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講談社ノベルス「乱歩賞SPECIAL」のまとめ

ミステリの叢書シリーズを紹介するシリーズ。以前、第一弾として文藝春秋「本格ミステリ・マスターズ」を紹介した。

第二弾の今回は、急にマニアックになってしまうが、講談社ノベルスの「乱歩賞SPECIAL」を紹介したい。

あまりにもマニアックすぎて、Wikipediaにも紹介ページがないため、調べるのに若干苦労した。私の認識不足による間違いもあるかも知れないのでご了承いただきたい。
調べたところ、1984年9月から、1985年3月にかけて、隔月で講談社ノベルスから発売されたシリーズで、当時までの乱歩賞作家のほとんどが、集中的に特別書下ろし作品を発表する、という形式だった。
亡くなっている方はもちろん参加されていないが、存命作家でも何らかの事情で参加されていないケースもあったようだ。

実は「乱歩賞SPECAIL」は私にとって、とても思い出深いシリーズなのだ。
当時高校生で、西村京太郎からミステリの世界に入った私が、他の作家の作品も読んでいこう、と視野を広げようとしていた時期だ。当然ながらお金がないので、本屋で本を買うのはよほど欲しい場合に限られ、たいていは図書館で借りて読んでいた。その頃に「江戸川乱歩賞」の存在を知る。とにかくものすごい賞だ、という認識で、図書館の本に「第○回江戸川乱歩賞受賞作」となっている本があると「こ、これは読まなければ!」と熱心に読んでいった。栗本薫『ぼくらの時代』から、高橋克彦『写楽殺人事件』のあたりまではそうやって読みつぶしていった。

その頃に出たのが「乱歩賞SPECIAL」だ。乱歩賞作家が講談社ノベルスのために書下ろし、それを集中的に刊行する、というだけで、垂涎ものの企画だった。ノベルスの表紙に「乱歩賞SPECIAL」のロゴが入っており、特別感があった。
とはいうものの、やはり金がない高校時代なので、買って読んだのは数えるほどしかない。なので、それぞれの作品についてコメントすることはほとんどできない。

前置きが長くなった。
では、講談社ノベルス「乱歩賞SPECAIL」の全作品を紹介する。その後の文庫化などの情報も添えておく。作家名のあとのカッコ内の数字は、第何回の乱歩賞作家であるかを示したものだ。

1984年9月
戸川昌子(8)『火の接吻』

 →扶桑社文庫2000年12月「昭和ミステリ秘宝」→講談社ノベルス2007年9月「綾辻・有栖川復刊セレクション」
西村京太郎(11)『オホーツク殺人ルート』
 →講談社文庫1987年7月→講談社1987年7月「西村京太郎長編推理選集 15」→徳間文庫1997年11月→徳間ノベルス2011年1月「十津川警部 日本縦断長編ベスト選集」
斎藤栄(12)『新・殺人の棋譜』
 →講談社文庫1988年3月→中公文庫1996年1月
和久峻三(18)『午前三時の訪問者』
 →講談社文庫1986年7月→角川文庫1988年2月「赤かぶ検事奮戦記15」→双葉文庫1994年8月→徳間文庫1997年12月
日下圭介(21)『罪の女の涙は青』
梶龍雄(23)『奥鬼怒密室村の惨劇』

1984年11月
多岐川恭(4)『おやじに捧げる葬送曲』
 →創元推理文庫『氷柱』収録2001年2月
藤本泉(23)『暗号のレーニン』
栗本薫(24)『猫目石 上・下』

 →講談社文庫1987年7月→角川文庫1997年10月
中津文彦(28)『伊達騒動殺人事件』
 →講談社文庫1989年1月

1985年1月
森村誠一(15)『螺旋状の垂訓』

 →講談社文庫1988年1月→角川文庫1996年11月→集英社文庫2001年11月
大谷羊太郎(16)『偽装スキャンダル』
伴野朗(22)『さらば、黄河』

 →講談社文庫1989年6月
高柳芳夫(25)『悪夢の書簡』
井沢元彦(26)『ダビデの星の暗号』

 →講談社文庫1988年9月→角川文庫2003年5月
長井彬(27)『死の轆轤(ろくろ)』

1985年3月
小峰元(19)『ユークリッドの殺人学原論 基礎篇』『同 応用篇』
小林久三(20)『秀吉埋蔵金殺人事件』

 →光風社文庫1995年1月
岡嶋二人(28)『チョコレートゲーム』
 →講談社文庫1988年7月→双葉文庫2000年11月「日本推理作家協会賞受賞作全集50」→講談社文庫2013年1月「新装版」
高橋克彦(29)『倫敦暗殺塔』
 →講談社文庫1988年2月→祥伝社文庫2006年12月
鳥井加南子(30)『月霊の囁き』
 →講談社文庫1989年6月


まとめてみて、まず思ったのは「文庫化しなかった作品が多い」ということだ。商業的に成功した作品が少なかったのかな、とも思える。
そんな中でも最も評価が高く、今でも知名度の高い作品といえば、なんといっても、岡嶋二人『チョコレートゲーム』だろう。日本推理作家協会賞を受賞し、岡嶋二人の代表作のひとつと言って間違いないと思う。これは私も発売時にすぐ買って読み、非常に興奮したのを覚えている。
戸川昌子『火の接吻』も評価の高い作品だ。たしか海外でも翻訳版が出たはず(『KISS OF FIRE』という英題がカッコよかったのですごく覚えている)。2007年には「綾辻・有栖川復刊セレクション」から復刊している。

「乱歩賞SPECAIL」と銘打たれたシリーズだけに、自身の乱歩賞作品に関係した作品を発表された作家もいる。斎藤栄『新・殺人の棋譜』がまさしくそれで、乱歩賞作品『殺人の棋譜』の続編になる。栗本薫『猫目石』は乱歩賞作品『ぼくらの時代』に始まる「ぼくらシリーズ」の主人公・栗本薫と、名探偵・伊集院大介の共演作品だ。小峰元『ユークリッドの殺人学原論』も『アルキメデスは手を汚さない』のシリーズである。
個人的には、井沢元彦『ダビデの星の暗号』も思い出深い。作家・芥川龍之介が名探偵となる作品だが、めちゃくちゃ難解な暗号が出てきた。

ひとつ惜しいことは、このシリーズが1984年から1985年にかけて出たシリーズだ、ということ。実はこのシリーズが終わった直後の1985年の乱歩賞受賞作は、森雅裕『モーツァルトは子守唄を歌わない』と、あの、東野圭吾『放課後』である。このシリーズの企画がもう1年遅かったら、東野圭吾も参加してたはずなのになあ、と思ってしまうのだ。

なお、現在も新刊書店で入手可能な作品は、岡嶋二人『チョコレートゲーム』(講談社文庫・新装版)と、高橋克彦『倫敦暗殺塔』(祥伝社文庫)のみのようである。『オホーツク殺人ルート』も残っていないのはちょっと寂しい(十津川警部シリーズをめちゃくちゃ読んでいた頃で、これもすぐに読んだ作品だったので)。

(追記:エラリアナさんより情報をいただき、多岐川恭『おやじに捧げる葬送曲』は創元推理文庫『氷柱』に収録されているとのことでしたので修正しました。ありがとうございました)

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