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失われた未来:ミヤコが行動しなかった世界

生み出された未来」の方ではデジタルガバメントに全力で取り組んだ未来を生成AIの力も借りて書いてみたけど、今度は対比で何もしなかった時にどんな未来が起きるのだろうか?というものもまとめてみた。こんなイヤな初夢を間違っても見ませんように。

序章:2030年 沈む情熱


2030年、改革プロジェクトへの参加を打診された直後、25歳のミヤコはオフィスの休憩スペースで紙コップのコーヒーを片手に街並みを見下ろしていた。ここ数日、頭から離れないのは「参加すべきか、やめるべきか」という問いだ。

唇を噛みながらシミュレーションを繰り返す。もしプロジェクトに関われば多くの都民を救えるだろう。行政のデジタル化が人々の負担を減らし「手取り時間を増やす」という理想は明快なのに、なぜ一歩を踏み出せないのか。

背後では上司の田中と同僚の佐藤が低い声で話している。「あのプロジェクト、期待は大きいが、失敗したら責任も重い。若い人が巻き込まれたら大変だろうな」佐藤のつぶやきが、鋭い棘となってミヤコの耳に突き刺さる。

さらに、日本が「デジタルガバメント」に挑むたび、何度も苦戦を繰り返してきた歴史が彼女の背中を重くした。「なぜデジタル政府は失敗し続けるのか」という本が出版されるほど、年金記録問題からコロナ対策のデジタル化、ガバメントクラウド構築まで、先輩たちは常に壁にぶつかってきた。新たな技術や政策に希望を託しては、膨大な調整と軋轢、そしてメディアや時には同僚からの批判の中で疲れ果てていく。その姿を、ミヤコは何度も目にしている。失敗すれば「やっぱり無理だった」と冷めた眼差しを浴び、後悔が延々とつきまとうだろう。

「やめておこうか…」かすかなつぶやきは、自分への敗北宣言のようだった。行動しなければ何も変わらないが、失敗も批判もない。その安全策を選べば、ただ日々は流れていく。それを分かっていながら、胸の奥に苦い思いが沈殿していく。

同じ日の夕方、ミヤコは、薄暗いオフィスでキーボードを叩きながら、疲れた目でスクリーンを見つめていた。机上には、都民から寄せられた給付金の申込みに関する苦情が山積みになっている。日に日に増え、終わりが見えない。「また同じ手続きか…」小さな声でつぶやき、隣の佐藤を振り返る。

佐藤は深いクマを浮かべたまま書類をめくり、「ああ、まただな。都民は一度出した情報を何度も求められている。」と嘆いた。ミヤコは画面に視線を戻し、ため息をつく。

「どうして誰も本気で変えようとしないんだろう…これじゃ、私たちが本来やるべきことからどんどん遠ざかっていく。」

佐藤は肩をすくめ、「誰も動かないさ。どうせ無駄だって、みんな思っている」と突き放すように言い、再び書類に向き直った。

ミヤコは心中で葛藤する。デジタル技術で社会を変えたいと夢見た頃の情熱は、現実の厚い壁と古い習慣、硬直した組織の中で今にもかき消されそうだった。「挑戦しても何も変わらないのかな…」その思いが頭をよぎるたび、彼女は一歩を踏み出す勇気を失っていく。

第1章:2035年 挑戦を避けた日々



2035年、ミヤコがかつて抱いていた改革への情熱は薄れていた。日々の業務に追われ、変化を求める気持ちは心の奥底に沈んでいた。ある日、彼女は公園のベンチに座り、ぼんやりと空を見上げていた。そのとき、子どもを連れた由美子と偶然出会った。

