企画コンペを有意義にするために大切なこと
PRやプロモーションの動画制作をオファーされる際、「企画コンペで決めます」と言われることは多い。
それなりの予算をかけるのだから、それも当たり前だろう。根拠もなく「あなたの会社に発注します」とは言いにくい。
でもコンペは無計画に行うと、しばしば陥穽に陥る。
あるプロジェクトの“座礁”
あるメーカーの採用広報動画を制作した時のことだ。
その会社は複数の制作会社を集めてコンペをし、X社の企画を採択したものの上手く滑り出せず、プロジェクトが“座礁”。
知り合い経由で助けを求められ、当社がゼロから引き受けることになった。
じっくりオリエンを受けて制作を進めるうちに、“座礁”の理由が見えてきた。
それは、求めるものがきちんと制作会社に伝わっていなかったから。
その上で、本質でない「表現アイデアの捻り」を評価し、X社の提案を社長以下役員の合議で採択していた。
その状態のまま制作がスタートし、互いの乖離がどんどん広がってしまったようだ。
残念な小手先勝負
中止には至らなくとも、制作中に発注者と制作会社が揉めるケースはたまに耳にする。
コンペは「勝てる企画」にするために、しばしば本質以外の勝負になるからだ。
その結果、最も重視すべき部分がうやむやになってしまう。
特に、社外コミュニケーションが専門でない発注者で、なおかつ予算や納期等の条件に遊びがないときは、小手先勝負になりやすい。
友人の某社プロデューサーの言葉を借りれば、「コンペだから、思いっきり見た目のエッジを効かせる。目立ってなんぼだから」。
件の会社の人事課長は「コンペにしなきゃ本気出さないでしょ?」と仰ったが、勝負に勝つための見かけばかりに気を取られてしまえば、残念ながら「本気を出す」状態とは程遠くなってしまう。
企画者のパフォーマンスを引き出す6要素
もう少し互いにとって幸せな企画コンペにできないものか。
参考になるのが、宣伝会議の「Creator 2018」に掲載された株式会社セプテーニ・ホールディングスの加来幸樹氏の記事だ。
それは『要点を簡潔に伝えるオリエン技術』と題したもので、
『優れた広告表現を実現するためには優秀なクリエーターの力は欠かせない。しかし彼らのパフォーマンスは、整えられた舞台上でこそ輝く。提供するのは発注者の役割だ。』
というリード文で始まる。
そして、広告クリエイティブにおいて「問う」べきこととして、
『結局のところ昔から変わらない「WHY(どんな目的のために)、WHO(どんな人に)、WHAT(どの価値を)、HOW(どんな表現で)」コミュニケーションをするのかという4つについて考え抜くことです。』
としている。
加来氏も語っているように、昔から変わらないオーソドックスなアプローチだが、これらの「問い」が考え抜かれてオリエンで示されることはあまり多くない。
そして、加来氏のアドバイスで「確かに!」と思うのは、
4つに加え「MUST」(縛る部分)と「FREE」(自由な部分)を提示せよ、という点だ。
『広告クリエイティブのオリエンテーションといってもさまざまなニーズがあると思いますが、いずれにせよ大切なことは、「縛る部分と自由な部分をそれぞれ明確にすること」、つまり「期待」を正しく問うことです。』
本気にさせるコンペ
加来氏は発注側とは言え、インターネット広告事業を手掛ける優れたプロだ。
この文章も「デザインを担当するクリエーターに向けたオリエン」という趣旨のもので、「発注企業が行う企画コンペのオリエン」とは少し状況が異なる。
とは言え、通底するものは変わらないとオリエンを受ける側として思う。
こんなオリエンなら、クライアントが求める方向性がしっかりフォーカスされ、どこがコンペで戦う土俵かがきちんと伝わる。
そして企画提案する側は間違いなく本気モードで、見た目のエッジではない本質的な提案をするために努力するはずだ。
少なくとも、私はそうする。
(記事:P&D_TSUBAKURO)