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【MOOV,8cases】大阪のものづくりの今を知る、8ケース
※この記事は、2014年1月23日に発行された内容です。
下町のちょっとした感動ネタから、ここにしかないスゴ技、
人が集まりコラボが加速する場所まで大阪のものづくりの今を知る、
8ケース。
■経験に培われた知力と高い技術力で斬新な開発をル付けステンレスサプライヤーへ進化!
<Case1:技>
アベル株式会社(八尾市南太子堂1-1-42)
「人のやっていないことをやリたかった」と語る代表取締役社長の居相英機氏。
現在まで築き上げた実績を見れば、蓄積された知識の豊富さ、研究開発に欠かせない粘り強さ、そして時代
の先を読む鋭い感性に裏打ちされた言葉であることがよく分かる。
同氏は入社後、ステンレスの表面加工の事業に携わる中で電解研磨という新技術を開発し、作業の手間を軽減しながら精度を格段に高めた。
その後、ステンレス材への色付けという新しい要望に即応して化学薬品を使った色付けを実現。
同氏はここでも将来を見据え、「電解発色」の研究開発を進めた。
電解発色は、人間が色を判断する可視領域を利用し、ステンレス表面にある透明な皮膜の厚さを、薬品と電気の力を使ってナノメートル単位の細かな範囲で調整。
ステンレスに反射する光の波長を変えて、さまざまな色に見せるという高度な技術だ。
同氏は、電解発色の開発に取り組んでいた頃のあるエピソードが忘れられない。
現場の容器を掃除中に、偶然にも美しいブロンズ色に輝くステンレスのかけらが底に落ちていたのを見つけて「探していたのはこれだ!」と将来の事業化を確信したという。
その後の開発を大手製鉄会社と共同で取り組み、メッキでも塗装でもない、ステンレスの酸化皮膜自体を制御
して発色させるという新しい表面技術で、高精度な色付けを可能にする電解発色による事業につなげた。
さらに加工技術を研鑽する中で製品づくりも取リ組む。
ビジネスまでには至らなかったが、ステンレスを繊維状にして編んだ造花などを多色展開で作成、1990年の花の万博で注目を集めたという。
そして1992年、溶接部分が分からないほど美しく仕上がる「スーパーブラック」を開発、携帯電話のカメラの部品に採用されるなど脚光を浴びた。
その「スーパーブラック」の技術を応用して開発した「ピアノブラック」も、鏡面ステンレスヘの色ムラが出ない高度な発色技術で評価を得た。
この電解発色法による「黒」に特化した表面処理技術の確立と「加工製造業者からサプライヤーヘの進化」が認められ、2013年の内閣総理大臣表彰「ものづくり日本大賞」の経済産業大臣賞を受賞。
「流行に左右されず市場のニーズの多い黒に特化しました。当時ステンレスの色付けの主流だったインコ法は、黒を表現できない。スーパーブラックの開発により自社製品づくりへの道が開けました」と同氏は語る。
電解発色でさまざまな色への対応が求められる中、多様な薬品の抽出や生産性効率の面で負担が増大し、その解決が急務となっていたのだ。
同社では、独自の技術をさらに進化させて新製品を生み出している。
今、拡販に最も力を入れているのが、SUS(ステンレス)にスーパーブラックを施しコイル状に仕上げた、その名も「SUSが黒帯」。
黒色が付いていて、一般的に最後になる色付けの表面処理の工程を省けるため納期への時間短縮につながる。
絞りやプレスの加工に強い素材で既存の金型を傷めにくく、油との潤滑性に加えプレスとの密着性に優れ、歩留まリもよく、色もはげない。
「新たな付加価値のある発色材としてステンレス加工にも貢献したい。特長を積極的にアピールして販促していきます」と同氏は意欲的だ。
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■スタンスは常に顧客目線。
クリエイターとの連携で提案型のトータルパッケージプランニングを実現。
<Case2:人>
株式会社美販(東大阪市布市町1-4-30)
「お客様の想いを形にする、新しい価値を実現するようなパッケージ作りができないか」
創業39年、段ボールケースおよび美粧ケースを中心に企画・製造・販売を行う、株式会社美販の2代目、尾寅将夫社長は、2001年に先代から引き継いで以来、今までのパッケージづくリの視点を変える方法を模索してい
た。
その中で、数年前から展示会などに出展する機会が増え目線が変わったという。
