「自由な翼」
先日、友人と近くの水族館へ行った。
雲一つない、非常に清々しい空だった。
そこで見る景色は、幼い頃の断片的な記憶が思い起こされた。
水族館で焼きツブが食べられるだとか、迫力のあるトドの顔だとか。
けれどあの時は、自分がどこにいるかもわからず、ただ目の前に起こる出来事としてしか捉えられていなかった。
この水族館の名物は動物たちが訓練をして観客たちを沸かせるショーだった。
しかし、その中に一風変わったショーがある。
それがペンギンショーだ。
しかし、それが訓練を経てなのか、訓練せずなのかわからないが、ここのペンギンはまるで言うことをきかない。
その名も“自由すぎるペンギンショー”
この日もショーが始まりトレーナーが魚を持って指示するが、一向にハードルは飛び越えないし、浮島も渡らない。周りのペンギンたちも好きに水へ飛び込み、陸を歩き、うたた寝までする始末。
ショーという形式をとってのいいのかさえかわからないほどだが、しかしこれがショーという形式をとっているがために、観客の笑いを誘う。
けれど、このできないことこそが一番の自然動物らしい鑑賞なのだと思う。
自然の動物は、滅多なことでは人間が餌を与えてやるようなことをしないし、私たちが知りたいのは、完璧に演技する姿ではなくて、言語の通じないその1匹1羽が、どんな心を持つかということなのかもしれない。
その点において、このペンギンショーはそれぞれの行動の違いが、それぞれの心となって表れるように見える。
だからなんだか、まるで人間みたいだと、どこかほっこりしてしまう。
そして同時に、このショーという決められた枠のなかで、自由に翼を広げるペンギンが羨ましかったりもするのかもしれない。