「すみません、この辺りに区の窓口はありますか?」由美子は疲れた笑顔で尋ねた。

「はい、あちらの建物です。でも、今日は受付がもう終わっているかもしれません…」

ミヤコは申し訳なさそうに答えた。

「そうですか…子育て支援の申請をしようと思ったんですが、分かりにくくて。支援を受けられるって聞いたけど、どこで何をどう申請すればいいのかさっぱり分からなくて…」

由美子は目に涙を浮かべながら語った。ミヤコは胸が締めつけられる思いだった。

「お困りなんですね。私にできることがあれば…」

「ありがとうございます。でも、役所に行きたくても仕事があって時間も取れなくて。子どもたちのために何とかしたいのに、私にはもうどうすることもできないんです…」

由美子の言葉に、ミヤコは何も答えられなかった。自分が何も行動を起こさなかった結果が、この現実だと痛感していた。

「もっと早く、何か行動を起こしていれば…」ミヤコは心の中でそう呟いたが、その言葉は彼女の中で虚しく響くだけだった。

第2章:2040年 技術の停滞と無力感


2040年、公務員の数は労働人口の減少で40%も減り、行政サービスの品質は大幅に低下していた。デジタル化が進んでいればテクノロジーで対処できていたはずだが、すべては後の祭りだった。

ミヤコはオフィスで古いシステムのエラー対応に追われていた。画面には見慣れないエラーメッセージが表示され、彼女は頭を抱えていた。佐藤がため息をつきながら近づいてきた。

「またシステムダウンか。技術者がいないから対応も遅れるばかりだ。デジタル化を進めれば進めるほどデジタル貿易赤字として海外のプラット
フォーマーに流出してしまう。頼みの国産企業の公共部門の規模も人口減少とともに縮小しているしそもそも公共部門から撤退しているとこもたくさんある。もう手詰まりだよ」

「外注に頼り切りで、自分たちでシステムを管理する力を育てられなかった。私たちは、技術を持つべきだった…そして国内の技術者をもっと大切にするべきだった」

ミヤコは自分の無力さを感じていた。そんな時、また新たなメッセージが画面に現れた。海外のベンダーからの

「円安に対応するためにこれから3年で20%値上げさせていただきます」という通告だった。デジタル貿易赤字はすでに年間10兆円を超えていたが止める術はもはやなかった。

「このままでは行政サービスの質はどんどん低下していく。都民の不満も限界だ」

佐藤は苛立ちを隠せなかった。

第3章:2045年 セキュリティ崩壊と災害の影

2045年、サイバー攻撃が全国的に広がり、東京都のシステムも多大な被害を受けた。1000万人以上の個人情報が海外に漏洩し、都民は怒りと不安を抱いたが、対応は遅れに遅れた。

「また個人情報が流出したってさ。どうしてこんなに毎月のように攻撃を許してしまうんだ…」

佐藤はニュースを見ながら、拳を握りしめた。ミヤコは沈んだ表情で答えた。

「システムを全て外に頼り内製化できなかったし、技術者も育ててこなかった。だから中身が分からないのよ。私たちには管理する力がないんだ…」

「技術者がいないのは致命的だ。国内企業がこれ以上、公共部門から撤退したら、私たちはどうすればいいんだ?」

佐藤の言葉に、ミヤコは何も言い返せなかった。同年、首都圏を震度7の巨大地震が襲った。避難所は大混乱に陥り、情報管理は都道府県や区市町村毎にバラバラに行われていた。紙ベースの手続きが多く、状況把握が困難だった。他国では当たり前に利活用されているAIの利用も遅れてし、多言語対応も進んでおらず特に外国人観光客の不安が増大した。

避難所では、多くの外国人観光客が不安そうに座り込んでいた。
Excuse me, can you help us?