何らかの課題や目的を持ってブースを訪れる来場者に対し、単に「箱を買ってください」というアプローチでは顧客ニーズには到達できない。
そこで、彼らが実際に商品を手に取り、興味を持って見ている場面を捉えて質問するスタイルに変えた。
「何に興味を持たれましたか?」「何かお困りことはありますか?」
そうすると、必ず答えが返ってくる。課題さえ引き出せれば解決策の提案をさせてもらうことができる。
パッケージを作るためには、商品をたくさん売り、利益をきちんと踏まえたマーケティングが必要である。
パッケージデザインや、広告、宣伝、販路などの方法を考えると課題はたくさんある。
「いくら良い商品を作っても、その良さが市場に伝わっていなかったら存在していないのと同じこと。またいくら売れても経費がかさんでは、何のために売っているのかわからない。より良い商品を、よりたくさんの方に、より的確に届けるために、できることを一緒に考えていきたい」
そう考えて、3年前から取り組んでいるのが、パッケージ作りにデザインのアイデアを取リ入れる、クリエイターとの連携だ。
紙の場合は加工が必要なので、クリエイターが考えたデザインが、製品としてできるかどうかは別だが、“デザインでこんなことがしたい”というクリエイターがたくさんいるのでは?と思い、ホームページで問いかけてみたところ、当初の反応は薄かったが、徐々にさまざまな所から声がかかるようになった。
たとえば、コロッケ屋さんのパッケージのご相談に、クリエイターのアイデアを取り入れて提案したは、「お肉の本物の旨さを知って欲しい」というコンセプトとターゲットがぶれないように客層を明確に分析し、ライバル会社との比較をしながら、パッケージ作りを行った。
最終的に広告・宜伝ツールを作ったリ、OEMメーカーの紹介や、商標登録のサポートをする事もあるという。
クライアントの頭の中にあるイメージを整理して、うまく通訳できるような役割を担うことで、企業に良い提案ができる。
「クリエイターにもそれぞれの作風があるので、クライアントの想いとクリエイターの創造力を形にするためには、その間を取リ持つディレクターの役割が要る。そこをものづくりに携わる人聞がお手伝いできるのでは?と思ったんです」
商品の「顔」であるパッケージはもちろんのこと、紙製ディスプレイを中心に、POP・スタンド・ノベルティの企画、設計、製造まで幅広く手掛けるまでになった。
自社の幅広いネットワークの中から、“こことこんな風にコラボすれば、こんなことが実現できます! ”を
トータルに提案できる。
「“箱を買ってください”ではなく、ゴールはお客様の課題を見つけ、共に解決していく提案を行うこと」
情熱的に話す尾寅社長の目線の先には、常に顧客の幸せがある。
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■「水」をテーマに、時代のニーズを読み的確に応える高機能製品の開発を続ける!
「父の経営する金展金型などを扱う会社の現場で勤務していた頃から、製品作リに興味があり、勤務の後に開発をしていました」と語る代表取締役社長の池田博毅氏。
約18年前、浄水器の製品化を思いつき、当時最先端ともいえる開発を進めた。
試行錯誤の末、約1年後に浄水器が完成し、しばらく後の浄水器のブームで会社は好況に沸いた。
メーカーとして世界で戦いたいと独立後、安心安全な水を「浴びたい」というニーズがあると感じ、シャワーヘッドに着目。
高性能にこだわった製品開発で、群馬大学の研究機関などの協力も得て「ナノ」レベルの超微細なバブルを発生させることに成功した。
その機能を搭載して製品化したのが「ナノバブル・ナノ・シャワー華」だ。
肌への浸透性が極めて高いナノバブルが肌や頭皮の毛穴の汚れや皮脂、合成界面活性剤、ニオイの原因物質まですっきり除去。
シャワーを浴びた時の保温性も高い。
「休日にじっくりアイデアを練るのが楽しい」と語る同氏は、この高機能シャワーヘッドの性能をさらに極めるべく研究開発中だ。
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■真空計測に革命をもたらし品質、歩留まり向上に大きく貢献
<Case4:技>
株式会社岡野製作所(寝屋川市太間町16-8)
「真空」と聞けば、食料品の長期保存における「真空パック」などを思い起こすが、ものづくりの現場でも「真空」が大活躍しているのはご存知だろうか?
