ばかやろう
「箸の持ち方が違う」、「行儀が悪い」
幼い頃、父にはよく叱られた。
時には手を挙げさえしてくる父を、私は少し疎ましく思っていた。
中学生のとき、小さな事が原因で私は家出をした。
しかし、案の定行くあてもなく、父に連絡を入れて迎えにきてもらった。
「また怒られるのか……」
しかし、父が発したのは意外な一言であった。
「ありがとう」
後になってわかったことだが、この日父は会社を早退し、必死になって私を探してくれていたらしい。
無事でいてくれてありがとう。
連絡を入れてくれてありがとう。
帰ってきてくれてありがとう。
かすれそうな声で発された小さな一言は、とてつもなく重みがあり、温かかった。
数々の叱責の裏に父の不器用な愛情が隠されていたことを、私はこのとき初めて実感した。
その父が今、悩み事を抱えて精神的にだいぶ弱っているらしい。
だから私は声を大にして言いたい。
「ばかやろう」
何落ち込んでいるんだ、ばかやろう。
ひとりで抱え込んでばかやろう。
力になれないとでも思ったのか、ばかやろう。
誰に似たのか、私も負けず劣らず不器用である。
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余談だが、この記事を執筆したのは3年ほど前のこと。
今の父は、ゴリゴリに元気です(笑)