人生の方向性に迷わない心理学①
過剰なタイトルな気もしますが…
色々な人にとって、特に何らかの創作活動をする人にとって有用なものになるのではないかと思います。
この記事の内容は心理学の中でも、行動主義派の比較的新しい知見と関連するものです。
(詳しく言えば、認知行動療法の第三の波とも言われる、文脈的行動主義やアクセプタンス&コミットメントセラピー(以下ACTと略)がネタ元です)
この記事の次に、総合的で誰にでも使いやすいツールのAct Matrix(考案者によると彼の5歳の息子でも理解できた…!)について書くことを考えていますが、その前提になる部分から記事にしたいと思います。
今回の記事の内容は一般向けに分かりやすく書いていくつもりです。
もし必要でしたら、記事の終わりに参考文献などを載せていますので参照してください。
人生を進めて行きたい方向
あなたは、次のふたつの選択肢のどちらを選びたいと思うでしょうか?
①たいてい、自分が大切にしている人生の方向性に、向かって進む行動をしている
②たいてい、自分が大切にしている人生の方向性から、逸れた行動をしている
おそらく多くの人が①を選ぶでしょう。
ですが、僕達は往々にして②の行動をとってしまっていることがあります。
例えば、来月にあなたにとって重要な締め切りがあったとして(創作物の提出期限でも、仕事での提出物、学校での課題など)、
早くからそれに取り組みクオリティを上げることはあなたにとって重要なはずなのに、
ついついPCを開いたあとにYouTubeをだらだらと見て時間が過ぎたり、
それに向き合うのが億劫でついつい後回しにしてしまったり…
後になって、大事なことから逸れた行動で時間を無駄にしちゃった、と悔やんだり…
こう言われると、恐らく多くの人が自分のこととして感じるのではないでしょうか?
これから紹介していくのは、僕達が出来るだけ①のように行動していくために役立つ考え方やツールです。
内容を読んでいただいて、自分ならどうだろうか?と考えて書き出すだけでも役に立つと思います。
今回は第一稿目なので、ベースになる部分から書いていきたいと思います。
まず、自分はどの方向に進んでいきたいのかを明確にすることです。
「価値」という考え方
創作をする人も、そうでない人も、「こういう自分でありたい」「こんなふうに生きてる自分が理想だ」というような、自分の人生を進めていきたい方向性というのが少なからずあるかと思います。
例えば、最高の演奏をしていたい、自分の作品の世界観を追求したい、幅広い知識を身につけたい、誠実な仕事をしたい、人に優しくしたい、家族や友人を大切にしたい…などなど
この記事ではそういった、自分の人生を進めたい方向性のことを「価値」と呼びます(これはACTでの呼称に準じています)。
人は自分にとっての「価値」に繋がって行動しているとき、人生の充実を感じます。
困難な状況にいるときでさえも、「価値」を意識することで生き抜くことができます。
かのアウシュビッツ収容所を生き抜いた精神科医も「価値」を重視していたらしいです。
例えば…
あなたにとっての「価値」が芸術性の追求であれば、芸術性を追求した作品を作り出すためなら、産みの苦しみを強烈に味わったとしてもその活動に取り組むことが充実した時間になるでしょう。
仲間を大切にしたい、仲間と一緒の時間を過ごすことがあなたの「価値」であれば、仲間との時間は充実したものと感じられるはずです。また大切な仲間のために骨を折ることがあっても、頑張ることができるでしょう。
困っている人を助ける仕事がしたいというのが「価値」であれば、面倒な人間関係の調整をしたり、新しい製品を作り出すような大変な工程を乗り越えることも、やりがいに感じられるでしょう。
この辺りは「まあそらそうやろ」「当たり前だな」と感じるだろうと思います。
しかし、初めて「価値」を書き出そうとすると、多くの人が「価値」と定義されているものとは違うものを書いたり、しっかりと考えられた「価値」にならないことが多かったりします。
適切に設定されていない場合、「価値」は上手く機能せず、僕達の助けにならないどころか、より状況を悪くしてしまうことさえあります。
よくある間違い
よくある回答でもあり、よくある間違いとして挙げられるのは
「沢山のお金が欲しい」
「もっと自由な時間が欲しい」
「○○さえ無ければ、△△できるのに…」 などです。
「沢山のお金が欲しい」は心からの声かもしれませんが、「価値」とは、沢山のお金があったら、もしくはもっと自由な時間があったら、「あなたは何をしたいのか」「あなたは(他者や世界に対して)どのように振る舞いたいか」の方です。
お金があれば世界中を旅したいのなら、世界中を旅すること、もしくはそこで得られる経験等、あなたが重要だと感じるものこそが「価値」なのではないかと考えられます。
「○○が無ければ、△△できるのに…」は惜しいものかもしれません。△△が本当に重要な行動であるなら、「△△したい」が価値になります。「○○が無ければ」の方が重要だと考えているのなら、〇〇があなたにとって苦痛な部分であることは確かだと思いますが、それは「価値」とはまた違うものです。
大事なポイントは、「価値」は「したい行動の方向性」であって、条件等ではないということです。
これは条件を気にするなということではありません。
何でも上手く機能させるためには適切な設定が必要なように、そのような条件を含めることは「価値」の適切な設定の妨げになるということです。
価値は目標ではない
価値と目標は近いものに感じますが、実は違うものです。
価値が方向性であるのに対して、目標はその方向を進む途中にある目印と言えます。
仮に、日が昇る方向に進んで行きたいという「価値」を持っていたとしたら、(日本にいると仮定して)目標はアメリカ大陸に渡る、ヨーロッパに行く、トルコを目指す、インド、中国、日本…となっていくでしょう。
