物理数学演習「複素関数と微分」補足資料
横浜国立大学 理工学部 物理工学教育プログラムで2024年10月から開講している物理数学演習の「複素関数と微分」の補足資料です.
教科書では複素関数の性質や微分公式の証明を求める演習問題が多く,物理工学をこれから勉強・研究していく上で,なぜ複素関数の微分が必要なのか分かりにくいかもしれません.この資料で,そのあたりを補足します.
公開:2024年10月11日
加筆:2024年10月18日
修正:2024年10月23日
複素指数関数によって解析することのある物理系の例
振幅が減衰する振り子を考える.時刻$${t}$$での振り子の振幅を$${x(t)}$$とすると,その運動方程式は以下のように書ける.
$$
\ddot{x}(t) = - \omega_0{}^2 x(t) - 2\gamma \dot{x}(t)
$$
ここで,$${\ddot{x}}$$と$${\dot{x}}$$は$${x}$$の$${t}$$についての2階微分と1階微分を意味する.$${\omega_0}$$は振り子の固有の角振動数(固有振動数),$${\gamma}$$は減衰レートを表わす.
上の方程式は,以下のように解くことができる(ちなみに,本講義では数学は物理を記述するための道具と考えており,数学的な厳密さに乏しい場合があることに留意すること).
まず,時間に依存する複素数$${z(t)\in\mathbb{C}}$$(複素振幅とよぶことにする)を導入し,以下のように,振り子の振幅$${x(t)}$$がその実部に対応するものとする.
$$
x(t) = \mathrm{Re}[z(t)] = \frac{z(t) + \bar{z}(t)}{2}
$$
ここで,$${\bar{z}(t)}$$は$${z(t)}$$の複素共役を意味する.さらに,2つの複素数$${z_0,\omega\in\mathbb{C}}$$を導入し,$${z(t)}$$や$${x(t)}$$が以下のように表わされるものとする.
$$
z(t) = z_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} \\
x(t) = \mathrm{Re}[ z_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} ]
= \frac{z_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} + \bar{z}_0 \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bar{\omega} t}}{2}
$$
つまり,複素振幅$${z(t)}$$は初期時刻$${t=0}$$での複素振幅$${z_0}$$と複素指数関数$${\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t}}$$の積$${z_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t}}$$で表わされるものとする.
これを上記の運動方程式に代入しようとすると,この複素関数を時刻$${t}$$について微分しなければならない.教科書にある複素微分の公式を使って,少しきちんと計算してみる.まず,$${f}$$と$${g}$$を任意の複素関数として,$${(\mathrm{d}/\mathrm{d}t)(f\pm g) = (\mathrm{d}/\mathrm{d}t)f \pm (\mathrm{d}/\mathrm{d}t)g}$$なので,
$$
\dot{x}(t) = \frac{\dot{z}(t) + \dot{\bar{z}}(t)}{2}
= \frac{1}{2} \left( \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} z_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} + \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \bar{z}_0 \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bar{\omega} t} \right)
$$
次に,$${(\mathrm{d}/\mathrm{d}t)fg = (\mathrm{d}f/\mathrm{d}t)g + f(\mathrm{d}g/\mathrm{d}t)}$$だが,$${z_0}$$と$${\bar{z}_0}$$は$${t}$$の関数ではないので,
$$
\dot{x}(t) = \frac{1}{2} \left( \frac{\mathrm{d}z_0}{\mathrm{d}t} \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} + z_0 \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} + \frac{\mathrm{d}\bar{z}_0}{\mathrm{d}t} \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bar{\omega} t} + \bar{z}_0 \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bar{\omega} t}\right)\\
= \frac{1}{2} \left( z_0 \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} + \bar{z}_0 \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bar{\omega} t}\right)
$$
次に合成関数$${w = f(g)}$$の微分は,$${w = f(\xi)}$$, $${\xi = g}$$とすると,$${(\mathrm{d}/\mathrm{d}t) f(g) = (\mathrm{d}f/\mathrm{d}\xi) (\mathrm{d}\xi/\mathrm{d}t)}$$なので,$${f = \mathrm{e}^\xi}$$, $${\xi = - \mathrm{i}\omega t, \mathrm{i}\bar{\omega}t}$$とすれば
$$
\dot{x}(t)
= \frac{1}{2} \left[ z_0 \frac{\mathrm{d}\mathrm{e}^{\xi}}{\mathrm{d}\xi} \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} (-\mathrm{i}\omega t) + \bar{z}_0 \frac{\mathrm{d}\mathrm{e}^{\xi}}{\mathrm{d}\xi} \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t} (\mathrm{i}\bar{\omega} t)\right]\\
= \frac{1}{2} \left( -\mathrm{i}\omega z_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} + \mathrm{i}\bar{\omega} \bar{z}_0 \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bar{\omega}t} \right)
= \mathrm{Re}[ -\mathrm{i}\omega z_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} ]
= \mathrm{Re}[ -\mathrm{i}\omega z(t) ]
$$
同様に計算すると,$${t}$$についての2階微分は以下のようになる.
