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倫敦渡航記2023.02 食べ物と物価の話

なかにしけふこです。
先日(2023年2月下旬)、パンデミック後はじめて3年3ヶ月ぶりに倫敦に文献調査で10日ほど上陸しました。目的地はBritish LibraryとWarburg Institute LibraryとICS(Institute of Classical Studies)です。
いずれもEustonからBloomsbury界隈です。
今回は旅費と宿泊費と日当が出る研究費上限48万円の枠で行きました。
48万円あればパンデミック以前なら1度渡航して書籍費もじゅうぶんに出たものですが、今回は航空券と宿泊費と食費・現地での交通費でほぼぎりぎりです。
しかし、研究費がなかったら行けない出張です。ありがとうございます。
1ポンド160円から170円で換算してお読みください。

飛行機代

燃油サーチャージが爆発的に高騰しており、航空券も体感で以前の1.5倍のお値段します。チケットを予約する手が震えました。

欧州往復便が直行便で30万円台、1回乗り継ぎ便なら20万円台前半となると、さすがに心理的にも財政的にも堪えます。以前ならば東アジア・中東系航空会社の乗り継ぎ便なら10万円台の前半出せば余裕で行けたのに。
渡航も研究ももはや奢侈品ということになってゆくのでしょうか。愕然としています。

いくさと疫病が悪い。
春以降燃油サーチャージを値下げするとの報も見かけました。
ほんとうに下がってほしい。

欧州往復余裕で30万円以上する日系フラッグシップキャリアははじめから選択肢にありませんでした。ブリティッシュ・エアウェイズの直行便やフィン・エアーの北極回り航路も選択肢から外しました。今回は中東系航空会社を選択。ターキッシュ・エアウェイズのイスタンブル乗り継ぎ便にしました。機内食とインフライトシネマは充実しているし、接客もきびきびと懐深い。エコノミークラスでも通路側の席を確保できればそこそこ快適です。イスタンブルから欧州各都市へのフライトでは窓際の席も楽しい。

イスタンブル空港は新しく煌びやかになりました。きわめて機能的かつスタイリッシュで劇場性もある公共建築で、中東とヨーロッパの玄関口をミーマール・スィナンが活躍した土地の誇りにかけて担う気概がうかがえます。公共建築が利用者に優しくて美しいのはよいことです。税関通過後エリアの免税品店のあたりに空港博物館の広報でトルコ国内の考古学博物館からヘレニズム・ローマの人物彫刻を借りておいているのが強く印象に残ります。古代のものなら宗教も民族も超えた文化遺産として展示できるという意図でしょうか。次回はぜひイスタンブールで一度街に出られる便にのって、現況をしっかり見てきたい。キリスト教史跡の再イスラーム寺院化に接して茫然とするかもしれませんが。イスティクラールかスルタンアフメットあたりでお茶ができると楽しいかもしれません。

ターキッシュ・エアウェイズは気に入ったのでまた乗ると思います。

宿泊と交通

定宿はGolder’s Greenの新しめのserviced flatです。ここ4回ほどの定宿にしています。とうとうローシーズンでも1泊2万円程度になりましたが、それでもお値打ちなほうです。女性ひとりで安全に泊まる選択肢を選ぶとこのくらい宿泊費にかけざるをえません。2000年代のように、1泊1万円以下で泊まれるB&Bはもはや存在しません。

Golders Greenはロンドン市交通局(Transport for London)のゾーン分けでは郊外の入り口のZone 3にあります。Northern LineでEustonからだいたい10分、大英博物館・ロンドン大学先端研究所最寄り駅のTottenham Court Roadから17分です。

Zone 3から都心(Zone 1)に行くにはロンドン市交通局のICカードOyster Card(SuicaやPasmoやICOCAのようなもの)やコンタクトレス決済割引をオフピークタイムで使っても3ポンドかかります。通勤時間帯にあたるピークタイムだと3.7ポンドなので、なるべくピークタイムを外して図書館通いしました。Oyster Cardやコンタクトレス決済割引を使ってのZone1-Zone3間の一日の乗車賃上限が9.6ポンドとはいえ、なるべく地下鉄やバスに乗らない工夫を考えました。
東京の交通機関で片道480円というと、JR東海道線東京横浜間や井の頭線東横線乗り継ぎ吉祥寺横浜間の運賃と同じくらいでしょうか。道理でOyster Cardの減りが早かったわけです。

