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文章スケッチ▽ギリシャの風

水曜日、仕事帰りの夫と待ち合わせて、ギリシャ料理の店へ向かった。
駅を出てスナックや小料理屋が混在する住宅街を縫うように進んでいくと、青と白が美しいギリシャの旗を掲げた店に行き着いた。
店内はカウンター席があり、客はまだ私たち二人だけだ。

席に座って手作りのメニューを開き、二人で覗き込んで吟味した。メニューを見ただけでは味は全くわからない。
とにかくドリンクと前菜、そしてサラダを頼んだ。

普段はお酒を飲む方ではないため、飲みやすいと表記がある「ゼウス」を。夫は「アフロディーテ」を選んだ。最高神と、愛と美の女神の名を冠したオリジナルカクテルである。

ゼウスにはギリシャのウイスキーが入っていて、甘く尖った刺激が少なくとても飲みやすい。
アフロディーテも美しい青色のカクテルで柑橘の味がほのかにするさっぱりとした美味しいカクテルだ。

前菜はピタパンと呼ばれる薄いナンのようなものとセットにした。

前菜とドリンク

ディップソースが三種ついていて、キュウリとヨーグルトを混ぜたもの、ひよこ豆、タラモサラタ。タラモとは、タラとイモではなくギリシャ語で魚卵を意味する言葉だそうだ。
まずはキュウリとヨーグルトから。ピタパンにたっぷり塗り付けて、はむ、とかぶり付くと鼻孔をヨーグルトの酸味と爽やかな風味が吹き抜けた。
店内ではゆったりとした異国の曲がBGMとして流れ、キッチンに立つシェフが体を揺らして音楽に乗り料理をしている。
地中海からの潮風を感じているような気持ちになりながら、ひよこ豆をピタパンに塗った。
ひよこ豆のペーストも豆の味が強く、とても美味しい。タラモペーストも言わずもがなである。

サラダはビーツのサラダにした。ビーツは鉄分も摂れる最高の野菜だが、初めて食べたので一体どんな調理をされて目の前に提供されているのか検討がつかない。
濃いピンク色のソースを絡めて、食べてみる。
噛むとじゅわりと果汁があふれ、果肉は柔らかく崩れた。私はラフランスのようだと感じたが、夫は人参のようだと言っていた。確かに、風味の奥に人参のような味がいるような気がする。
香草がアクセントになって味を引き締めている。チーズがまぶしてあり、一緒に食べるのが美味しくてあっという間に食べ終わった。

メインとして二品注文した。
「ムサカ」と「ガリデス・サガナギ」である。

ムサカはギリシャ料理の定番らしく、お店のメニュー表にも、「これを食べずにギリシャ料理は語れない!」と書かれていた。
ジャガイモ、ナスと挽肉とトマト、クリームソースが層になった、イメージとしてはラザニアに近い料理だった。
クリームソースは豆腐のような弾力があり、こんなに固めることができるのかと驚いた。とても美味しくて、あっさりペロリと完食した。

ガリデス・サガナギ

「ガリデス・サガナギ」はエビのトマトソース煮込みのような料理で、殻付きのエビが四尾どかっと入っている豪快な料理だ。運ばれてきたのを見ると角切りのチーズが散らしてあり、麻婆豆腐のように見えた。
ナイフとフォークの扱いに少し緊張しながら殻をむいてみると、上手く食べられるように工夫されていて殻はあっさり剥けた。
スパイスが効いた料理で、淡泊なエビと風味豊かなスープがマッチしてチーズを添えて口に運ぶととても美味しい。

このお店では月に一品、テーマに沿った創作料理を提供しており、当日は12星座の神話に沿った年だった。五月初めは牡牛座をモチーフにした「ホタテの牛肉巻きソテー」。
メインの三品目として注文した。

ホタテの牛肉巻きソテー

ホタテを牛肉で巻いて焼いたものに、オリーブとドライトマト、そしてゲッパーがトッピングされている。
わさびだったかな、緑色をしたソースにつけてパクリと口へ。ツンとした刺激や、邪魔をするものは何もなくただ肉のうまみとホタテの食感が口に広がった。
牛肉は薄切りだが、ホタテの弾力で噛み応えがある。
一皿に三つ乗っているのをみて夫に二つ譲ろうと思っていたが、黙って半分こにして食べた。

デザートには「バクラバ」を食べた。
元々はトルコや中東のスイーツだったが、ギリシャに渡り今はギリシャを代表するスイーツになっているらしい。

バクラバ

パイ生地にナッツを挟んで焼き上げられた甘いケーキにバニラアイスとフルーツが添えられていた。
ケーキにフォークを刺すと、中からじゅわっと蜜が溢れ出てきた。もったいないのでケーキで綺麗に拭って口に入れると、一口目から蜂蜜のようなとろりとした甘さが口いっぱいに広がった。
そして、こってりした口に冷たいバニラアイスと添えられたキウイが嬉しい。
ベリーのドライフルーツも甘くて、小さな一切れだったが大満足だ。

お会計の際には寡黙に腕を振るってくれたシェフもにこやかにドアを開けて見送ってくれた。
何度も「ごちそうさまです」と言った。

食後も駅までずっとギリシャ帰りの気分を味わえた、楽しい食事だった。

お店URL↓
http://www.allapace.com/

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