銀行は無から貨幣を創造している?

というわけで、上に張ったnoteの拡張記事みたいなものを。

最近、タイトルにあるようなことをインターネット上でちょくちょく見かける。
だけど、誤認識を持っている人もいるので、その辺について書けたらと思う。

銀行は他者の債務証書を自身の資産にし、自身の負債である銀行預金を発行し、他者に資金を融通する。
この際に、銀行は他の預金者の預金を減らすことで、他者に資金を融通するわけではない。
つまり、銀行というのは、他者に資金を融通すると自身の預金が増え、資金を融通してもらった者が銀行に債務を弁済すると預金が減るという仕組みになっている。

タイトル通り、『銀行は無から貨幣を創造しているのか』ということだが、これは事実。

しかし、これに下記にある補足をしないと間違った理解をしかねない。

1.銀行は無から貨幣を創造しているが、それは法定通貨ではない。法定通貨である日銀当預と日本銀行券を発行できるのは日本銀行だけ。

2.銀行だけが無から貨幣を創造しているのではなく、すべての経済主体が無から貨幣を創造している。

まず、1.からだが、この誤解している人はかなり多い気がする。

銀行は確かに、無から貨幣を創造しているのだけど、それはあくまで銀行自身の負債でしかない。
問題はこの負債を受け取ってくれるかどうかなんだけど、政府が自身への租税支払いに銀行の負債である銀行預金を受け取るのかというと、もちろん否である。

銀行は自身が租税払いをする際、また預金者の租税払いを代行する際、中央銀行の負債である日銀当預を支払う。(これが所要準備という法律が存在する理由のひとつ)

つまり、銀行は自らが増やした銀行預金で租税を支払うことが出来ない(だけど、預金者は租税払いを要求することができるわけで)
だから、銀行は預金者の租税支払いを代行するために日銀当預を必要とするのだけど、銀行自身は日銀当預を発行することはできない(日銀当預を発行できるのは日本銀行のみ)。

だから、銀行というのは、日銀当預を必要とする。
それは預金者が銀行に日本銀行券を預け入れるか、日本銀行が銀行から資産(銀行が保有している国債または証券類)を買う、または政府が支出した際にしか増えない。

そして租税払いや、要求払い預金の引き出し以外にも、銀行は他行への債務の支払いに日銀当預を必要とする。

というのは、銀行は自身に口座を開設している預金者同士の資金移動というのは、銀行自身が自身の口座内の数字をキーボードでうち変えることで完了することが出来るが、それが他行の口座となるとそうはいかない。

例えば『あ銀行』に口座を開設しているA社が同じく『あ銀行』B社に支払いをしようとしているとしよう。

B社の口座が『あ銀行』にある場合は、簡単である。

『あ銀行』は自身の口座内の数字をキーボードでうち変えることで取引を完了させることが出来る。

しかし、B社の口座が、『あ銀行』ではなく、他行、例えば『い銀行』にある場合はどうなるか?

これは、日本銀行の口座内で決済を行わなければならなくなる。(あ銀行がい銀行の口座を書きかえることは不可能だから)

もちろん、この決済は日銀当預によって行われる。

この決済の為の日銀当預を『あ銀行』は保有していなければならない。

もし、日銀当預が足りない場合は、コール市場で他行から日銀当預を借りてきてでも決済を完了しなければならない。

というわけで、銀行は無から自身の負債を増やすことで銀行預金を創造して、それを他社に融通しているのだけれど、あくまでそれはその銀行自身の負債でしかない。

次に

2.銀行だけが無から貨幣を創造しているのではなく、すべての経済主体が無から貨幣を創造している。

に関してなんだけど

これはどういうことかというと、書いた通りで負債はすべての経済主体が発行することが出来る。

そして、お金というのはかならず誰かの負債として発行される。

問題はそれを受け取ってもらえるかだ。

たとえば、中央銀行は自身の負債を発行することで、銀行から国債を買い取ることが出来る。
この中央銀行の負債は日銀当預といって、償還期限のない(返す約束のない)負債だ。
また、この日銀当預を引き出すことで我々は銀行券を発券し、自身の小口決済(例えば、コンビニでの買い物)に使用したり、また、金融機関を通して、もっと大きい商取引の決済を行っている。

銀行の負債である銀行預金については、前述したとおりである。

では、我々家計が発行する負債とはなにか?

これはもっとも分かりやすいところでいうと、住宅ローンや車のローンだろう。
(もちろん、あなたが紙にペンで数字を書いて貨幣を発行することもできる。
この貨幣の受領者はあなたに対する支払いにこの貨幣を使用することが出来るだろう。
問題はそれを相手に受け取ってもらえるかどうかだ。
そして、あなた以外の例えばA君とB君の商取引、弁済にあなたが紙に書いて作った貨幣を使用できるかだ。
つまり、あなたが作った貨幣をA君がB君からの支払いとして受け取るかどうかだ?
まあ、これと同じことを中央政府はやっているわけなんだけれど。)

では、住宅ローンがお金のように出回るのか?という話になるのだけど、

たとえば、(アメリカの場合になるんだけど)ある家計が住宅ローンを銀行に申し込んだとしよう。

銀行は家計の発行する負債である住宅ローンの債務証書を自身の資産とし、銀行自身の負債である銀行預金を発行して、家計に融通する。

そして、家計の支払いを銀行は代行するわけだが。

住宅ローン自体をやりとりする金融市場というのは存在しない。

だから、銀行はこの資産とした住宅ローンの債務証書を特別目的会社を設立し、証券化する。

そうして、証券化された住宅ローンは金融商品として、金融市場でやりとりされる(世界金融危機はこの証券化された住宅ローンを家計が償還できなくなったことが、きっかけ)。

また、家計以外にも企業は自身の負債である手形を発行することで、それをお金のように使い、自身の商取引に使用する(決済は金融機関の当座預金を通して行われる)。

つまり、日常の中で、様々な経済主体が自分自身の負債を発行することでビジネスが成り立っているわけだ。
しかし、自分自身の負債を自分自身の支払いに使うことはできないので、たとえば、銀行でいうと中央銀行の負債が必要になるし、企業は手形を発行するために銀行預金を必要とする。
これをMMTでは、レバレッジをかけるなんていったりするわけだが。
つまり、経済主体は自分の負債よりも上位の負債を必要とする(これはさすがにMMTのテキストを読んだことがある人でなければ、通用しないだろうな、、、)。
そして、すべての負債の頂点に中央銀行の負債がある。
だから、中央銀行は自身の支払いに自身の負債を使うことが出来る。
まあ、銀行が自行に口座を開設している経済主体からは銀行自身の負債(銀行預金)を増やせば、物品を購入できるようなものか。

というわけで、今回はここまで。

参考文献

日本銀行の機能と業務 日本銀行金融研究所
図説 わが国の銀行 全国金融協会企画部金融調査室  
Eric Tymoigne Money and Banking series 


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