「インタビューを通じて高い視座で成長し続けたい」 師田賢人さんインタビュー
今から5年前に、時給50円の案件からライティングの仕事をスタートした師田賢人さん。今は暗号資産(仮想通貨)を中心に取材・執筆活動をするフリーランスのライターとして、大手雑誌や有名ウェブサイトに連載を持つほか、インタビュー記事やコラムを書いています。
師田さんは、5年の間どんなことを考え、どんなキャリアを歩んできたのでしょう。また、形式的なことを重んじる日本社会に、幼い頃から疑問を感じてきた師田さんが、暗号資産の思想に魅力を感じた理由についてもお聞きしました。
師田賢人(もろたけんと) フリーライター。一橋大学商学部を卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。汎用的なITの素養や論理的思考力を身につけた後、株式会社コードクオリティに移籍し、エンジニア業務を経験。2015年、フリーランスのエンジニアとしての活動を経て、ライターに転身。時給50円の案件からライティング業務をスタートしたが、現在は主にビジネス、テクノロジー系の雑誌、ウェブメディアで執筆中。経営者や著名人のインタビュー記事などの実績多数。(オフィシャルページ:師田賢人Official Page)
現在のお仕事について
ーーー 現在、どんなお仕事をされていますか。
最近の仕事は大きく分けると3つあって、紙の雑誌の連載と、ウェブのコラム、それとウェブの取材です。
雑誌の連載は『月刊暗号資産』という、ブロックチェーンや暗号資産の業界で1番有名な月刊誌があるんですが、ここで連載を3本持っています。具体的には、海外のブロックチェーンプロジェクトの技術論文を解説する記事や、サイバーセキュリティに関する事例の紹介や考察をする内容、それから僕が注目しているブロックチェーンのプロジェクトについて執筆しています。
ーーー ウェブのコラムでは?
ウェブのコラムは色々なメディアで書いています。記名記事だと働き方・生き方を発信する「TeamHackers」や、HR動画メディアの「one scene」などで、主にビジネス系の記事の執筆を担当しています。2020年12月からは、LINEが運営する暗号資産取引所のBITMAX公式ブログに寄稿を始めました。
ーーー ウェブの取材ではどんなことを?
今、中心になっているのがウェブで取材記事を書く仕事です。内容的には人事の領域が多くて、他にはDXやM&A、PMIといったトピックなどです。有名なメディアに載るインタビューでは、普段会えないような著名人や経営者の方に深い話を聞けることに気がついて、もっとやってみたいと思うようになりました。
8月に行った株式会社moovyのCEO三島弘哉さんの取材(脱「おしゃれ採用動画」。採用のミスマッチを防ぐ動画メディアの活用法)に同席してくれた担当さんが僕の取材を気に入ってくれたらしく、そこから口コミで取材依頼が入ってくるようになりました。この取材は、三嶋さんと自然に会話ができて、楽しく言葉を交わし、お互いの言葉を深く理解して共感し合う、対談のような本当に良い経験でした。
この経験から、楽しい取材ができれば結果として、高く評価される良い記事が生まれるんじゃないかと思うようになりました。取材が終わった後も高揚感があって本当に楽しかったんですよね。これが一つの転機になって、もっと取材に力を入れて、クオリティを上げていきたいと思うようになりました。
ーーー 取材のクオリティを上げるために具体的には何をされていますか。
良い取材をするためには、事前にある程度の構成と質問を作っておく準備が大事だと思います。僕が考える良い取材とは、インタビュー記事の読者を想像して、読者がどんな課題を抱えているか、何を解決したいのかを考え、それに答える記事を作れる取材です。取材のクオリティというのは絶対的なものではなくて相対的なものなんですよね。
実際の取材では全力を尽くすのみですが、取材が終わった後の文字起こしについては、試行錯誤をしていてます。少し前までは外注していたのですが、自分でやった方が取材内容についての復習にもなると考えたので、最近は自分でやるようになりました。今は、AIを使った文字起こしサービス、Rimoを使っています。
時給50円の案件からCEO取材に至る道筋とは?
