が、「ことばぁ」のもとに通い、交流する。この3人の私小説が本書になったという形式。  読む時の音やリズムを、相当こだわって練り上げられた文章。タイトル、結末の「ビューティフルからビューティフルへ」が何を意味するか、

        • 日記_古文・漢文は高校生に必要か

           「古文の勉強が役に立ったことは一度もない」という趣旨の発言が、少し前に話題になった。これについて思うところをつらつらと。  わたしの立場は必要派だ。理由は大きく分けて2つ挙げる。②は理由じゃないかもしれない。 ① 自国の文献を読む術は身につけるべき ② 古文・漢文ほどタイパの良い教科はない ① 自国の文献を読む術は身につけるべき  よくいわれることだが、「愚か者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。古い文献を読む術がないと、歴史に学ぶ以前の問題になる。現代の日本語が出来上が

          読書記録_QJKJQ

          『QJKJQ』 佐藤究著 講談社 『テスカトリポカ』を読んだときに、佐藤究のSFも読んでみたくなった。どことなく伊藤計劃みを感じたからかもしれない。語り口や展開に似ているところはないけれど、作品をつくる温度のようなものが近そうだと感じた。『屍者の帝国』の続きを佐藤究が書いたらどうだったのか、それが読みたい。  ということで、新作の『幽玄F』のまえに、『QJKJQ』と、『Ank:』から攻めることにした。SFかどうかはさておき、出世作のようなので。以下、ネタバレアリの感想。

          読書記録_QJKJQ

          読書記録_黄色い家

          『黄色い家』 川上未映子著 中央公論新社  川上未映子のノワール。表紙の鮮やかなレモンイエローが書店で目立つ。本屋大賞にノミネートされたとみて驚いた。いかにもエンタメな作品が選ばれるイメージだったので。以下、ネタバレ有りの感想。  貧困家庭育ちの主人公の花が、蘭・桃子ら家出少女と、不思議な魅力のある黄美子さんと一緒に暮らすようになり、暮らしを守るため、犯罪に手を染めていく物語。  ひとが変わるきっかけはなんだろう。その時にはわからなくても、ふりかえってみれば、これが原因

          読書記録_黄色い家

          読書記録_ウォーク・イン・クローゼット

          『ウォーク・イン・クローゼット』 綿谷りさ著 講談社  綿谷りさの本は、大体とても可愛らしい装丁だ。本棚にならべると、そこだけキラキラする。「綿谷りさ」という名前の字面も、ふわふわしたうさぎのようなものが思い浮かぶ。  その実、緻密な文体で、人の業がこれでもかと描かれている。きっと、見た目が可愛いからなんとなく読み始めて、衝撃を受けるような女の子がいると思う。わたしもそういう出会い方をしたかった。  『ウォーク・イン・クローゼット』には、表題作と、『いなか、の、すとーかー

          読書記録_ウォーク・イン・クローゼット

          読書記録_蝶々の纏足/ぼくは勉強ができない

          『蝶々の纏足・風葬の教室』 『ぼくは勉強ができない』 山田詠美著 新潮文庫  思春期ならではの特権意識。根拠のない自信。他人からの視線への過剰な意識。誰もが身に覚えのあるだろう、そういう感覚の描写が、山田詠美は、ちょっと嫌になっちゃうくらい上手い。  はじめて『ぼくは勉強ができない』を読んだとき、殴られたような気がしたのを覚えている。なんて嫌味な描き方をするんだろう。それでいて、どうして中高生の感性になじむものがつくれるのだろう。  あれから10年以上が経って、久しぶりに

          読書記録_蝶々の纏足/ぼくは勉強ができない

          日記_作中作面白くない問題

           作中作面白くない問題、すなわち小説や映画等の創作物に登場する小説や歌等の創作物が面白くなかったり、魅力がなかったり、説得力にがないことがあるのは一体どういうことなのか。作品の本筋を多層的に深めるためにあるはずなのに。  この問題にあてはまらないものももちろん多い。けれども、その作品自体は面白いのに作中作は微妙な作品が、妙に多い(気がする)。作品自体が微妙で、作中作も微妙なものは言わずもがな。  具体例と考えられる原因を挙げてみる。憶測だから、結論もなにもない。 具体的に挙

