コミュニティとしての農
移住してきて1か月が経った。
黄金の絨毯であった麦畑は、ポツポツと刈り取られていき、一部はトウモロコシに姿を変えた。土地の様子、植物の変化や、花々の匂いが季節の移ろいを感じさせてくれる。山を仰ぎ、海に抱かれ、心地よさと安心を感じらる。
このまちが好きだという感覚。いつぶりだろう?
自分は親の転勤で各所を点々として過ごしてきたので、ふるさとと呼べるところがなく、ふるさとの景色といって思い浮かぶものもない。
だからこそ、ここが自分のふるさとになる、そうしたい、と思っている。
家の近くで借りている市民農園のこと
私たちの土地の隣で野菜を育てているSさん(おじいさん)は、私たちが農園初心者なので色々と気にかけてくれる。風除けのために、苗の周りに細い支柱を立てて、それに空になった肥料袋の底を切ったものでカバーをみんなしているのだが、私たちはその袋が圧倒的に足りない。それを見越したSさんは使ってない肥料袋の束をくれた。ありがたい…
里芋(タネ芋)やるよ~。いくつか余ったけん。
赤紫蘇はいらんか?勝手にたくさん生えてくるとよ。
そうして、Sさんのおこぼれをもらいながら畑が完成していった。余ったからあげる。余剰の共有。お互いに助かる。なんか素敵。
はたまた、となりの麦畑の刈り取られた後の麦わらも、勝手に持って行っていいとのこと。マルチングをどうしようと思っていたので、教えてもらって助かった。
週末は沢山の利用者で賑やかになる。先日、向かいの区画のおばさんに初めて会った。私たちが「ウリハムシおらんくなったくない!?」、「あ、ピーマンも元気になった!」とか何だかんだギャーギャー言いながら作業をしていたら、その方が「楽しいですねぇ」と声を掛けてきた。初対面の第一声が「楽しいですね」。そう、楽しいんです。楽しんでいる人たちの集まりなのです。
そのおばさんも、農園歴は長いみたいで、隣のSさんとも仲良し。
「エダマメはどんな感じでやってましたか?」
「トウモロコシは、ネットをした方がよかよ。アナグマが食いにくるけん」
「私は、キャベツはこうやってましたよ」
と、互いに教え合う。
そういう会話を交わし、経験を共有し合い、アドバイスし合う。市民農園は「好きなもの」を軸に生まれるコミュニティの一種だ。そう感じた。
農「業」だけじゃない。野菜づくりを楽しむ「農活」。そうそう、これがしたかった。
市民農園は、一人ひとりが思うままに自分の土地を"デザイン"して、個性を持った区画が生まれ、それが集まることで多様性が創り上がる。こういう、「雑多な」土地利用が好きだ。それぞれの思いが詰まっている。
そんなコミュニティに、新参者ですが、溶け込んでいけますように。大地に根を張っていけますように。
<おわり>