気づけば、遠くに見える街の光。雲の隙間から手を振る一番星。 何時間も座っている。 波の音だけは変わらず、私の心に寄り添うようにさざめきつづけていた。 …。 ……。 ………。 「がんばろう。」 「…何を...?」 「次の生活、全部かな。」 「あー。全部ね。」 「笑わないの?」 「うん。」 …。 落日に涼やかな風がなびいている。 「あなたなら心配ないって知ってるから。ほんとうに頑張っていくんだって、分かってるよ。」 私は心の底からそう思っているから。
「ねえ、見てるこっちが寒くなってきたんだけど。どうしてかき氷食べてるの?」 「え~?だって…まだ夏休み気分でいたいじゃん。」 「あきれた。きっと秋なんてすぐ終わって、そしたら冬も…」 「いいからいいから。あなたも一口食べる?」 「…。」 「…。」 「…欲しい、かも。」 「ほら~やっぱり。はい。」 …。 ……。 ………。 「今年はさ、ほんとたっくさん遊んだよね。」 「あー。思い出すだけで汗がにじみそう。」 「お台場のジェラートも美味しかったし、月島の
「もうすぐ卒業ってことは、この町ともあと少しでお別れか~。」 「本当に行っちゃうの?全然そんな気しないけどな。」 「こう見えてもちゃんと準備してるんだよ。例えば…サークル勧誘の上手な断り方とか。」 「もっと他にやることあるでしょ~。」 秋刀魚を焼く匂いがする。もう星もちらついていた。 「あのさ、せっかくだから卒業したあとのことも考えちゃおうよ。」 「あかりは未来を見てますな~。どうしちゃう?」 「もしここに帰ってまた会ったらさ、月の裏まで一緒に行っちゃおうよ。」
「あ~あ、卒業式も終わっちゃったね。」 「なんかあっという間だったね。」 「ほんとに終わりだね…。」 「うん。」 「….。」 「….。」 「あかり。」 「?」 「こっち見て。」 「え?」 シャッター音のあと、カメラがジジ、と鳴いてフィルムを吐き出した。 「最後の一枚さ、残ってたんだよね~。」 「….。」 「これ。あげるから。遠くに行っても、私のこと忘れないでね。」 「ふふ、何言ってるの。」 「ほんとに。忘れないでね。」 「当然でしょ。忘れるわけ