
明け方の若者たち〜あんときの新宿駅や談話室滝沢や渋谷駅事変
上京して二年間は部屋に電話もなかった、途中からトイレだけあってずっと風呂はなかった、パソコンも携帯電話ももちろんずっと先の話だ
異性と連絡先を交換するにはたいていメモを渡し合うしかない、なくしたが最後、一生会えないと言ってもあながちウソではなく、どこかの名画座で一気に観た『君の名は』四部作(1953〜54)が面白くはなかったがリアルに感じられるほどだった
実際問題、必死の合コンで意気投合して後日二人で逢いませうとなったはよいが、待ち合わせの場所に相手は一向に現れない
新宿駅の東口改札と西口改札、今はなき談話室滝沢新宿東口店と新宿西口店、渋谷駅ハチ公口と南口、それらの勘違いによってめぐり逢うことなく、一期一会に終わった場合がいくつもあった
あの日あの時あの場所で逢えなかったらではなく逢えていたならば、その人たちと私の人生はまったくちがったものになっていたかもしれないし、わたしと逢えなかったがために彼女たちが幸せになっているとしたら、とてもめでたいことだがわたしの配偶者には申し訳ないことである
この作品では一通のLINEから恋が始まる
わたしの学生時代には当然あり得なかったことで、うらやましくないといえば大ウソになる
だがしかし、この男子はこの女子に完全に操られている、踊らされている、支配されていると思ったのも事実だ
苦渋の結論として、あの時代にケータイもSNSもなくてよかった、この時代にすでに終わった人間でよかった
さもなくばわたしは、何をしでかしていたかわからない