1952年創設の株式会社岡野製作所は、真空状態を計測する機器を主力に作り続けてきた専門メーカー。
同社が2012年に発表した「マイクロハクマク圧カセンサ」は、センサ部分を薄膜化した世界初の超小型で堅牢さに伍れた圧カセンサ。
本品の登場により、たとえば金型の成形用空洞内にセットするなど、真空環境内のピンポイント圧力測定が可能になった。
複数個のセンサを使用すれば対象物内の圧力分布も「見える化」でき、不具合が発生した場合の対応が容易になり作業のムダが省け、歩留まりの向上にも貢献。
「ものづくりの環境は千差万別。お客様とのやりとりを通して、最適な計測スタイルを提案できるのがうちの強み」と話すマイクロセンサ事業部長、岡野夕紀子氏。
産官・産学連携にも長年取り組み、優れた技術と開発力で生産性向上を支援するエキスパートとして、岡野製作所は多方面の企業との出会いを求めている。
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■Facebookを活用した情報発信から人脈を拡大。
3Dプリンター導入で新たな事業発掘をめざす!
<Case5:場>
有限会社藤川樹詣(堺市美原区多治井814)
「創業当時から、小さな町工場のイメージで取引先1社の仕事を黙々とこなす会社でした」と語る代表取締役の藤川勝也氏。
3年前に会社を引き継いで以降、リーマンショック、円高不況と困難に見舞われ、改善すべきと感じていた従来のやり方を見直す決心がついた。
まず、疎遠となっていた取引先を取り戻し、初めて新規の営業活動も展開。
堺市産業振興センターの制度を利用して55活動にも着手した。
そして、何かのきっかけにと参加したセミナーで可能性を感じたFacebookを活用しながら人脈を少しずつ拡大させた。
「工場の状況や、失敗の改善策などを動画でアップするだけで同業者などの反応があり、中小企業も情報発信が必要だと実感します」と同氏。
また、Facebookでつながったプラスチック関連技術者のアドバイスを参考に、3Dプリンターを国の補助金で導入し新たな事業展開をめざすことを決めた。
「3Dスキャナーなども導入し、製品化への環境が整いました。身体障害者が車椅子に座る際に必要なサポート器具の製造など、役立てる分野を探し積極的にアピールしていきます。何よリ営業ツールとして大いに活かしたい」と同氏は意気盛んだ。
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■徹底した人材教育を柱に、蓄積された技術力を活かす「提案型企業」として事業を次々に展開!
