理由を忘れてるぐらいが平和
こんにちは湊ノドカです。僕は心理専門職というちょっと変わった仕事をしています。
そういう仕事ならではのことで、ちょっと思うところがあったので3分ぐらいで読める短い記事にしてみました。
(以下の内容は個別事例ではなく、こういう仕事をしてると遭遇する話を一般化したものです)
息子を受診させたいという親から(こういう場合50~70代くらい)の電話が精神科に入る。
精神的な症状が出て、居ても立ってもいられず家の中で暴れまわり落ち着きがなくなった息子(10代後半~30代くらい)を受診させたいらしい。
親づてに息子の状態を聞くと治療がいるだろうというのは理解できるし、早い対応が必要なのも分かる。
しかし、当の息子本人は受診に同意しないそうだ。
そこで困った親御さんが言うのが
「そういうことなんで病院の方でなんとかして連れて行ってもらえないか」
「迎えに来てもらって説得してくれないか」
この内容、皆さんはどう思われるだろうか?
心情的にはそれぐらい病院がしてあげたらいいじゃないか、と思う人もいるかもしれない。
ただこれに応じる病院は恐らく存在しないし、応じることがあれば、その病院がつぶれてしまう可能性すらあります。
大雑把に言えば、人権の尊重というのがその理由です。
そう遠くない過去に精神科病院での人権侵害などが問題になっていました。その問題のひとつに本人か望んでいないのに受診を強制されたということがあります。
昔の状況を想像すれば、家族から精神病者が出てきたことを隠すために強制的に受診させて病院に押し込めようとする図式も思い起こすことができるかと思います。
また親の話が全く嘘で、親に騙されて怒って当たり散らしている息子がいるだけ、という可能性もありえなくはないです。
こんな場合であれば、病院が本人を迎えに行くことや本人の説得に行くことなんて、あってはならない大問題だというのは伝わるかなと思います。
その為、病院(診療所)の初手の対応は
「病院から迎えには行けませんので、なんとかご家族で説得して病院に連れてきてください(意訳)」
ということになります。
これで了解してもらえる人もいるけど、もちろんそうでもない人もいます。
「今精神的におかしくなってるから言っても分からないんです。だから病院の方でなんとかして欲しいってお願いしてるんです!精神科ならこういう状態で話が通じないことぐらい分かるでしょう!?」
みたいに言われることもあるし、けっこう怒られるし、罵倒されることもある。
けれども、上に書いたようなどうしてそうなってるのかっていうところを話せば、了解してもらえなかったことはありません。
振り返って考えてみると、
僕らは、そこまで人権が守られていない状況というのを想定しなくなっているんだなと、好意的に見ればそんな解釈もできたりします。
もちろんまだ守られていない権利も守られるべき権利もたくさんある。
そういうものも、元々がどうしてそうなっていたのかが忘れられるぐらいに当たり前な世の中になったら良いよねと思いました、という話です。
ちなみにだけど、この例の息子が人に危害を与えそうな状況だったり、自分を傷つけそうな状況だったりということであれば警察か保健所に連絡すると対応してくれることがあります。警察や保健所が一旦本人を保護して病院まで連れていって受診するという形です。
この国では(ある程度)強制力を働かせていいのは公権力ということになっているみたいです。
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