218:作品と身体との相互関係に固有の現れを意識につくる
YOFの個展を「Paraillusion」を見てきた.YOFについては,以前,「情報」という視点から《2D Painting》シリーズを分析したテキストを書いた.
ここで書いているのは,YOFにおいては色や形が物質として捉えられているのではなく,3次元空間に配置された色情報として捉えられているのではないかということである.YOHの《2D Painting》シリーズは,物質を精巧に組み合わせて,色情報をダイレクトに提示してしまうことで,ヒトの認識をハックしていく.今回の個展で展示されていた《2D Painting》シリーズの新作は,物質の物質性というものをすべて捨象して色情報にするのではなく,色情報のなかで物質性を強調することで,さらに複雑な情報をつくっていた.
例えば,《2D Painting [2022001]》は,私には球が宙に浮いているとしか見えない.しかし,実際は赤いLED画面の上に載せられた青い色面を持つボックスの真ん中に穴が開けられていて,そのなかに凸状に湾曲したアルミ(?)の板が設置されている.浮いているように見える白い球体は青い色面の中にある.LEDがつくる赤く発光する面と青い蛍光塗料が塗られてブルーライトで微かに発光している青い色面,アルミに反射する光とが「球が宙に浮いているとしか見えない」という状況をつくる.
YOFは3DCGでピクセルを操作するように精巧に物質を操作して,物質としての現れとは異なる状況を,鑑賞者の意識に立ち上げてしまう.赤い色面の中に青い空間があり,そこに周囲の光を反射する白い球体が浮いている.青い空間はそこにはなく,白い球体もそこにはないけれど,それらは意識に立ち現れる.作品を横から見て,作品の構造を知った後で,再度,作品の正面に立ち,作品を見ても,「球が宙に浮いている」状況が,意識内で否応なく立ち上がる.作品の物質的構成というあたらしい情報を得ても,作品の見え方を意識的に変えることができない.
《2D Painting [2022003]》では,クシャクシャになった紙(?)のサーフェイスが,色面がつくる色情報の集積と異なる物質感を強調している.クシャクシャのサーフェイスは青い色面に開けられた開口部の奥にあるのに,上の作品画像は全くそのように見えない.そして,実際に作品を見ても,上の画像のように見える.しかし,作品に少し近づいてみると,クシャクシャのサーフェイスは青い色面の奥に見える.「奥に見える」と言っても「開口部の奥にある」という感じでは見えずに,青い色面から凹んで見えるという感じであり,この見え方は私のiPhoneのカメラでは撮ることができなかった.
近づいたり,遠ざかったりしながら《2D Painting [2022003]》を見ると,クシャクシャのサーフェイスが奥に引っ込んだり,手前に飛び出したりする様子を体験する.それは,作品の物質的現れとは異なり,私の意識にしか現れない運動である.この体験をしているときに「YOFの作品を見ているときは作品とセンサーとしての身体,両者の関係を観察している意識という三者のあいだで色が情報として処理されている感じがする」というメモをした.このメモを取った時に考えていたのは,以下のテキストである.
作品からの色情報を身体が受け取るのだが,その際に身体の動きに応じて,色情報が微妙に変化していく,その状況を,意識が観察していく.物質としての作品は変わらなずに同じ位置にあり,同じ色を示しているが,身体が動き続けることによって,受け取る色情報が変化し,その関係を観察している意識によって,作品と身体との相関関係が記述され,意識に立ち現れる作品が変化していく.
カバー画像に使ったような《2D Painting [2022003]》が,私の意識には立ち現れることはない.作品とiPhoneのカメラとの関係から生じた情報を情報処理装置が受け取り,情報を処理して,はじめて,私はこのような作品の現れを見ることになる.作品と身体/カメラという異なる物質の相互作用から生じる情報が,ヒトの脳やコンピュータのCPUが観察=処理されたときに,作品はその相互関係に固有の現れを意識につくったり,アドレス空間にデータの集合をつくったりする.
YOFの《2D Painting》シリーズは作品の現れの制御が色とかたちにおいて高精度でなされているので,作品を見るのがヒトであれば,実際には現れとは異なる作品を構成する物質の情報を得ても,ヒトの意識に立ち現れるのは,YOFが制御した色情報の集合に基づく現れなのである.逆に,作品とカメラとコンピュータとの組み合わせでは,カメラが捉える色情報はヒトの網膜がとれる色情報と同じかもしれないが,その情報を観察=処理するのがヒトの脳ではないので,YOFが想定した現れを捉えられないのである.
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