$$
\ddot{x}(t)
= - \frac{1}{2} \left( \omega^2 z_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} + \bar{\omega}^2 \bar{z}_0 \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bar{\omega}t} \right)
= \mathrm{Re}[ -\omega^2 z_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t} ]
= \mathrm{Re}[ -\omega^2 z(t) ]
$$
これらを上の運動方程式に代入すると以下の関係式が得られる.
$$
\mathrm{Re}[ -\omega^2 z(t) ] = - \omega_0{}^2 \mathrm{Re}[ z(t) ] - 2 \gamma \mathrm{Re}[ -\mathrm{i} \omega z(t) ]\\
\mathrm{Re}[ ( \omega^2 + \mathrm{i} 2 \gamma \omega- \omega_0{}^2) z(t) ] = 0
$$
あらゆる$${t}$$でこの方程式を満たすには,$${z_0 \neq 0}$$とすると,$${\omega}$$は以下の2次方程式を満たすことになる.
$$
\omega^2 + \mathrm{i} 2 \gamma \omega- \omega_0{}^2 = 0
$$
この解は$${\omega = - \mathrm{i}\gamma \pm \sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2}}$$である(以下,$${\omega_0 > \gamma}$$とする).実部の正負はどちらでもよいが,物理学の慣習として正の値を選べば,上記の運動方程式の解は以下のように表わされることが導かれる.
$$
z(t) = z_0 \exp(-\mathrm{i}\sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2}t - \gamma t) \\
= |z_0| \exp(\mathrm{i}\theta - \mathrm{i}\sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2}t - \gamma t)
$$
$$
x(t) = \mathrm{Re}\{ z_0 \exp(-\mathrm{i}\sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2}t - \gamma t) \} \\
= |z_0| \cos(\sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2}t - \theta) \mathrm{e}^{-\gamma t}
$$
$${z_0 = |z_0|\mathrm{e}^{\mathrm{i}\theta}}$$は初期時刻$${t = 0}$$での複素振幅であり,振幅の絶対値$${|z_0|}$$と偏角$${\theta}$$で特徴づけられる.振幅$${x(t)}$$が$${\mathrm{e}^{-\gamma t}}$$で減衰しながら,角振動数$${\sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2}}$$で振動することが分かる.
また,複素振動数$${\omega = \sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2} - \mathrm{i}\gamma}$$を,絶対値$${\omega_0}$$と偏角$${-\delta = - \tan^{-1}\left(\frac{\gamma}{\sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2}}\right)}$$で$${\omega = \omega_0 \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\delta}}$$と表わすことにすれば,速度$${v(t)=\dot{x}(t)}$$は以下のように導かれる.
$$
v(t) = \dot{x}(t)
= \mathrm{Re}[ -\mathrm{i}\omega z(t) ]
= \mathrm{Re}[ -\mathrm{i}\omega_0\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\delta} z(t) ]
= \omega_0 \mathrm{Im}[ \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\delta} z(t) ] \\
= \omega_0 \mathrm{Im}\{ z_0 \exp[ -\mathrm{i}\delta -\mathrm{i}\sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2}t - \gamma t] \} \\
= - \omega_0 |z_0| \sin(\sqrt{\omega_0{}^2-\gamma^2}t + \delta - \theta) \mathrm{e}^{-\gamma t}
$$
ここで示したかったのは計算結果ではなく,計算の過程である.三角関数を使うよりも,複素振幅$${z_0 = |z_0|\mathrm{e}^{\mathrm{i}\theta}}$$と複素指数関数$${\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\omega t}}$$を用いて,$${z(t)}$$の絶対値と偏角に基づいたほうが計算が簡単ではないかということである.ちなみに,物理では「偏角」ではなく「位相」とよぶことが多い.