東に進んでいく一歩一歩が、価値と繋がった行動になります。
またピアノが上手くなりたいという「価値」を持っているとしたら、目標はバイエルをマスターする、○○コンクールにでる、県のコンクールで最優秀をとる…などになってくるかもしれません。
そのために日々ピアノの練習をすること、理論を学ぶこと、参考になる演奏を聴くことなどが、価値と繋がった行動になるでしょう。
「オリンピックで金メダルをとる」のような難易度がかなり高い目標は、ときに価値と混同されがちです。しかし、これはやはり目標です。
「オリンピックで金メダル」が「価値」と繋がった目標だとするならば、その人にとっての「価値」は、その競技をもっと上手くなりたい、いつまでもその競技を楽しみたい、等ではないかと推測されます。
「価値」は基本的に終わりがないものです。
ピアノが上手くなることには終わりがありません。世界一だと認められたとしても、世界一の演奏を更新し続けることができるでしょう。そのような方向性こそが「価値」なのです。
目標は達成すればそれで終わり、また次の目標に向けて進んでいくものです。東に進む途中のマイルストーンのようなものと言えるでしょう。
感情は「価値」ではない
「価値」は人生の方向性のようなものですが、例えば「不安を感じずに暮らしたい」や「もっと幸せになりたい」というのは「価値」にはなりえません。
大事なのはその先です。もしあなたが不安を感じないでいられたら(十分に幸せを感じられていたら)、どんなことがしたいでしょうか?どのように振る舞いたいでしょうか?
不安が強くて発言する自信がないのであれば、不安を感じないようになるのが「価値」なのではなく、自信をもって発言することが「価値」だろうと考えられます。
あなたがそうしたいと思う行動の方向性こそが「価値」であり、どう感じたいかは「価値」とは別の話なのです。
感情は「価値」ではないことを把握しておきましょう。
価値を見つける
あなたにとっての「価値」は見つかっているでしょうか?
これだという「価値」が見つかっているのなら、それはとても素晴らしいです。
一方、上手く見つからなかったり、これまでの内容でそれは「価値」にはならないことが分かった人は、「価値」を見つけるために次の質問に取り組んでみましょう。
もしあなたが、十分なお金と地位と時間と、良い人間関係も持ち、誰からも信頼され、温かく接してもらうこともできる、そういった状況が既にあったとしたら(全てが完璧に準備されていたらと言ってもいいかもしれない)、
あなたは、どのようなことに時間やエネルギーを注ぎたいでしょうか?どのような態度で人々や社会と関わり、どのように振る舞いたいでしょうか?
そのなかでもやりたいこと、人と関わる態度や振る舞いがあなたにとって重要なものである可能性が高いです。
あなたはどうでしょうか?
何がしたいでしょう?
どのように人々や世界と関わりたいと感じるでしょうか?
その全て完璧に準備されている、という状況を踏まえた上で
音楽を楽しみたい、
様々な知識を得る為に沢山の本を読んだり沢山の人から教わりたい、
真摯に人と関われるようにしたい、
大切な人達に優しく接したい、
などを心から思えるのなら、おそらくそれらがあなたにとっての「価値」になるでしょう。
「価値」は1人に1つではなく、複数の価値を持っているのが普通です。
例えば、自分自身の健康を保つことや、家族や友人を大切にすることなどは多くの人が共通して持っている「価値」のひとつです。
多ければ多い程良いとは言えませんが、ある程度の数の価値を持っている人の方が、僕の経験上、健康度が高い傾向があるように思います。
あなたが、あなたにとっての「価値」を見つける助けになっていれば嬉しいです。
日常のふとした瞬間、そのときどきで自分自身と「価値」について意識的に注意を向けることで、「価値」から逸れる行動は減りやすくなります。また「価値」に繋がった行動も増える傾向があります。
今後もこれらと関連する役立つ情報を記事にしていければと思いますので、また読んでみてください。
もし感想やご意見などありましたらコメントなどもらえるととてもありがたいです。スキやフォローも大歓迎です。
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参考文献など
今回記事にした「価値」はACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)の重要な構成概念のひとつです。
ACTは心理学の中でも、行動主義心理学や行動分析、行動療法などとの関連が深いものです。
ACTは一見すると、行動主義心理学がもっているような「動物実験した結果こうするのが効果あるのが分かりました!」みたいなニュアンスとは違うところにありそうに感じますが、行動主義の偉大な発見である学習理論や三項随伴性を前提としていることは開発者も明言しています。
「価値」を含めてACTを理解するのに役立ちそうな一般書はコレです。
タイトルがちょっとアレな点を除けば、ACT関連の書籍としては最高だと思います。とても読みやすく、理解しやすく、実践にも移しやすいです。
より専門的な知識が欲しいという方には、こちらが良いと思います。
実践家にとってはバイブルとなっているものです。
ただ最初の理論的な説明のところが読みにくくは感じます。
ACTのベースになっている理論のひとつに関係フレーム理論というものがあるのですが、その辺りをある程度理解していないとちょっとハードです。
もし同業者の方などで行動療法にもちょっと興味ある人がいれば次のがおすすめです。どちらも良書です。
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