運命を変えたあの夏の一本。
〝好きな炭酸〟と目にして真っ先に思い浮かんだのはビール。
とにかくビール党の私。
週末、黄金色の液体をもこもこの泡を立たせながらグラスに注ぐ瞬間、頑張るスイッチがオフになる。
この夏は異常なほど暑いけれど、冷えたビールがいっそうおいしく感じられるのだけは嬉しいことかもしれない。
留学していたドイツでも、この大好きな炭酸飲料を満喫した。
まず、スーパーに並ぶ種類の多さにワクワク。
今では日本でもマイクロブルワリーが増えたけれど、ドイツではそもそもレストランで醸造しているところが多く、そのフレッシュさに感動したことを覚えている。
地域によってスタイルが違うから、観光がてらご当地ビールを飲むことが出掛ける楽しみの1つになり、思えばその習慣は今でも続いている。
そんな私だけど、元々はビールが好きだったわけではない。
成人してお酒を飲み始めた頃は、ビールが苦手な多くの人と同様、苦さがダメだったのだ。
飲み会での乾杯の1杯を乗り越えたら、以降は甘みのあるお酒ばかり飲んでいた。
それがいつしか、メニューを見るまでもなく「ビール!」と注文するようになり、
乾杯で形だけ注いだ誰かのビールも引き受けるようになり、
飲み会の終わりまでビールで完走することも珍しくなくなったのは、なぜか。
今でも鮮明に覚えている。
ある夏の日。
惣菜屋でのバイト帰り、
夕方の買い物ラッシュの接客疲れと揚げ物や焼き鳥の脂や臭いを纏ってグッタリとしながら自転車を漕いで家路を目指していた。
そこへ突然やってきた抗いようのない衝動・・・
「ビール飲みたい!!!」
途中のコンビニに駆け込み、缶ビールを買った。
自分でビールを買ったことも一人で晩酌したことも初めてだった。
疲れた体にキリっとした炭酸とビールの苦みが電気治療のように効いた。
最高だった。
CMのような「ぷはぁ~っ」と言う感嘆の声をあげた気がする。
人生を通しての嗜好を決定づけられた運命の瞬間。
この炭酸飲料を手に取るのは、あの感動にずっと焦がれ続けているからかもしれない。
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