今だからこそ「匂い」が伝わるスポーツ映画を見たい --- エニイ・ギブン・サンデーとか、臭いやつ。
コロナの何がツライって、映画館が開いてないこともそうなんだけど、スポーツが見られないことですよね。無観客試合も始まりつつあるけど、テレビとか、YouTubeとかでなくて、実際にその現場にいって生で見たい。
逆転ホームランがファアルポールを叩いた瞬間、ブザービーターがネットを揺らした瞬間、その瞬間に選手と一体になって爆発する。そういう体験を早く"現場"でしたいのです。
スポーツ映画はたくさんあるんですが、この選手と一体化して爆発する感覚、もしくは選手や監督の生き様がダイレクトに味わえる映画はそんなにないかなーと。重要なのはスクリーンから醸し出される「匂い」。
多分、男臭いとか汗臭いとかいろいろあるんだろうけど、逆転や勝利、栄光の瞬間を印象的に描くためにも、そこに至る、またはそこから転げ落ちる「生々しさ」を濃密に書くからこそ、映画の「匂い」がきついんだろうなーと思ってます。
妬み、自慢、貪欲、自己顕示欲。それらすべてがマックス臭・「エニイ・ギブン・サンデー」
そういう匂いがきついスポーツ映画の個人的No.1は、オリバー・ストーンの「エニイ・ギブン・サンデー」。まあ、オリバー・ストーンの映画はすべて匂いがきついのですが、アル・パチーノ、デニス・クエイド、キャメロン・ディアス(とそのお母さん)、ジェイミー・フォックス、全員、立っているだけで匂いが届くレベルのラインナップ。
ちなみに内容は、アメリカ・プロフットボールの負け続けのチームが、プレーオフに出るために成長していくというか。。。身売りとか、怪我とかチーム内不和とかを書いていくのだけど、常にテンションマックスで話が進んでいきます。
話が終わるまでずっとスクリーンからの圧やシリアス感がすごいんだけど、そのへんはオリバー・ストーンなのでショウガナイとして、そのぶん話のテンポが良いので見やすい映画です。個人的にはプラトーンより好み。
撮影も他のオリバー・ストーン作品よりもポップでおしゃれ。ロン・ハワードとよく組んでるサルヴァトーレ・トティーノが撮影監督だからかなと。
いつもどおり、ロバート・リチャードソンが撮影してたらもっと、ケレン味たっぷりで、ねっとりした雰囲気のスクリーンになったはずで、それはそれで見てみたい。
この作品、確かに味や匂いは濃いけど、後味さっぱりなので最初に見るにはおすすめだと思います。
いやー、名スピーチ。熱い。
うーん、ブルーレイ出てないのかな?いま配信で見れるのはU-nextだけです。U-next優秀。
男気臭の権化バート・レイノルズを堪能するなら「ロンゲスト・ヤード」
匂いがきついという意味では、おそらく外せない映画がロバート・アルドリッジの「ロンゲスト・ヤード」。
主演のバート・レイノルズと言えば昔の男気臭い俳優さんだろうという知識はあったものの、実際にスクリーンで確認したのは「ブギー・ナイト」からで、おじいさんの印象。
この映画では、おそらく男臭最強・脂のりすぎ段階のバート・レイノルズが見れるわけで、いやー、「ブギー・ナイト」のポルノ帝王ジイさんも濃いけど、若い頃のほうがさらにいい意味で臭いなと。
映画のストーリー自体は、刑務所に入れられた元アメフトのスター、バート・レイノルズが囚人を集めてアメフトチームをつくり、看守たちのチームに立ち向かうというもの。まあ、話自体はそんなにストレートではなくて、看守たちが勝つためにバート・レイノルズを取り込んだりするの、しないの、といろいろこじれた話になるんですが、最後はとても爽やかで、スッキリする終わり方をするので、こちらもおすすめ。権力と対峙する刑務所映画としてはカッコーの巣の上でに次ぐくらいの面白い映画ではないかなと。
これでバート・レイノルズの匂いの虜になったら、次は「脱出」をおすすめします。革ベストにアーチェリー(なんとなくランボーっぽい)で、また男臭の強いレイノルズが堪能できます。
この「脱出」という映画、これはこれでトラウマ級の変な映画なので、スポーツ関係なく、見といたほうがいいかなと。真夜中のカーボーイのジョン・ボイトも出てます。名演。
「マネーボール/フォックス・キャッチャー」、ベネット・ミラーが描く「きな臭さ」
上記の2作と違って、スポーツを中心に、そのまわりとの「きな臭さ」を描くのがベネット・ミラー。
彼が監督した「マネー・ボール」はサイバーメトリクスという統計をメインとした手法でメジャーの野球チームを改革して行こうという話なんですが、そもそもなぜ、チームの監督ビリー・ビーン(ブラピ)がそうしようと思ったか?
