ホットミルクとかけがえのない嫌悪感
私はホットミルクが嫌いだ。
5年程前、まだ私が高校生だった頃の寒い冬の日。
寝坊して慌てて家を出て行こうとする私に、父が決まって玄関で差し出したのは、大嫌いなホットミルクだった。
ただでさえ猫舌なのに、表面に張り付いた膜が追い討ちをかける。
“何故熱くした?”
そんな思いを牛乳と一緒にグイッと飲み込む。
そして、明け方の痺れる空気で舌を冷やしながら、よく学校へ向かった。
そんなこんなで高校を卒業し、一人暮らしを始めた。
上京して1年目の、ある冬の日。
寝坊して慌てて家を出ようとしたその刹那、不意に頭をよぎったのは大嫌いなあいつのことだった。
その場しのぎに冷蔵庫で冷えた牛乳をがぶ飲みし、家を出て驚いた。
寒い、こんなにも寒いのか。
身体の内側からキンキンに凍る感じがした。
玄関で手に取るホットミルクが、初めて愛おしく思えた。
それからちょうど良いホットミルクを作ろうと試行錯誤したが、熱すぎたりぬるすぎたり、これが案外難しい。
たかが牛乳を温めるだけのことに、父もこんなにも苦戦していたのだろうか。
そう考えると、あのホットミルクの本当の温かさがわかった気がした。
冬になるといつも思い出す。
大嫌いなホットミルクと、身体の芯からぽかぽかだったあの寒い寒い冬の日々を。
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