古くなったりしないで

右手中指のマニキュアが剥げていた。つやつやした濃いグレーの塗装は爪の半ばでぺりんと折れて、下にねむっていた桃色のすっぴんが半分ほど露わになっている。
その中途半端なエナメルと生爪のあいだに、まだ健在である左手人差し指の爪を差し込んで力を入れると、剥げかけのマニキュアはよく乾いたかさぶたのように、一気にぱかっとはがれてしまう。この一瞬を境に、そっと爪に落とした塗料も、ていねいにかけた時間も、世にもつまらないものになる。
よいしょ、と重い腰を上げてグレーのかさぶたをゴミ箱に捨て、起こした身体の慣性を使ってお風呂にむかって歩きだす。暖房の効かない部屋で、指先までも動かせなくなってしまう前にお湯につからなければ。

冬の寒さに飽きたころにマフラーをもらった。モスグリーンの、毛の長いマフラー。趣味じゃないけど笑顔で受け取った、どうせこれを巻いている姿を見せることはこの先一生ないと思うから。息を止めて脱いだスウェット、少し乾燥気味の肌を冷気がなめる。ポケットに入れていたスマホを、タグが付いたまま床に無残に捨てられているマフラーのかたまりめがけて投げる。無事着地。

風呂から上がってカーテンを閉めようとしたときだった。この部屋から見える空は南東だから、正面からもうすこし東側の上空に、眩しい点滅が見えた。なんだあれ?と思いながら眺めていると、星よりも大きく、飛行機よりも早く動くその光は円を描くようにくるんと夜空をすべり、遠くの方に消えてしまった。

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いつものアンニュイ系文章だと思ったでしょう。
UFO見てんけど俺

いや、怖~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

風呂入っちゃったけどまあいいやちょっと見てこよ!!とコートを羽織り、床に放っていた毛の長いマフラー巻いて急いで外に出たけど、空は曇っていて、なにも見えなかった。ドキドキしながら帰りにホットレモンを買って、寒い部屋でちびちび飲んだ。心が動くってこういうことだっけ。ちょっと違う気がするけどまあいいか。

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