078:インタラクションのスレッドとコンピューティングのスレッドの二つのループ
「6 Interactive Compositions───Compositional Thinking Meets Material-Centered Interaction Design」のまとめ
インタラクションのマテリアリティは,特定のインタラクションを可能にするマテライルの構成的配置のマテリアルのフットプリントである.
Philosophy───On compositional material design thinking
「構成的インタラクションデザイン」「構成的マテリアルデザインシンキング」と言ったときの「構成的」の意味を理解する必要がある.まずは,視覚的要素を考えてみる.多くのインタラクションデザインでは,インタラクティブなサーフェイスはスクリーンをベースにしているので,視覚的要素の配置は最も重要である.GUIのデザインを考えてみれば,それは自明である.しかし,インターフェイスを見えるものにすることは別の方法でも真である.
インタラクションデザインは視覚的なものだけでなく,「機能性」という言葉からもインターフェイスは考えられる.そして,機能性からインタラクションデザインを考えることは基本である.インタラクションデザインの機能的要素は,他の要素を一つにまとめる「糊」のように機能する.
インタラクションのマテリアリティでは「視覚的」「時間的」「機能的」と言った3つの要素が重要となってくる.
インタラクションを構成するとき,インタラクションデザイナーは複数のマテリアルのあいだや部分と全体とのあいだを何度も行き来しながら,構成を考えていく
リニアな構成ではなく,そこには複数のパラレルなアクティビティが含まれている.含んでいる.そして,「モジュール・デザイン」のように,大きな構成物の複雑性を操作可能な部分に分割していくことが求められる.
Methodology───On doing compositional material interaction design
マテリアルの実験をする時は,フィジカルな特性だけをするだけでは十分ではなく,マテリアル・プログラミングや他のマテリアル(フィジカル,デジタル,非物質的存在)を稼働させることも考えなければらない.
Turning to practice───Three cases design projects
Example 1: Composing with only one material
アイスホテルアイスホテル氷という単一のマテリアル氷という単一のマテリアル
Example 2: Composing across physical and digital material
スマートリングは,スキュモーフィズムを超えた計算的オブジェクトである.なぜなら,リングの実際の形態とシンボリックな意味をプラットフォームとして借りているからである.この決断がフィジカルな形態とユーザの指という世界での場所を決定している.リングがインタラクションをサポートするだけでなく,実際の場所に占めるということがラディカルである.
Example 3: Designing modules and composing wholes
iPhoneのホームボタンiPhoneのホームボタンフィジカルなボタンが「ホーム」のシンボルとなっている.iPhoneで行われる様々なインタラクションにおいて,フィジカルなボタンと「ホーム」画面とを結びつけている.モジュールとしてのアプリと全体としてホーム画面があり,ホーム画面はフィジカルなボタンと結びついている.
ワイバーグが取り上げた「ホームボタン」は,iPhoneXで無くなってしまった.ホーム画面と特別な関係を持ったフィジカルな要素がなくなったことの意味を考える必要があるだろう.フィジカルなボタンを廃止して,画面がほぼ全面に広がったことで,iPhoneは非物質的マテリアルの側面を強くしているのだろう.iPhone7がデジタル世界の質感をフィジカルな塗装で表現したとすれば,iPhoneX以降はフィジカルなボタンを排除し,「押す」という行為を様々なジェスチャーに置き換えていくことで,あらたな非物質的マテリアル感を強調している.それゆえに,フィジカルを経由せずにジェスチャーでモジュールのアプリと全体であるホーム画面との行き来をジェスチャーで完結させたことは,インタラクションのマテリアリティを考える上で重要な出来事になると考えられる.