ーーー 現在に至るまでの経緯をお聞かせください。
一橋大学を卒業した後に、外資系のコンサルティング会社で働いていたんですが、プログラミングをやりたくなって、エンジニアの世界に飛び込んだんです。この時、働き方に対するこだわりが強くあって、コアタイムなしのフレックス制度を採用している会社を選びました。ただ、僕の指導に当たった人が、毎日午後3時に出社してくるような人で。3時に始めると、夜は12時くらい帰ることになるんですね。
プログラミングは楽しかったんですけど、さすがに毎日午後3時から仕事っていうのも嫌になって、結局その会社は辞めて、今度は独学しながらプログラミングスクールに通ってSNSを作りました。そのSNSがスクールの中で最優秀賞として選ばれたので、プログラミングはできるようになったと考えて、じゃあ起業してサービスを提供しようと思いました。
僕はユーザー側からは見えないサーバー側のバックエンドと呼ばれる分野が得意なので、見た目のデザインが得意な、いわゆるフロントエンジニアと一緒に組んでやりたいなと思って、twitter で探しました。そのときに、面識はないのですが、連続起業家の家入一真さんに事情を説明したらフロントエンジニア募集のツイートを拡散してくれて、結果として20人くらいから連絡がきました。その中から、最終的に一人に絞って、一緒にサービスを作ろうという話になりました。翌日には不動産会社に行って、物件を決めて一緒に住み始めました。
ーーー 仕事のパートナーと一緒に住んでたんですか?
よくシリコンバレーだと、スタートアップのときにはガレージみたいなところに住んでたとか、DeNAの南場さんも最初は小さいオフィスでみんな、ぎゅうぎゅうになって朝から晩まで仕事をしていたという話を聞いていたので、そういうものだろうと思っていました。相手の家が横浜で、僕は千葉だったので会う回数が多いのに「離れて住んでるのは無駄だよね」と二人で話し合いました。
ただ結局、サービスは完成できませんでした。数ヶ月一緒にやったんですが、仕事以外の理由でうまくいかなくなって、残念ながら解散しました。相手とは今も付き合いが続いているので、人間関係が原因でもないんですけど。それでまた、もう完全に無職みたいな状態になって、最初はクラウドワークスなどでエンジニア案件をやっていましたが、面白くないんですよね。
ーーー ライターに転向した理由は?
一番の理由は、働き方を自分でコントロールできることです。働き方を自分でコントロールできる実感によって、自己肯定感とか自己効力感がアップし、外向的になって、モチベーションも上がってきたんです。
僕、カンボジアに2ヶ月くらい住んでたことがあるんですが、ある日、カンボジア旅行の記事を書く案件を見つけて、ちょっと面白そうだなと思って書いてみたところ、10時間かかりました。これは500円の案件だったので、時給で言えば50円くらいで、これがライターとしてのはじめの一歩でした。
しばらくクラウドソーシングサイトで安い案件をこなしてたんですが、モチベーションが上がるにつれて良い記事が書けるようになりました。すると、それが呼び水になって、また次の良い案件がもらえるようになり、約3ヶ月でクラウドソーシングから卒業して、クライアントと直接やりとりを始めたという流れです。
その後は、自分のサイトのお問い合わせフォームや、twitterなどからも依頼がくるようになりました。そうすると、またそれを実績としてさらに良い案件を取るということを繰り返した結果、今に至ります。
ーーー 順風満帆に聞こえますが、ヒントがあれば。
一つポイントがあって、その時のトレンドに乗っかるというのがすごく大切だと思います。僕が始めたときは、暗号資産に関する記事の需要が伸びてるときで、案件数がすごく増えていたんですよね。それに対して、暗号資産とその基幹技術であるブロックチェーンについて書ける人は多くありませんでした。要するに、需要と供給のギャップが生じていたんです。ですから自ずときちんとした記事が書ける少数の人に仕事が入ってくるという構図でした。僕の場合は本当に運がよくて、好きだった暗号資産がたまたま旬のトピックで、そのトレンドに乗って実績を作ることができました。
したがって、営業をせずに仕事を取りたい人には、自分の好き嫌いは置いておいて、トレンドに乗ることもいいのではないでしょうか。
ーーー 師田さんにとって、ブロックチェーンの魅力とは?
