祖母の人形
80過ぎた祖母から聞いた昔話。
祖母が結婚して間もなくのころ、夜道を歩いていると、向かいから腰の曲がった老婆が歩いてきた。老婆は大きな風呂敷包みを背負って、ゆっくりゆっくり歩いてくる。祖母はそれを見てすぐに「あら、人形を売っている人だわ」と思った。そこで老婆を呼び止めて、「それ、ください」と言った。
老婆が背負っていた風呂敷包みは、やはり人形であった。祖母はガラスのケースに入った日本人形を、3つすべて買って帰った。
ひとつめの人形は遊女。美しい着物を着て、斜めに座っている。祖母は、弟にそれを贈った。程なくして、弟は離婚した。妻がほかの男と逃げてしまったのだそうだ。
ふたつめの人形は町娘。行燈に照らしながら、手紙を読んでいる。祖母は、姉にそれを贈った。姉の家は火事になってしまった。出火の原因は分からなかった。祖母は、行燈の火が手紙に燃え移ったんだとため息をついた。
みっつめの人形は女形。祖母は自分の家にそれを飾った。
現在まで、とくに不思議なことは起きていない。祖母は、祖父が土産で買ってきた守り刀を入れたからだ、と、仏壇の前で遠い目をした。
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