うっきうきぃ〜

 私が入れなくなったリビングに夜中こっそり入ったら、私が破いたクッションがなくなっていて、ソファの上にはかわりの新しいクッションが置かれていた。
 ねぇ、ママ。歯を磨いている時に歯茎から出てくる血は、出てもいい血なんだって。私の体にも必要なものがあったのかな。ねぇ、ママ。草刈機を飛び越えても抱きしめてくれるママはもういないよ。涙が一粒。
 私が知らないクッション。私が知らない家電。そのエリーゼのためには、なんの合図?もう壁も叩いてくれなくなったね。
 部屋の時計は2、3分遅れており、それをいつまでも覚えていられない私はやはりスマートフォンで時刻を確認するのだ。そういえば、私の腕時計は?
 いやだな…。妙に寒いのに、手だけ暖かい。眠いのかな。
 鼻が痛いのは、寒いからなのか、涙が出そうだからなのかわからなかった。ふぅん、と尖らせたその子の唇は、赤い口紅を塗っているのか、皮が向けて血が出ているのかわからなかった。いつだって水の中にいるのか雪が降っているのかを即時に判断することは難しい。いつだって、いつだってですよ。
 ポストのないローソンを横目に、今日も車を走らせる。都合よく今翼とか生えてきてさ、バレたら死ぬとかどうとか、どうでもいい。
 永遠を証明することなんてできないけど、永遠が無いことも証明できないから。なら信じない方がお得でしょ?もしなかったとき、あると信じていた時の方が絶望感は大きいもの。なんて、使い回された言い回しだけど、実際そうだから使い回されてるんだよ。
 ところで私はいつまで杉並区に囚われればいいのだろう?とっくに忘れていたと思っていたよ。思っていたということは、忘れていなかったということでもあるけれど。
 はぁ。もっと賢い女になりたいな。あと林檎いくつ食べれば、人並みの知恵が得られるのかな。私は強いから全部許さないで忘れないでいてあげるけど。あなたはどうなの?
 いつだって、貴方から手放しているんだよ。数時間経つと、全てを忘れてしまうみたいだね。忘れないように、油性ペンで書いておこうか。夢を壊してはいけないので、君の仕業だと言ってやった。
 そう、ずっと夢を見せてくれる者だけが私には必要だったのかもしれないね。君が告白してくれた時、こんな人は他にいないと本当に思ったよ。失ってからしか気づけないのは、人間がそういう仕組みだからなんだよ。永遠に、君が言ってくれた言葉は忘れないから。だからいつか戻ってきてほしい。君が好きって言ってたところ、全部そのままにしておくから…。
 私のために十字架をかき集めてくれる人はいないけど、私のために冬の間アヒルを匿ってくれる人ならいるよ。そうすれば、疑問も抱かなくなるのをちゃんと分かってくれている。その人のためだけに今は生きたいな。
 片目がなくなったぬいぐるみも、可愛いって言って欲しかっただけなんだよね。本当は分かってほしいだけ。
 ママの合図がしたから今日は帰るよ!酷く脅えているように見えるけど、大丈夫?
 


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