一人の外国人が必死に声をかけていたが、言葉の壁で意思疎通ができない。
避難所のリーダーは頭を抱えていた。

「避難者の人数が把握できない。外国人観光客も完全に取り残されている。言葉の壁もあるし、紙のシステムじゃ対応しきれない…もしデジタル化が進んでいれば、もっと適切な対応ができたのに」

ミヤコはその混乱をニュースで見ながら、胸が痛んだ。もし、彼女が改革に挑戦していれば、これほどの混乱は防げたかもしれない。救える命もあっただろう。

第4章:2050年 失われた技術と未来


2050年、日本は世界の技術競争から完全に取り残されていた。少子高齢化による市場縮小の影響で、国内のベンダーは次々と撤退。都庁はわずかに残った外資系の企業に依存するしかなかった。

「世界がAIで進化しているのに、私たちは完全に取り残されている。新興国ですらAI産業で大きな発展を遂げているのに、日本はこの有様だ」

佐藤はテレビで流れるニュースを見ながら、苛立ちを隠せなかった。ミヤコは静かに答えた。

「技術を放棄して民間活用の名の下にアウトソーソーシングするのは簡単だけど、失われた技術は二度と取り戻せない。私たちは、技術移転の不可逆性をもっと深く認識すべき…」

「役所のシステムが難しすぎて手続きができない!窓口に来いと言われるが、平日は仕事があって行くことができない。行政は何十年もデジタル化に取り組んでいるのにいつになったら便利になるんだ!」と都民が叫ぶ姿がニュースで取り上げられていた。

ミヤコはその光景を見つめ、何も言葉が出なかった。かつて彼女が夢見たデジタル社会の未来は、もはや遠い過去の幻想となっていた。

第5章:2052年 諦めと新たな希望


2052年、ミヤコは都庁のオフィスから東京の街を眺めていた。かつて活気に満ちていた街は、どこか陰りを帯びている。ミヤコはついに都庁を退職することを決めた。かつて抱いた「東京を変える」という夢は、今や完全に消え去り、失意の中で彼女はデスクを片付けていた。

「私たちは、何を間違えたのだろう...」

そのとき、若い職員の玲奈が近づいてきた。

「ミヤコさん、少しお話しできますか?この状況を変えたいんです。でも、どうすればいいのか...」

ミヤコは玲奈の瞳にかつての自分を重ねた。しかし、彼女は静かに首を振った。

「もう無理よ。この国は変わることができない。しょうがないのよ…」

玲奈は小さな声で言う。「私は諦めたくない。デジタルで社会を変えるなんて夢物語かもしれないけど、挑戦せずには終われない。」

数ヶ月後、都庁を退職したミヤコは、偶然玲奈が立ち上げたSNSの投稿を目にした。

「#NoMoreしょうがない 行政を変えるために、若手職員で動き始めました。賛同してくれる方、ぜひ力を貸してください!」

その投稿には、多くの都民や職員からの応援コメントが寄せられていた。

「若い力で未来を変えてください!」「応援しています!」

ミヤコは心が熱くなるのを感じた。自分が諦めてしまった夢を、次の世代が引き継いでくれている。

「まだ、遅くないのかもしれない…」
ふと、机の引き出しを開けると、そこにはかつてまとめた「ワンスオンリー」「コネクテッドワンストップ」の設計図、内製化のロードマップなど、自分が夢見た改革の数々がファイルに綴じられて残っていた。ミヤコは静かにそのファイルを封筒に詰め込む。次いで、白い便箋に短い手紙を書いた。

「玲奈へ あなたが #NoMoreしょうがない と声を上げていると聞きました。私は行動せず、何も変えられなかった人間です。でも、あなたなら、未来を動かせるかもしれない。ここにあるのは、私が昔やろうとしていたことの断片です。計画の多くは未完成で、技術も時代遅れかもしれない。それでも、何かのヒントになるなら使ってください。あなたが道を開くことを、心から願っています。
ミヤコ」

ミヤコは宛名に玲奈の名前を書き、ポストへ向かった。夜風が微かに頬をなでる。

「行動できなかった私が、せめて彼女の背中を押せますように…」

そう心でつぶやくと、彼女は手紙と資料の入った封筒をポストに滑り込ませた。ポトリ、と封筒が落ちる音が、小さく響いた。

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