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欠けた月に見えた世界の話。
数ヶ月前から、白神こだま酵母のパン作りを習い始めた。
出会いは3年前、ふと目にしたパンのWebサイト。
味噌汁と一緒に食べでも美味しいシンプルなパン、ご飯の代わりになるパンとして紹介されていたそのパンは、白神こだま酵母を使い作られたものだった。
白神こだま酵母は、地元秋田と青森の県境にひろがる世界遺産白神山地から採取された野生酵母。
幼い頃、遊びに行っていた『白神山地』と、大好きな『パン』が繋がったことに大きな喜びを感じ、即、webを作っていたパン屋に連絡。
パン屋さんは、白神こだま酵母を使ったパンを日本に広めるために精力的にパンを作り、パン教室講座なども行なっている会社だった。
私は、白神こだま酵母のパンを紹介するイベントをさせて欲しい、パンを紹介させて欲しいとお願いした。
今から思えば、よくそんな動き方できるな!と思う勢いだが、パン屋の社長さんは快くOK。
パンのイベントにも、大量のパンを無償提供してくださり、とても楽しい味噌汁とパンのイベントが開催できた。
なんとも、なんとも、有難い話。
美味しいご飯を皆で囲んで、ワイワイがやがや、笑いながらパンを頬張る。
当たり前だと思っていたことが、当たり前に出来なくなってしまうなんて、あの頃は思っても見なかった。
イベントから3年。
もう一つ新しい食への向き合い方がしたくなっていたタイミングで、近くに白神こだま酵母のパン教室を発見した。
かつてお世話になったあのパン屋の社長さんに連絡して聞いてみると、やはり系列のパン教室。
しかも、パンだけでなくチーズやお酒など幅広く食に詳しい先生とのこと。
人との出会い、新たなこととの出会いが少なくなった今、少しでも自分の幅を広げるきっかけになればいい。
そう思い、思い切って、始めて見ることにした。
時間がかかる、手間がかかる、買った方が絶対美味しいと思っていたので、パンはもっぱら『買う派』だった私。
いざ習い始めてみると、全く見えていなかった世界が見えてきた。
小麦粉に触れ、生地に触れ、感覚を研ぎ澄ます。
少し湿度が高かったり、気温が低かったりするだけで、生地の様子が全く変わる。
一緒に混ぜる砂糖の量を少し増やすだけでも、生地は緩み、全く別物と化す。
発酵しすぎると、勿論、もとには戻らない。
幼い頃訪れた、あの少し湿った薄暗いブナ林の中に眠っていた酵母が
目の前のパンをむくむくと大きく膨らましていると想像すると、なんだかまだ不思議な感じがした。
膨らんだパンからほんのり香る、甘い香り。
目の前の白い塊は生きている、刻一刻と変化していることがわかった。
ただでさえ雑破な性格の自分には、酵母という生き物はとても繊細で、パン生地に触れるだけでドキドキした。
五感をフルに使い、丁寧に向き合う『つくる』という行為。
そういえば、日々生き物に触れることが少なく、繊細に感じることから遠ざかっていた。
パン作りはとても難しく、そして小さな子供に戻るような感覚をもらえる時間で、とても楽しかった。
『月は欠けているのではない。
欠けたように見えるところに在るものを、まだ見たことがないだけなのだ。』
ふと、かつて読んだ本に書いてある一文を思い出す。
実は同じ形の丸い月。
欠けていると思い込んでいる部分も、角度を変えたり、周りが動いたり、少しのきっかけでそこに「在る」ものが見えてくる。
決めつけていた世界に、また異なる世界が見えて来る。
これまでと同じように動けない今だからこそ、これまでとは異なる動きができるかもしれない。
小さな頃訪れたあのブナ林と
パン屋さんとの出会いと
パン教室の発見と
目の前のパン。
一体、いつから繋がっていた?
実は、ずっとそこに在った?
そう思うと、動けぬと思い込んでいる毎日のどこかに、気付いていない日常のどこかにも、何かがある気がして、宝探しみたいでワクワクしてくる。
次はどんな世界が見えるだろう。
パンと一緒に体もふくふくしてきた気もするが、気付かないふりをして。
とりあえず、暫くはこの美味しく楽しい世界を満喫しようと思う。