下の図は複素振幅$${z(t)}$$の軌跡を複素平面に描いたものである.振幅の絶対値が減衰しながら右回りに回転する.実部が振り子の振幅$${x(t)}$$であり,$${z(t)}$$の回転は$${x(t)}$$の振動に対応する.
一方,$${z(t)}$$の虚部はというと,もし$${\omega_0 \gg \gamma}$$で$${\delta \approx 0}$$と見なせれば,上記の式に見られるように,速度を固有振動数で規格化したもの$${v(t)/\omega_0}$$に対応する.$${z(t)}$$の虚部に$${\omega_0}$$を掛けると速度$${v(t)}$$になると考えてもよい.今回は減衰振動を扱ったので$${\delta}$$という位相のずれが現われたが,本講義の後半で取り上げる強制振動では$${\mathrm{Im}[z(t)] = v(t)/\omega_0}$$が成り立つ.複素振幅$${z(t)}$$を導入することで,実部は振幅,(減衰が十分に小さければ)虚部は速度と見なして物理現象を捉えることができる.このような複素平面上の回転として振動を捉えることは,電気回路や電磁波,レーザー物理,量子光学,量子情報処理の研究開発においても常識的に用いられるものである.
このように固有振動数をもつ物理系のダイナミクスを議論するときなどに,複素振幅$${z_0}$$と複素指数関数の積で振幅$${x(t)}$$を記述して解析することがある.実際に手を動かさないと実感しないだろうが,そのほうが解析しやすいからである.
§3.6 複素偏微分
まず,複素偏微分によってCauchy-Riemannの方程式を書き換えられることを説明する.教科書では,$${z = x + \mathrm{i}y}$$として,複素関数$${f(z) = u(x,y) + \mathrm{i} v(x,y)}$$が正則(微分可能)であるための必要十分条件がCauchy-Riemannの方程式
$$
\frac{\partial u}{\partial x} = \frac{\partial v}{\partial y} \\
\frac{\partial u}{\partial y} = - \frac{\partial v}{\partial x}
$$
を満たすことと説明した.ここでは,複素関数$${f(z)}$$を2つの実数$${x,y}$$を独立変数とする関数と考えたが,2つの複素数$${z,\bar{z}}$$を独立変数とする関数と考えることもできる.ここではそれを$${f(z) = F(z,\bar{z})}$$と書くことにする.このとき,
$$
\frac{\partial F(z,\bar{z})}{\partial \bar{z}} = 0
$$
を満たすことは上記のCauchy-Riemannの方程式と等価であり,これも$${f(z)}$$が正則(微分可能)であるための必要十分条件となる.証明は以下の文献を参照のこと.
参考文献
近藤慶一「物理数学講義 : 複素関数とその応用」(共立出版,2022年)
共立出版
横浜国立大学付属図書館蔵書検索
次に複素偏微分が必要となる物理の場面を紹介する.電磁気学でベクトルポテンシャル$${\bm{A}(\bm{r},t)}$$を学んだはずである.スカラーポテンシャルがなければ,電場$${\bm{E}(\bm{r},t)}$$と電束密度$${\bm{B}(\bm{r},t)}$$は以下のように表わされた.
$$
\bm{E}(\bm{r},t) = - \dot{\bm{A}}(\bm{r},t)
$$
$$
\bm{B}(\bm{r},t) = \bm{\nabla} \times \bm{A}(\bm{r},t)
$$
真空中では,マクスウェルの方程式のうちでアンペールの法則に相当する方程式は,$${c}$$を光速とすると以下のように表わされた.