          日記_作中作面白くない問題

          読書記録_空白を満たしなさい

          『空白を満たしなさい』 平野啓一郎著 講談社  電車で向かいに座っている人の表紙が目に留まった。ゴッホの自画像。ちょうどゴッホ展もやっていることだし、『本心』は面白かったし(『マチネの終わりに』はあまり好みでなかった)、読んでみた。  ジャンルでいうなら、かなりサスペンス・ミステリー寄りの啓蒙書だろうか。  突然、死者が蘇るようになった世界で、主人公の徹生もまた蘇った。彼には、死ぬ直前の記憶がない。自殺なのか、殺されたのか、あるいはひとを殺してしまったのか。その理由は。そ

          読書記録_空白を満たしなさい

          読書記録_女のいない男たち

          『女のいない男たち』 村上春樹著 文春文庫  映画「ドライブ・マイ・カー」を観ていて、村上春樹っぽいなと(前半の性描写の多さと岡田将生演じる高槻が、音さんについて語る時の語り口のあたりが特に)感じたと思ったら、やはり村上春樹の『女のいない男たち』が原作らしい。ということで、読んでみた。  主に、映画の元になっていると思われるのが、同名の短編『ドライブ・マイ・カー』と『シェエラザード』。妻の浮気現場を目撃するのと、旅をして妻を失った苦しみと向き合うあたりは、『木野』も影響し

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          読書記録_イヌはなぜ愛してくれるのか

          『イヌはなぜ愛してくれるのか 「最良の友」の科学』 クライブ・ウィン著  犬派か猫派か、即答できないくらいどっちも好き。フサフサした生き物はかわいい。人間ももっとフサフサしていればよかったのにと思う。  本書では、イヌ大好きな動物行動学者の著者が、イヌが人間大好きにみえるのは本当にそうなのか、その理由は、イヌとは何か、という疑問に対して、動物行動学をはじめとして、遺伝子やMRI、神経伝達物質、人類史などさまざまな観点から迫っていく。  このアプローチの多様さも面白いけれど

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          読書記録_木になった亜沙

          『木になった亜沙』 今村夏子著  「木になった亜沙」「的になった七未」「ある夜の思い出」の3編。  どのお話もなんとなく少し物悲しい。非現実が現実にじんわりと入り込んでくる。非現実は、登場人物たちの主観によるものかもしれない。そして、淡々とした筆致とシュールな面白さ。『むらさきのスカートの女』と同じ路線で、今村夏子さんらしい作品だと思う。  「木になった亜沙」の亜沙は、絶対に手から食べてもらえず、作ったものも食べてもらえない。「的になった七未」の七未は、絶対に何かを当てら

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          読書記録_ハンチバック

          『ハンチバック』 市川沙央著 文藝春秋  文章に込められた、あまりのエネルギーの密度に圧倒された。読み終えてしばらく、感想を書かなければと思いながら、一体何を書けるだろうとも思った。わたしはあまりにも無知だ。  障碍当事者による健常者主義の社会への恨みつらみがテーマ、と括ってしまうのは簡単だが、もちろんそれだけではない。  なぜかわからないけれど、世間は障碍のあるひとたちに、清廉潔白であることを期待しがちだ。テレビ番組なんかでは、ほぼ必ず、病と前向きに闘うひと、とされる。

          読書記録_ハンチバック

          読書記録_本心

          『本心』 平野啓一郎著  平野啓一郎の最新作。  安楽死が合法となった近未来の格差社会日本で、亡くなった母のAIをつくり、母の本心を探る。社会問題てんこもりの純文SFミステリー。こういう作品に出会うと、ジャンル区分の限界みたいなものを感じる。 以下、一部ネタバレありの感想。    「本心」、すなわち「ほんとうのこころ」とはそもそも存在するのだろうか?という疑問を抱きながら読み始めた。  どこからが自分の考えで、どこからが他人の受け売りなのか、読んだものの引用なのか、明確に

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          読書記録_ティファニーで朝食を

          ティファニーで朝食を トルーマン・カポーティ著 村上春樹訳 新潮文庫  自由でありたい、といつも思う。なにかに縛られたくないし、なにも押し付けられたくない。なににも消費されたくない。そういう煩わしさから解放されたとして、わたしの芯となるものはあるのだろうか。自由でありながら、社会で真っ当にやっていくことは、自由を得ることよりも、むずかしいのかもしれない。『ティファニーで朝食を』を読んでいて、そんなことが思い浮かんだ。 『ティファニーで朝食を』は、自由奔放の代名詞のような女

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