Elizabeth Lineが開通してヒースロー空港から都心へのアクセスがとても便利になりました。
ヒースロー空港からパディントンまでHeathrow Expressと同じ路線に乗り入れ、そこからTottenham Court Roadまで直通で出られる路線です。空港からTottenham Court Roadまでだいたい30分くらいです。
運賃はHeathrow Terminal 2/Terminal 3駅からTottenham Court Roadまで13.3ポンドですから、Heathrow Express(ヒースローからパディントンまで片道27ポンド)ほどのお値段はかからなくなりました。
Tottenham Court RoadのElizabeth Line部分の駅舎はかっこいい。ポストモダン建築の先をゆく近未来的な格好いい設計だし、車内もいまのところ清潔です。シートクロスのテーマカラーも故エリザベス二世の愛したきれいな青みの紫です。おすすめします。

Tottenham Court Road駅のElizabeth Lineホームへの通路
Tottenham Court Road駅のElizabeth Lineホーム
Elizabeth Line車内のシートクロス


もっとも、Picadilly Lineで1時間かけて都心に出るむかしながらの経路があります。こちらならいまは5.6ポンドで行けます。Victoria Coach Stationまでバスで出るなら10ポンドです。

Transport for Londonのウェブサイトで運賃や経路の検索ができます。市中でwifiやデータローミングが使える環境にしておくのはけっこう便利かもしれません(auさまどうぞヨーロッパでもデータローミング割引をもっときかせてくださいよろしくお願いします)。


物価

英国の物価がBrexit以前、パンデミックとロシアのウクライナ侵攻以前の体感1.5倍に値上がりしている、という話はほんとうでした。リーマン・ショック後の1ポンド270円期ほどではないものの、為替の円安傾向もあいまってかなりの割高感があります。
交通費と宿泊費はこれまでも高かったのですが、やはりじわじわと効いてくるものがありました。

物価が高くて生活費がおいつかなくてストライキが頻発するのもうなずけます。身を削ってもストライキを行おう、となるのはよくよく理解できます。

街にもBrexitの爪痕がまざまざと感じられました。

スーパーマーケット

到着翌朝、さっそく宿の近所のスーパーマーケットの様子を見ました。駅の近くのいちばん大きなSainsbury’sが寂れている。店のなかかがそこはかとなく薄暗い。ドイツ系ディスカウントスーパーマーケットのコーナーが店内にできていました。Golders Greenの駅から10分ほど北に歩いたところにあるTemple Fortuneの商店街もさびしげで、大きなMarks and Spencerにはほぼ自社製品ばかりが置いてあり、以前ほどの華やぎはありませんでした。Sainsbury'sでもMarks and SpencerでもBrexit以前はEU圏から来ていたベリー類や柑橘類が北アフリカ産のものになっていたりして、こういうところにまずBrexitの影響がでるのか、と思ったことでした。
これまでなにかとSainsbury'sを利用していたのでかなりさびしい。Camden TownやAngelの大規模店の様子を次回見に行ってみます。
Tescoはこれまでとあまり変わらない感じでした。

Waitroseを推す


活気があると思えたのはWaitroseでした。百貨店John Lewisグループ傘下のスーパーマーケットです。Temple Fortuneの商店街でも、Russel Square至近のBrunswick Centreの大規模店舗でもお店に生気がありました。商品にも多様性があり、生活にほぼ不可欠と思われるよい紅茶も企業努力で入手しやすい値段になっている。日本でも成城石井などで見かけるYorkshire Teaの大箱が4ポンド、Tea Clipperのオーガニックティーの大箱が3ポンド弱でした。

もちろん図書館の行き帰りにTottenham Court RoadからEuston界隈のSainsbury'sとMarks and SpencerとWaitroseも覗いてもみました。勢いはだんぜんWaitroseにありました。