$$
\bm{\nabla} \times \bm{B}(\bm{r},t) = \frac{1}{c^2} \dot{\bm{E}}(\bm{r},t)
$$
これに上記の関係を代入すると,ベクトルポテンシャル$${\bm{A}(\bm{r},t)}$$に対する波動方程式が以下のように得られる.
$$
\bm{\nabla} \times [\bm{\nabla} \times \bm{A}(\bm{r},t)] + \frac{1}{c^2} \ddot{\bm{A}}(\bm{r},t) = \bm{0}
$$
さて,解析力学の講義でラグランジアンに基づく解析を学んだはずである.現代の物理学の理論や研究では,ラグランジアンやハミルトニアンに基づいて解析することが多い.理由は色々とあるが,ハミルトニアンなどに基づくことで理論や計算を単純化できる場面が多いからというのが理由の1つである.上のベクトルポテンシャル$${\bm{A}(\bm{r},t)}$$に対する波動方程式もオイラー=ラグランジュ方程式から導くことができる.その際のラグランジアンは,真空の誘電率を$${\varepsilon_0}$$とすると,以下のように表わすことができる.
$$
L = \frac{\varepsilon_0}{2}\int\mathrm{d}\bm{r}\left[ \bm{E}(\bm{r},t)^2 - c^2 \bm{B}(\bm{r},t)^2 \right]
$$
ただし,皆さんが解析力学の講義で習ったであろう初歩的なオイラー=ラグランジュ方程式で波動方程式を導くのはそう簡単ではない.それは,$${\bm{B}(\bm{r},t) = \bm{\nabla} \times \bm{A}(\bm{r},t)}$$に空間微分が含まれているからである.そのため,以下のように変換して解析することがある(本当ならフーリエ変換して考えるべきだが,それは本講義の後半で扱うため,ここではあまり厳密ではない形で変換する).
$$
\bm{A}(\bm{r},t) = \mathrm{Re}[ \bm{\mathcal{A}}(t) \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{r}} ]
= \frac{ \bm{\mathcal{A}}(t) \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{r}} + \bar{\bm{\mathcal{A}}}(t) \mathrm{e}^{-\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{r}} }{2}
$$
$$
\bm{E}(\bm{r},t) = \mathrm{Re}[ \bm{\mathcal{E}}(t) \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{r}} ],\quad
\bm{\mathcal{E}}(t) = - \dot{\bm{\mathcal{A}}}(t)
$$
$$
\bm{B}(\bm{r},t) = \mathrm{Re}[ \bm{\mathcal{B}}(t) \mathrm{e}^{\mathrm{i}\bm{k}\cdot\bm{r}} ],\quad
\bm{\mathcal{B}}(t) = \mathrm{i}\bm{k} \times \bm{\mathcal{A}}(t)
$$
ここで,$${\bm{\mathcal{A}}(t)}$$, $${\bm{\mathcal{E}}(t)}$$, $${\bm{\mathcal{B}}(t)}$$は複素数(複素振幅)であり,$${\bm{k}}$$は波数ベクトルである.$${\bm{k}}$$は実数とする.つまり,空間的に$${\bm{k}/|\bm{k}|}$$の方向に波長$${\lambda=2\pi/|\bm{k}|}$$で伝播する波と仮定する.このとき,ラグランジアンは以下のように書き換えられる.
$$
\mathcal{L}
= \varepsilon_0\left[ \bm{\mathcal{E}}(t)\cdot\bar{\bm{\mathcal{E}}}(t) - c^2 \bm{\mathcal{B}}(t) \cdot \bar{\bm{\mathcal{B}}(}t) \right]
= \varepsilon_0\left[ |\bm{\mathcal{E}}(t)|^2 - c^2 |\bm{\mathcal{B}}(t)|^2 \right] \\
= \varepsilon_0\left[ \dot{\bm{\mathcal{A}}}(t) \cdot \dot{\bar{\bm{\mathcal{A}}}}(t) - c^2 (\bm{k}\times\bm{\mathcal{A}}(t)) \cdot (\bm{k}\times\bar{\bm{\mathcal{A}}}(t)) \right] \\
= \varepsilon_0\left[ | \dot{\bm{\mathcal{A}}}(t) |^2 - c^2 |\bm{k}\times\bm{\mathcal{A}}(t) |^2 \right]
$$
$${1/2}$$のファクターがなぜ消えるのかなど,詳細は下記の文献を参照のこと.このラグランジアンには時間的な微分しか含まれておらず(空間的な微分が含まれておらず),実空間で考えるよりも解析しやすい.ただし,$${\bm{\mathcal{A}}(t)}$$は複素数である.変数が複素数の場合のオイラー=ラグランジュ方程式は複素偏微分で以下のように表わされる.
