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父の思い出と、DREAMS COME TRUE

もう10年以上前、14歳か、15歳くらいの頃だったと思う。

父が唐突に言った。「ドリカムのライブ行かへん?」

その頃、絶賛反抗期だった私は、父と話すことがほとんどなかった。しかも、親が離婚するかどうかという時期で、父への不信感はとても高い時期だった。

父は、ただ単純に娘の機嫌を取りたかったんだと思う。でも、当時ドリカムを聴く中学生なんていなかったし、アイシテルのサインなんて興味もなかった。そういう少しずれてるところが父親が嫌われる理由なんだろうな、と思う。

ただ、一方で楽器をやっていたこともあって、ドリカムのライブに行けるのであれば行ってみたいとも思った。

「当たるんやったら、行く」

ほとんど話すことがなかった父娘は、ドリカムという話題で少しだけ繋がったのだ。

父がドリカムをどれくらい好きだったかは知らない。どうやってチケットに申し込んだのか、いつのチケットを申し込んだのかは知らない。


結果的に、チケットが取れず、ライブに行くことはなかった。


チケットが取れなかったことを、父から聞かされたはずだったが、その時の父の顔も、自身の感情もほとんど覚えていない。行かなくていいからホッとしたのか、残念に感じたのか。

覚えているのは、「ドリカムのライブ行かへん?」と最初に問いかけてきたときの顔だけ。

それから、両親は離婚した。私は家があり、収入も安定していた母親に育てられた。父とは、月に一度定期的に会っていたが、思春期の娘と離婚した父親なんて、盛り上がる話は一つもない。

あれ以来、父はドリカムの話を一切しなくなった。もちろん、私もしない。父はライブに誘ったことすら覚えていなかったかもしれない。


今思えば、あの時もっと話を聞けばよかったし、あの時もっと話をすればよかった。思春期だったあの頃の私に、そんなことを期待するなんてできやしないと分かっていても思う。

父とは、彼が亡くなるまで疎遠だったし、年に一度か二度会う程度の付き合いだった。その事実を悔やむことはないが、ただ時々思い出しては、一人悲しくなる。

それ以来、私はドリカムを素直な気持ちで聴くことが出来ない。

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