以前は高級スーパーマーケットとして認識していたWaitroseがぐっと身近な存在になりました。労使関係にてこ入れして、健全な経営環境を保つ努力をしているとか。親会社名がJohn Lewis and Partners表記になったのも、Waitroseの会社名表記がWaitrose and Partners表記になったのも、商品を提供する提携生産者を共働者とみなしているからだそう。ターミナル駅にもお値下げ努力の清潔感あふれるグラフィックデザイン広告が出ていて頭が下がります。家族や研究室や友人へのお土産はほぼWaitroseで買いました。

Euston駅に出ていたWaitroseのデジタルサイネージ広告

結局おいしいものを適正な価格で食べようと思ったらWaitroseで自社製品の冷凍食品やready meal(レンジで温めると完成するお惣菜と主食)を買うのがよかった。最初あまりの物価高に節約を試みましたが、飢餓感が逆に高まって精神衛生によろしくありませんでした。食べるものはしっかり食べないともたちません。ありがとうWaitrose。

とはいえSainsbury'sでもMarks and SpencerでもWaitroseでもミネラルウォーターの2リットル瓶は1ポンドでおつりがきます。そして乳製品と青果類は比較的廉価です。ダイジェスティヴ・ビスケットの大きめロールも各社自社ブランド製品なら1ポンドから。助かりました。

地域の食料品店

地域の移民系食料品店には勢いがあります。この土地に根を下ろして生き抜く覚悟と生活とをささえる店構えです。Brexit以後いっそう、移民あってこその都市と社会と経済ではないかと思えてならない場面が多々ありました。移民を大切にする政治を望んでやみません。
Golders Greenではオフシーズンでも蟠桃を売っているお店もあって驚きました。ハイシーズンならすかさず買って食べるところですが、さすがに1kg7ポンドのお値段をみてぐっとこらえました。
地域で親しまれているベーカリーを次回はぜひ探索してみたいです。チェーンではGail'sとOle and Steenが流行っているのを確認しました。

外食


外食は基本高いです。ケーキと紅茶・コーヒーでだいたい日本円1000円から1300円程度なのには目をつぶります。東京でもケーキとお茶でそのくらいはしますから。
しかし、やはりしっかり食事をとろうと思うと東地中海系1プレート料理でも一回16ポンドはかかる。1ポンド160円換算でも余裕で3000円は超える。お酒を呑むと平気で25ポンド超えます。4000円超えです。懐に大打撃です。今回ほど一回一回なにを食べるか真剣に吟味した滞在もありませんでした。noteやブログ記事用にお味が微妙と噂のあるファンタジーアジア料理を食べて悦に入る余裕はもはやありません。とうとういままでwagamamaを体験しないまま、ここまできてしまいました。

サンドウィッチチェーンPret A Manger、コーヒーショップチェーンCostaやCafe Neroでは質量値段ともに安心して10ポンド以内で食べられます。Costaのコーヒーの価格はほぼ東京と変わりません。

Sohoの中華街はますます観光地値段の食事を出すようになり、とても一人で入れるお値段ではありません。Bayswaterあたりならまだしも一人で入れるという説もききました。

いま単身滞在で倫敦で外食するなら東地中海料理と印度料理がよいでしょう。それでも16ポンド+サービス料から。

Bloomsburyの大学界隈に週1回でもFarmer's Marketが来るのは助かりました。カラフルな中東・南アジア・西ヨーロッパ料理の屋台揃い、それでもしっかり食べようと思うと10ポンドからです。学生や教職員たちで賑わっていました。
Wellcome Trust1階のカフェテリアにはたいへんお世話になりました。British Museumなどにも入っているBenugo系列のお店です。
ケーキとお茶で5ポンド前後、サンドウィッチとコーヒーで7ポンドから、質量視覚面ともに実質のあるお食事で満足感があります。支払うべき対価をはらってきちんと食事をしている実感が得られて、一回の食事をおざなりに扱ってしまった後悔にさいなまれずに調べ物ができるのは精神衛生上よかった。

