ショートにしたらいいのに
毎年ぼんやりと思い出す。
500mlのビールを半分こにした夏を。
1Kロフト付きの彼の部屋に転がり込んで、毎朝毎晩一緒に暮らしていた。
ロフトを寝床にしていた私たちは、朝起きるたびにじんわりと汗をにじませて、ああ夏だなあと感じていた。
当時、わたしは学生。
彼は売れないバンドマン。
とにかくお金がなかった。
外に飲みに行くのは月に1度あるかないかで、
飲むと言えば狭い家の狭いベランダ。
彼はタバコをぷかぷか。
わたしは、駐車場に遊びに来ている猫をぼんやり眺めながら。
今日はこんなことがあった、と私たちは言い合って、
蚊にさされないうちに、しゅわしゅわがなくならないうちに飲み干して、
部屋に戻る。
毎日の数十分が、私たちにとっては夏の思い出みたいなものだった。
未だにわたしは、ビールのロング缶は1人では飲み干せない。
いつも少し残してしまうし、気が付けばぬるくて炭酸が抜けている。
500mlの缶ビールは、誰かと分け合うものとして頭に刻み込まれている。
ああ、夏だなあ。
今年も、飲めないくせに手を伸ばすのは、ロング缶。
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