251:ペンが影であり,「影」が本体であるかのように操作が進む_2024/05/19追記
Apple Pencilに関して,前回の記事で上のように書いていた.発表されたApple Pencil Proには,ペンをくるりと回して使う「消しゴム」がつくことがなかったので,予想は当たった.「消しゴム」の予想の当たり外れよりも,Apple Pencil Proを見ていると,Appleが予想以上に「情報を平面で操作させることに集中している」と思ったところが興味深いことであった.
Apple Pencil Proの新機能「スクイーズ」を使うと,画面にメニューが出てくる.これは以前も画面の上下左右に出ていたけど,そこまでペンを移動させるのが面倒だったし,移動するときに,どうしてもペンはiPadのディスプレイ平面から離れてしまう.でも,Apple Pencil Proでは,ペン軸を強く握るとメニューがペン先に現れる.ユーザが集中してみているのは,ペン先とその向こうの平面でそこにメニューが現れる.今までもディスプレイ平面にメニューが提供されていたけれど,スクイーズではユーザがiPadのディスプレイでその時見ている平面に情報が提供されるようになっている.iPadのディスプレイ平面にユーザの視界を重ね合わせて,そこに情報も重ねてしまうというのは,情報を平面で提供することを徹底していると言える.
Apple Pencil Proレビューで「戻る」の機能も,平面での情報提供を徹底している良い例だと思った.画像が見つからなかったが,「戻る」もスクイーズで現れるメニューのように画面に円形で表示されて,ダイアルを回すように作業を戻していく.「戻る」という機能もボタンを押した回数だけ作業を戻すのではなく,ペン先にダイヤル上で可視化して,ダイヤルを回す感覚で作業を戻す.ここには「消す」という作業をする際に,「消しゴム」というメタファーではなく,「undo」というコンピュータ特有のやり方がありますよ,というAppleの意志を感じる.そして,このやり方だったら,Kindle Scribeのようにペンを回すことなく,ディスプレイ平面の情報を操作するだけできますよ,iPad Proという「魔法のガラス板」には行為の厚みは必要ないのですと言わんばかりの機能だと,私は思ってしまった.
そして,情報を平面で操作させようとするAppleの極め付けは,iPadにApple Pencil Proの影が表示されることである.
影という物質を平面化してしまう現象をディスプレイの表現として取り入れてしまうところに,Appleの情報の平面化を感じてしまう.「戻る」機能はコンピュータ特有のものを可視化したわけだが,この影は物理世界の現象をわざわざ取り入れているということになる.ディスプレイは自ら光っているために,影が落ちない平面であったところに,Appleは「影」を表示させる.影を表示させるということは,その上の物体を意識させることになるが,それでも,その影を見ながら,Apple Pencil Proの向きを変えたりすると,ペンという立体物ではなく,平面に表示された「影」が操作を決定していくことになり,情報操作における平面のウェイトが高くなったと考えられるだろう.ペンが影であり,「影」が本体であるかのように操作が進むこともあるかもしれない.しかし,それを気づかせないように巧みな触覚フィードバックがユーザに返されていく.
デジタル特有の機能,物理空間特有の現象を取り込みながら,Appleは私たちに情報を平面で操作させようとしている.これが情報に対しての最適な操作方法なのかどうかはわからないが,私はAppleが目指す平面での情報操作がどこまで進んでいくのかがとても気になってきている.
2024/05/19追記
Apple Pencil Proで「ペンが影であり,「影」が本体であるかのように操作が進む」と書いたあとで,下の投稿を見た.Apple Pencil Proを使っているところを画面録画すると,「影」が描く行為をしていく様子が記録される.iPadにとっては,ここに映っている「影」に関するデータさえあれば,いつでもどこでも描くという行為をペンを動かす物体としての身体を再現できてしまうようになっている.「影」がなくても誰かが描く行為をしていたことは代わりないのだが,「影」があることで,行為を行った身体が意識されるとは書いてみたものの,ペンのみの「影」なので身体なくても,ペンが描くよということで,身体は要らないのだろう.
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