$$
\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}
\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\mathcal{A}}_{\xi}}
= \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\mathcal{A}_{\xi}}
$$
$$
\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}
\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\bar{\mathcal{A}}}_{\xi}}
= \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\bar{\mathcal{A}}_{\xi}}
$$
ただし,$${\xi = x, y, z}$$である.ここで,$${ (\bm{k}\times\bm{\mathcal{A}}(t)) \cdot (\bm{k}\times\bar{\bm{\mathcal{A}}}(t)) = [(\bm{k}\times\bm{\mathcal{A}}(t)) \times \bm{k} ] \cdot \bar{\bm{\mathcal{A}}}(t)}$$と書き換えられることから,下記の問題3-2の関係式を用いると以下が得られる
$$
\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\dot{\bar{\mathcal{A}}}_{\xi}}
= \varepsilon_0 \dot{\mathcal{A}}_{\xi}
$$
$$
\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\bar{\mathcal{A}}_{\xi}}
= - \varepsilon_0 c^2 [ (\bm{k}\times \bm{\mathcal{A}}(t)) \times \bm{k} ]_{\xi}
$$
よって,オイラー=ラグランジュ方程式として以下が得られる.
$$
\varepsilon_0 \ddot{\mathcal{A}}_{\xi}(t) = \varepsilon_0 c^2 [ \bm{k} \times (\bm{k}\times \bm{\mathcal{A}}(t)) ]_{\xi} \\
\ddot{\bm{\mathcal{A}}}(t) = c^2 \bm{k} \times (\bm{k}\times \bm{\mathcal{A}}(t)) \\
[\mathrm{i}\bm{k} \times (\mathrm{i}\bm{k}\times \bm{\mathcal{A}}(t)) + \frac{1}{c^2} \ddot{\bm{\mathcal{A}}}(t) = \bm{0}
$$
これを実空間の方程式に戻すと,ベクトルポテンシャル$${\bm{A}(\bm{r},t)}$$に対する上記の波動方程式が得られる.
このようにラグランジアンやハミルトニアンに基づいて電磁場を解析するときに複素偏微分が出てきたりする.ここで示したのは非常に単純な真空の場合だが,荷電粒子がいたり,スピン自由度まで考慮して議論する場合,計算を単純にするために,実空間の座標$${\bm{r}}$$の代わりに波数$${\bm{k}}$$で考え,複素偏微分などを使って解析することがある.詳細は下記の文献を参照のこと.
参考文献
Claude Cohen-Tannoudji, Jacques Dupont-Roc, and Gilbert Grynberg,
Photons and Atoms: Introduction to Quantum Electrodynamics (Wiley, 1997).
Wiley Online Library
横浜国立大学付属図書館蔵書検索
問題3-2
以下の複素偏微分の結果を,教科書にある複素偏微分の表式や合成関数の微分などを使って導け.ただし,$${f(z)}$$は任意の関数とする.
$$
(1) \quad \frac{\partial}{\partial z}|z|^2 = \frac{\partial}{\partial z} z\bar{z} = \bar{z}
$$
$$
(2) \quad \frac{\partial}{\partial\bar{z}}|z|^2 = \frac{\partial}{\partial\bar{z}} z\bar{z} = z
$$
$$
(3) \quad \frac{\partial}{\partial z} f(\bar{z})z = f(\bar{z})
$$
$$
(4) \quad \frac{\partial}{\partial\bar{z}}f(z)\bar{z} = f(z)
$$