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女子高生の私が苦虫を噛み潰した話




人様に自慢できることなんてほとんど持ち合わせていないが、好き嫌いが極めて少ないことだけは我ながら良いところだと思っている。

そんな私が絶対に口にできない唯一のもの、それは牛乳だ。チーズやヨーグルトなどの加工物、またいちご牛乳やカフェオレなど別の味が加わった物は大好物だが、どうしても生乳だけは飲めない。
私の牛乳嫌いには色々と深い理由があるのだが、話が長くなるのでまた別の機会に記そう。

とにかく、牛乳だけは飲めないが他の食べ物ならなんでも食べられる事が、私の唯一といっていい自慢だった。




天高く馬肥ゆる秋。馬にも負けない食欲と何でも食べるわんぱくさゆえブクブクと太った高校生の私は、渡り廊下の掃除係になった。

この時期は毎年、マルカメムシという小豆大の小さなカメムシが大量発生する。
山の中腹にある田舎の高校ゆえ、あらゆる野生の生き物とは共存せざるを得ない。特に渡り廊下はカメムシにとって何の都合がいいのか知らないが、黒い絨毯と見まごうほどに大集結していた。


とてもじゃないが歩けない上に掃除どころではないのでホウキでせっせとチリトリに集め、もう帰ってくるなよと祈りながら遠く離れた野に放つ。これを奴らが居なくなるまで延々と繰り返すのだ。

本来害虫として駆除されてしまいかねないカメムシたちを何百匹と助けたので、何らかの形で恩返しがあるのではないかと期待してしまう。
鶴が機織りに来るほどまでとは言わないが、私が地獄に落ちた暁には蜘蛛の糸feat.カメムシが垂れ放題なのは間違いないだろう。


その日も私は渡り廊下でせっせとカメムシ駆除に励み、残った時間は友達と談笑していた。
花の高校生、箸が転んだら箸よりも派手に笑い転げてしまう年頃である。私は友達のくだらない冗談に大口を開けてガハハと笑っていた。


ガリ


奥歯で何かを砕く音が脳髄に響いた。



途端に味蕾をつんざくような苦味が走る。
ジャリ、とした歯触りは例えるなら砂を大量に飲んだアサリを食べてしまった不快感と同じだ。


私の嫌な予感は大抵当たるがこの時ばかりは信じたくなかった。


しかし残念なことに、口から鼻に抜ける香りはまさしく先ほど助けたカメムシのそれだった。

苦虫を噛み潰したような顔という言葉があるが、私はその言葉が表現するよりもひどい顔をしていたと思う。この言葉を作った人間は間違いなくカメムシを食っている。
今すぐにでもゲロゲロと吐いてしまいたかったが、奥歯にいるカメムシがまた舌を通る方が嫌だった。それほどまでに生のカメムシは苦虫と呼ぶに相応しい、苦く臭く嫌な味なのだ。


私は意を決して飲み込んだ。

しかしすぐに吐いた方がマシだったと思い知らされる。その後しばらくカメムシの香りが鼻に残って消えず、地獄を見ることになった。


それ以来「いつか助けた虫さんたちが恩返ししてくれるわ」なんてプリンセスのような甘い考えを持った私は死に、目を血走らせて害虫共の駆逐に励むようになった。

牛乳よりも嫌いな物にカメムシが加わる事となる。


余談だがパクチーは本当にカメムシと同じ味がする。カメムシを食べた私が言うので信じて欲しい。パクチーが好きな人はきっとカメムシも「クセになるなぁ」と案外イケちゃうはずではないだろうか。

この広い日本。同じ境遇の上、同じ見解にたどり着いた人が私の他に1人くらいいてもおかしくはないだろうと信じている。

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潮井エムコ
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