毒
やっと心が少し静かになり始めて、自分の感情に涙ではない方法で向き合えるようになったので、頭の中を整理する意味でも文章にしておこうと思い立った。
日本を出て25年、タイにいる。タイ語の学校には行ったことはないけど、日常生活に困らない程度の会話と読み書きができるようになっている。仕事関係の文章も必要な部分については時間はかかるけど読める、意味も理解できる。100%じゃないけれど。
今の会社に転職してから、主に人の動きと管理を任されていた。それが突然数か月前に入札関係の文書作成のチーム管理及び文書チェックも仕事としてアサインされた。新たに加わった部署との連携もとりつつ、チームの動きや人の管理もしつつ文書もチェック。とにかく納期に間に合うようにだけを考えていた。遅れたらいけない。入札に参加できなくなる。困る。そんなことばかり考えていた。
繰り返される仕事の割り込みのお願いに文句も言った。悪態もついた。
他の部署との連携がうまくかみ合ってないのが目に付いた。
話を付けようと呼び出したら泣かれた。
部下からは増え続ける仕事と、割り込みと、不可能な納期で文句も出てた。
いっぱいいっぱいだった。
毎日笑顔で接するなんて無理だった。言葉もきつくなっていたと思う。
そんな僕を、この会社に呼び込んだ社長がみんなの前で
”お前は周りを巻き込む毒だ”と言った
あの日から仕事をすることが怖くなった
何をしても否定され、怒鳴られ、理由は聞いてもらえず
黙っていれば黙っていることに対して怒鳴られ
口を開けば黙れと怒鳴られる
自分がいかに価値のない人間なのかを思い知らされた数か月
それでも頑張ってくれている部下が少しでも働きやすくなるように
留まった
毒だといわれてから数か月
浴びせられる言葉は受け取らないと決めて過ごした
何を言っても聞いているのかいないのかわからない態度の僕に
”貴様がタイ語を理解する日は永遠に来ない”
と言われた。
当たり前だ、僕は日本人だ。言語は日々新しくなる。理解するなんておこがましいにも程がある。
でも、それが僕にとってのボーダーだった。
もうここに価値はない。僕ではなく、僕にとって。
さっき、仲良くしてくれた海外の取引先の人に退職することを伝えた。
お前は毒だといわれてまで頑張れるようないい人間じゃないよと説明したら
「君は毒なんかじゃない。むしろ解毒剤のような人だよ。」
うまいこと言うな。
年に数回も合わない人のほうが、心に残る言葉をくれた。
それだけで、ここでの日々は無駄じゃなかったと思える。