映画のなかで自身の回想として「才能でスカウトされたが、まったく目が出なかった。」という表現が多用される。それが野球界全体へのビーンの不審につながっているわけです。
つまりこの映画は、ずーっとプレイヤーとしての自分をだめにした野球界(とその仕組み、慣習)との軋轢を下地として、監督ビリー・ビーンが復讐していく映画になってる。なので、ずーっと監督と野球のシステムの間で「きな臭さ」が漂っている。その証拠に、ビリー・ビーンはまったく野球を生で観戦しないのです。
ただ、最後にこの軋轢は解消していく、というのがチームの試合と絡めて描かれていて、スカッとする。見たあとはすごく爽やかです。
対して同監督の「フォックスキャッチャー」はずーっと不穏。最後まで「きな臭い」救いのない映画。個人的にはこちらの流れのほうが好きなんですが、全面に「きな臭さ」、「不穏さ」が漂っていて「マネー・ボール」の「監督と野球界のシステムの不和」だけを強調してます。その不和がまったく解消されず最悪の結果に終わるような流れ。いずれにしてもずっと「きな臭さ」は漂っていて、「匂い」としては、「マネー・ボール」のそれを遥かに超えてきています。
とにかく、スティーブ・カレルがものすごい「臭さ」を出していて、それを無臭で爽やかなマーク・ラファロが強調していく。スポーツ映画の中でも異色ながらも、好きな人には相当見応えがある映画になるんだろうなと思います。
ちなみにマネー・ボールもフィリップ・シーモア・ホフマン、ジョナ・ヒルという匂いと癖の強い俳優が出てて、それだけでも見ねばな映画です。
血とすえた胃液の匂いにまみれても「俺にはこれしかない」。アメリカ不器用物語「レスラー」
ダーレン・アレノフスキーの「レスラー」はとにかく、屈辱の匂い、底辺の匂いが満載のスポーツ映画です。
かつての人気レスラーが落ちぶれてどさ回りをしている。トレーラーハウスの家賃も払えないし、家族との縁もない。仕事もうまくできない。
このあたりのどん底感が、ダウンジャケットのシミ、ぐちゃぐちゃ金髪(と、それを染めるための薬品)、使い古したレスリングコスチュームから匂い伝わってくる。スポーツの汗というよりは、生活臭がとても鼻をつく映画なのだ。(アレノフスキーの新作「マザー!」は体臭がきつい映画だったようような。。。)
でも、これはフォックスキャッチャーとは違っていて、いい匂いではないかもだけど、もっと"ポジティブな匂い"だなと自分は感じてました。というのも、主人公であるミッキー・ロークを最後の最後に支えているのはこれらの積み重ねてきた「匂い」だから。髪の匂い、コスチュームの匂い、バンデージの匂い、傷の匂い、80年代の匂い。
詳しく書くとラストのネタバレになるので避けるけど、最後の瞬間がハッピーになるのか、悲劇になるのかはその匂いをどう感じるのか?によると思った次第。本当はここから出ていきたいと思っていた生活臭が、すべて(家族、仕事、体)が自分を見放していく中で、最後に残ったレスラーとしての矜持なんだなと位置づけると、あのラストはハッピーなんじゃないかなと。ちと、何を言ってるかわからないのですが、100人に一人くらいは、この映画をみて、こんなふうに感じるんじゃないかなと思いました。
それぐらい、「匂い」が重要なスポーツ映画だなと、「レスラー」は。
しかし、あのハンサムのミッキー・ロークがこんな形で返り咲くとは。すごい。
と、ほかにもレイジング・ブルとか、ミリオンダラー・ベイビーとかいろいろあるだけど、ボクシングを上げ始めるときりがないので、これくらいで。
あと、スポーツ映画でいうと「フィールド・オブ・ドリームス」が好きなんですが、これテレンス・マリックが撮ったらどうなったんだろうなー、と想像するのが好きです。「テレンス・マリック マジックアワー」で検索していただけるとその理由が。。。
とにかく、スポーツ映画は、その映画がスクリーンからどんな「臭」を出しているかを感じながらみると、何倍かは楽しくなると思うのです。実際に観戦ができるようになるまで、ちとリアルなスポーツの、あとスポーツ選手の匂いに慣れておきましょう!