<Case6:人>
橋田技研工業株式会社(大阪市平野区加美北6-15-14)
ガスタービンなどの精密部品を主力に、発電施設の建設や環境を守る触媒機の製造など多岐にわたる事業を手がけ、国内だけでなく欧州の大手メーカーとも直接取引を行う橋田技研工業株式会社。
1967年の創業当初から金型設計、部品製造、プレス板金加工などでの高精度なものづくりの技術力で信頼を得てきた。
「各部門に精通した技術者が育ち、受注した図面の変更まで行い効率化を図る『提案型企業』をめざす力になっています」と語る代表取締役社長の橋田寛氏。
20年ほど前から社員教育に力を注いでおり、大手自動車メーカーの教育方法を熟知する幹部OBを講師に招き継続的に指尊を受けるなど、徹底した教育を行ってきた。
「人づくりは業務のすべてに優先する」が同氏のモットー。
M&Aで取得した赤字事業を人材活用と教育により優良収益事業へと変えている。
「企業は新しい事業へ挑戦してこそ長く続く」という持論を実践してきた同氏が、今、最も注力するのは、同社初の一般住宅向けの「玄関の自動ドア」
ドアに触れずにリモコンや暗証番号だけで開けられる。
春から関西地区でCM放映を予定。
「大阪から旋風を巻き起こしたい」と期待を込める。
■ものづくり分野に進出し、ペットの高齢化に対応するリハビリ器具を産学連携で展開。
<Case7:場>
株式会社モリック(大阪市淀川区三津屋南3-10-19)
人間と同様にペットとして飼っている犬にも長寿、高齢化が進んでいる。
これに着目し、高齢化や肥満で散歩がしにくくなった犬の歩行補助具を開発した株式会社モリック。
印刷や広告販促業に取り組んできた同社は、2009年に大阪府から経営革新計画の承認を受け、ものづくリ分野に事業拡大。
ペット関連商品の開発として当初は散歩用リードなどを作っていたが、大阪府立大学獣医学科との連携で今年7月、犬用歩行補助具の商品化にこぎつけた。
「犬用の車椅子はあるが、リハピリテーションの視点で作られた製品はなかった」と同社の廣瀬賢一専務は語る。4本のバネで犬の身体を引き上げ、脚に掛かる負担を軽減し歩行をサポートする仕組み。
「大学の先生から犬の歩行に闊する実験データなど、多くの貴重な提言をいただき、信頼性、実用性の高いものづくりができた」と産学連携の真価を痛感する廣瀬氏。
現在は大型犬用のみだが、将来的には小型・中型犬用も売り出す予定だ。
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■最高学府の信頼をバックボーンに優れた実績を築く大学発ベンチャーの強み。
近畿大学の薬学部、農学部、生物理工学部、付属農場、東洋医学研究所が知的財産を集結させ、「研究室から生まれたサプリ」の事業化を実践している株式会社ア・ファーマ近大。
その主力商品は抗アレルギ一成分を高含有した早摘み青みかんをまるごと使用して、栄養機能食品としてサプリメント化した「ブルーヘスペロンキンダイ」
営業ノウハウを持たない大学関係者で設立したため、当初はなかなか売れずに苦戦していたが、ロコミと地道な営業活動が功を奏し、近年ではドラッグストアを中心に花粉症などアレルギーで悩む方々に売れ行きが伸び、前期は春先を中心に7万個の売上を達成したという。
「健康食品の信頼に翳りが見える今、近大なら大丈夫と思ってもらえるのが大きい」と同社は大学発ベチャーの強みを語る。
同社では「近大サプリシリーズ」として青みかん以外にも美肌に青はっさく、生活習慣病対策には黒しょうがを使用した栄養補助食品も商品化しており、今後も近畿大学の特許権や知的財産を活用した近大サプリのブランド戦略を積極的に推進していく予定だ。
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■編集後記
ネットで世界とつながってはいるがお隣さんは何をしているのかも知らない。
そんな現代的な孤立と孤独からものづくり企業を救う、力強い道筋を示すのが巻頭で紹介したエコノミック・ガーデニングの考え左地域の土壌(資源)を活かして、地域オリジナルな繁栄の花をいかに咲かせるか産・学・公・民・金、それぞれの庭師(ガーデナー)たちの連携を熱く深める機が熟していると感じます。(山蔭)
■スタッフ
企画・編集
株式会社ショーエイベストコーポレーション
編集長
山蔭ヒラク(ショーエイベスト)
ライター
工藤拓路(ショーエイベスト)
金井直子(ショーエイベスト)
写真
岩西信二(JPS)
アートディレクター
高谷朋世(キューブデザイン)
印刷
昭英印刷株式会社
■発行
MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)
大阪府商工労慟部商工振興室ものづくり支援課
〒577-0011 東大阪市荒本北1丁目4番17号(クリエイション・コア東大阪内)
【TEL】06-6748-1011 【FAX】06-6745-2362
2014年1月23日発行
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