Toward a design theory of interaction───Some basic questions and models
インタラクションの基本的なモデルの説明インタラクションの基本的なモデルの説明
Toward a theory and a model of the materiality of interaction
インタラクションのマテリアリティを構成する二つの要素は,使用のプロセス[processes of use]とコンピューティングのプロセス[processes of comptuing]である.ワイバーグは,それらをインタラクションのスレッド(使用)[threads of iunteraction (use) ]とコンピューティングのスレッド(処理)[threads of computing (processing)]と呼んでいる.そして,インタラクションのマテリアリティはノンリニアモデルのインタラクションであって,二つの存在がどのように関係していくかではなく,インタラクション自体に注目するものだと考えている.「インタラクション」という存在を前面に出していく必要がある.
インタラクションのスレッドとコンピューティングのスレッドは絡み合っているだけではなく,図6.5のように二つのループで絡み合っている.そして,インタラクションを通して,あたらしいマテリアルが生まれていく.たとえば,ワードプロセッサーでは,インタラクションのなかで「文字」というマテリアルが生まれ,さらに,文字入力から文字編集というインタラクションが生じていく.
インタラクションのスレッドで行為が起こり,その行為から生じたデータをコンピューティングのスレッドが処理していき,画面や形態に変化を生み出し,それが再度インタクションのスレッドの変更を促していく.この行為と処理の二つのループのなかでインタラクションの形態とマテリアリティが生まれていく.このとき「マテリアル」とは,デジタル・マテリアル,フィジカル・マテリアルだけではなく,位置情報などの非物資的マテリアルも含むものであり,マイクロプロセッサが読み取り,書き込み,登録,検知,監視,または処理することができるものすべてものとなっている.
🧐
この章はこの本の理論的なまとめとなっている.ワイバーグは図6.5を説明するために一冊の本を書いたのだろう.ワイバーグはインタラクションのスレッドとコンピューティングのスレッドとの二つのループのなかで,「インタラクションの形態とマテリアリティ」は常に変化しているとしている.ヒトやコンピュータという存在が変化するのではなく,インタラクション自体が変化していくと考えているのが,興味深い.そして,図6.5では「インタラクションの形態とマテリアリティ」を囲む線が直線ではなく,ギザギザ,「波」のようになっているのが面白い.ワイバーグもインタラクションが常に変化していくという認識だったからこそ,このような描き方になったと思われるが,これはビデオ映像が視覚情報と聴覚情報を一つの波に統合していくように,インタラクションのスレッドとコンピューティングのスレッドとを一つの波=「インタラクションの形態とマテリアリティ」に統合していくことを示しているとも考えられるのではないだろうか.
このようにアナログな電子映像においてはデータを変調することにより画像と音声が一本の合成された正弦波,すなわち波として総合的にデータ化されるのである.したがってこの変調こそはアナログな電子映像の原理なのであり,そこから信号技術的なレヴェルで,電子映像における視聴覚の不可分性が作り出される.技術的原理からして,視覚的変化がまず電荷量の連続的変化として,次いでその同期信号を含む断続的な連なりとしてデータ変換され,一方で聴覚的変化は電荷量の連続的変化へとデータ変換され,さらに両者のデータが変調を通じて統合されることによって作られた,連続的な波としてのデータが,アナログ映像の本質的形態なのである.p.31
リフレクション───ヴィデオ・アートの実践的美学 河合政之
ビデオアーティストの河合政之によるビデオ映像についての理論的考察と,ワイバーグの考察を接合させると,デジタルなインタラクションはヒトとコンピュータとの複合体がつくる「インタラクションのスレッド」と「コンピューティングのスレッド」とが,一つの「連続的な波としてのマテリアル」をつくることを目指しているのではないかと考えたくなってくる.そして,河合がアナログ映像の本質的形態として上の指摘をしていることから,「インタラクションのスレッド」と「コンピューティングのスレッド」とが構成する「連続的な波としてのマテリアル」とは,デジタルでありながらも,アナログのような連続的変化ともに起こる連続的なインタラクションになっていると,私は考えている.ワイバーグから言えば,デジタルもアナログ=フィジカルも分けるのではなく,それらを横断して扱える手法や考え方をするべきなのだから,言葉としては分かれていても,適切な構成のもとで配置をすることで,あたらしいマテリアルが生まれてくると言えばいいのだろう.