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電気料金の値下げとモルヒネ中毒
電気料金の明細を見て、目を疑った
電気料金が大変なことになってる。
わざわざ書かなくても、誰もが実感していることなんだろうけど、ざっと3ー4割は上がっている。電力会社によってはもっとひどいところもあるようだ。
それもこれも、世界中で起きているインフレのせいだ。特に、石油や天然ガスなどの化石燃料の価格が上がっているからだ。
インフレ憎し。
そんな中、政府は負担軽減策を打ち出してくれた。電気料金に補助金を出してくれることで、昨年並の電気料水準になるらしい。(6月には更なる値上げが待っていると言う話もあるが、、、、)
アンビヴァレンツとは、まさにこのことだ。
一消費者としては、もちろん嬉しいのだ。しかし、経済対策としては長期間続けるのは非常にやばい政策だと思っている。
誰もが物価高で苦しんでいるのに、電気料金の補助金に反対するのは、心苦しい。
小川さん並みにバチボコに怒られそうだ。
1月1日の朝まで生テレビで、小川淳也さんは、「消費税は25%にするべきなんです!!」と発言して、その後に大炎上した。
スタジオで、「君たちだって、日本の借金が増えるのは嫌でしょ」とこっちを向いて同意を求められたが、「いやいや、それは違うだろ」と思っていた。
小川さんの意見には賛同できなかったが、多くの有権者を敵に回してまで、消費税25%を口にしたのは尊敬に値すると思った。他の出演者の多くは、自分のポジションを守るためのトークだったからだ。
その後、小川さんの議員室でも激論を交わしたが、意外と同意できる部分は多かった。消費税25%には賛同できないのだけど。
話を戻すと、負担軽減策を長期間続けるのはまずいと思うのは、この政策はあくまでも短期的な対症療法でしかないからだ。
根治療法を伴わなければ、日本は本当にやばいことになってしまう。
電気料金の中の嫌われもの
僕らが気にしている毎月の電気料金は、使った量によって金額が決まる。基本料金はいくらで、kwあたりいくらでという価格が決まっている。そこから、さらに調整されている。
大きく二つ。再エネ賦課金と燃料調整費だ。
こいつらが曲者だ。
去年、石油価格が上がるまで、嫌われ役を一手に引き受けていたのが、再エネ賦課金だ。
再生可能エネルギーを普及させるべく、2012年から政府は太陽光発電や、風力発電などの固定買取制度を始めたのだが、当初はその固定価格が相当高かった。
太陽光発電だと1kwあたり40円程度。通常の電気料金がだいたい1kwあたり20円くらいだということを考えると、倍近い価格で買い取っていることがわかる。
その差額を埋めているのが、この”再エネ賦課金”だ。
電気料金に上乗せされているこの金額がここ数年増えていて、
「再生可能エネルギーでもうけている奴らはけしからん」
という批判もあったりした。
さて、昨年からもっと強大な嫌われ者が登場した。もう一方の”燃料調整費”だ。この金額はプラスになることもマイナスになることもある調整額なのだが、ロシアのウクライナ侵攻が始まったあたりから伸び始めて、現在では、3−4割程度、電気料金を押し上げている。
燃料調整費というからには、火力発電の燃料になる石油、石炭、天然ガスの費用である。これらはほぼ全て、外国からの輸入に頼っている。
この燃料調整費が上がっているから、政府が支援してくれると言っているのだ。たしかに、苦しい家計を助けてくれるのはありがたい。しかし、それによって市場原理が働かなくなることを忘れてはいけない。
GOTOトラベルと電気料金支援の違い
通常、価格が上がると消費を控えようとするし、価格が下がると消費は増える。
小麦粉の価格が高騰して食パンが1000円になれば、トーストを食べるのをやめてご飯を食べる人は増えるだろう。小麦粉の代わりに米粉を使ったパンを作ろうとする人も出てくる。
それと同じで、電力料金が上がれば、節電しようとうする人たちは増えるし、火力発電から他の発電に切り替えることをみんな真剣に考えるだろう。
ところが、下手に政府が電気代料金を抑えると、これまで通り電気を使おうとして、そういった努力を怠ってしまう。
これは、電気料金に限らず、補助金を払うことの弊害なのだろうが、他の補助金と大きく違うのは、お金の流れ先だ。
たとえば、GOTOトラベルのような補助金も、税金によって賄われるが、使われたお金は必ず国内に還流する。
ところが、この電気料金の場合は、使われたお金は海外に流れていく。
補助金によって電気料金の高騰が収まったからといって、「このままでいいじゃん」と放置しているとまずい。対症療法ではなく根治療法が必要だと言ったのはこの話だ。
国内のエネルギー自給率を高めるためにも、火力発電に依存している状況から抜け出すことは急務なのだ。
さっき、再エネ賦課金と燃料調整費の二つの嫌われ者が登場したが、実は再エネ賦課金はちゃんといい仕事をしていた。
太陽光発電が普及したことで、パネルや架台などの研究開発や大量生産が進み、設備を建設するコストは下がっていて、現在では、1kwあたり10円程度の買取でも採算が取れるようになっている。
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの発電シェアは1割を超えるようになった。日本のエネルギー自給率を確実に高めていて、将来の電気料金を下げることにつながっている。
電気代の補助金というモルヒネ
しかし、エネルギー自給率を高めるのには、そう簡単ではない。
太陽光発電は、自然破壊や景観悪化を理由に嫌われているし、風力発電も、自然破壊や景観悪化などを理由に発電計画の中止が相次いでいる。
原子力発電も安全性への懸念から地元住民を中心に反対する声は大きい。
現状のように、火力発電に頼るのは、心地いいのだ。唯一のネックが燃料を海外に頼ることなのだが、高騰しても政府が補助金を出してくれると思ってしまうと徐々に感覚が麻痺していく。
モルヒネを打っているようなものなのだ。
痛みを感じて、他の発電に切り替えないとモルヒネ中毒になってしまう。
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