British Libraryのカフェ群もおなじくらいの価格帯です。味は確かです。満足感があります。

Senate House(ロンドン大学先端研究所棟)の1階にあったLavazzaのコーヒースタンドは撤退していました。


アフタヌーンティーはだいたい45ポンドくらいから。大学学部からの旧友と会う機会があったので今回名建築のホテルラウンジを選んで決行しました。やはりよい大人の優雅な遊び、という印象を強くしました。おいしかったし建築が美しかったし会話もたのしかったので満足です。
レビューサイトをよく読み、場所を厳選するとよいでしょう。

市中の不況感

物価は高いし、これまで活気のあったスーパーマーケットはわびしいし、ハイ・ストリートではこれまであった店がさまざまに消滅しているのも散見されて、物寂しくなりました。思ったよりも寂れていない、という知人もいましたが、生活を気にしないですめば寂れては見えないのかもしれません。

現首相のご子息のように視察時に公用車を使い、老舗百貨店で高額の手土産を取引先に大量に買うようなお立場のかたなら、おそらくみずからスーパーマーケットに行くこともないでしょうし、交通公共機関の運賃の高騰にも肝を冷やす機会は少ないでしょうから、やはり市中の不況感は見えてこないだろうな、とも思いました。

Heathrow Terminal 2の出国手続き通過後エリアのFortnum & Masonがなくなっていました。空港でクリームティーやアフタヌーンティーをする贅沢の可能性はいつか復活するのでしょうか。

コンタクトレス決済はすてきだ


コンタクトレス決済が浸透しているのはとても便利です。財布の紐を緩めなければとても便利です。あとで全部クレジットカードや預金通帳の明細で確認できるのもよい。現金を持ち歩かなくてもすむようになるでしょう。これはたいへん気に入りました。

観劇チケット


今回、本と芝居には無駄打ちしない、を貫きました。
本は実見しなければわからない。ひたすら最近の動向を図書館で観望する方針にしました。
観劇はNational Theatreの『リーマン・トリロジー』(ベン・パワー台本、サム・メンデス演出)と『パイドラー』(サイモン・ストーン台本・演出)のみに絞りました。それぞれGillian Lynne Theatre2階席最後列65ポンドとNT Littleton Theatreの1階最後列35ポンドの席です。チケットはNTのウェブサイトからカード決済で予約できます。電子メールでデジタルチケットのPDFが届きます。このPDFをスマートフォンにダウンロードしておいて劇場に持参すればばっちりです。
65ポンドの席はやや天井が見切れるのが残念。体力と財力があればもう一度見たいところでしたが、85ポンドの席にはさすがに手が出ませんでした。NTの35ポンドの席はじゅうぶん楽しめました。
National Theatreは客に気持ちよく財布を開かせるのが実に上手です。気を引き締めていないと幕間にアイスクリーム(5ポンド)やフォワイエのバーカウンターの飲み物(5ポンドから)や、プログラム(8ポンド)やスクリプト(17ポンド)を買おうとついiPhoneをとりだしてApple Pay決済画面をかざしてしまいます。
劇場の座席もたいへんおしりと背中にやさしい。さすがです。
舞台の感想はまた別途UPします。
『リーマン・トリロジー』は2023年5月20日まで上演中です。行けるかたぜひいらしてみてください。


布の話


服と布の話は別エントリで書きました。こちらです。


おおよその実感

研究費の予算から出る日当では食費と交通費にぎりぎり足りるくらいです。
渡航先と時期によっては航空費と宿泊費で足がでることもありえます。
ここが疫病前いくさ前とは大きな違いです。

道中ずっと、このままでは研究滞在じたいが贅沢品になってしまうのでは、といううすら寒い思いが消えませんでした。3年3ヶ月ぶりに渡航できて、研究や活動の方針も間違っていないことが確認できてほっとしましたが、やはり海外とのやりとりがEmailとZoom会議だけなのは心許ない。
私たちはインプットがなければ涸れてしまいます。インプットは研究教育関係者にとってはまいにちのごはん。よい教育をするにもインプット大切。財務省さまにおかれましては、なにとぞなにとぞ文部科学省を通してきちんと運営交付金を各大学に潤沢に交付していただきたい。そう、まずは我々のお給料もしっかりあげてください。

そして、どこぞのお国の誇大妄想的なイデオロギーにもとづく破壊を自己目的化した侵攻はほんとうにむなしい。
まわりまわって誰も幸せにしません。

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