ブロックチェーンの論文を読んだのは2017年にフリーランスを始めてからなんですが、ベースとなる思想にすごく共感しています。サイファーパンクと呼ばれる思想なんですが、これは中央銀行に依存しない金融システムで、暗号技術を使って個人のプライバシーを守ったり、名前のとおりパンクな考え方であったり、強めの自由主義であったりというような指向性を持ってるんですよ。
近年の最新技術には5GやIoT、AI(人工知能)などがありますが、ブロックチェーンがそれらと一線を画しているのは、ブロックチェーンの世界ではプロジェクトの一つひとつに深いストーリーや思想が込められているところです。その理由は、プロックチェーンを生み出した人物がサイファーパンクの信奉者であったからです。(師田さんが執筆された関連記事:暗号資産(仮想通貨)の世界をアイドルに例えてみた!|BITMAX公式ブログ)
僕は子どもの頃から、本質的なことじゃなくて形式的なことを重んじるような社会や権力に対する反発みたいなものを抱えていました。だから、中央銀行を必要としないフラットな思想を持つブロックチェーンの思想に共感して、ブロックチェーンに魅了されたんです。
フリーランスを続けるためのアドバイス
ーーー 会社員に戻ろうと思うなど、挫折したことはありますか。
僕は、フリーランスが、会社員に戻ることを挫折とは捉えていません。会社員かフリーランスかというのは手段であって、一番大切なのは「何を成し遂げたいか」だと考えているからです。さらに、これからの社会は今よりずっと人材の流動性が増していくだろうと予想しています。
よって、会社員かフリーランスかという手段については、柔軟でいいんじゃないかと思っています。会社員でやりたいことが実現できるなら会社員のままでいいですし、そうでないなら、フリーランスを選ぶのも選択肢の一つだと思います。
ただ、フリーランスとして挫折しそうになることがあるとすれば、自分の社会的信用が低いことを感じるときですね。例えば、引越しがしづらかったり、クレジットカードの審査にとおりにくかったり、これを考えると、自分は社会的ステータスが低い存在なんだなあと考えます。あともちろん、収入が安定しないことも悩みの種になります。来月以降もちゃんと稼いでいけるのかな、という不安は常にあります。だからこそ、市場価値を上げていかなきゃいけないという焦りや不安を感じて会社員をうらやむことも、たまにあります。
ーーー 「何を成し遂げたいか」が大切とのことですが、師田さんは「人々の可能性が最大限に発揮された社会」を実現したいと考えてらっしゃるとか。
学生時代にNPO法人アイセック・ジャパンという、世界最大の学生団体で一橋大学委員会の送り出し事業局長の経験を含め、3年間活動しました。「人々の可能性が最大に実現された社会」とは、その間に何度もプレゼンテーションしたり、ワークショップをしたりすることで身に染み込んだビジョンです。
色々な方の壮大な目標や素晴らしい考えに触れるだけではなく、カンボジアで社会起業家を育成するプロジェクトの運営をしたこと、300人から400人規模のベトナムでの2週間の国際会議などで、未来について語り合うことで、自分の価値観が形成されていきました。
送り出し事業局長という立場で、合計100名以上の方にカウンセリングをしました。部下は60人くらいいて、プロジェクトを4つマネジメントしていたんです。そういう立場で人を引っ張って行くためにはどうしても、ビジョンがないと人を惹きつけたり先導していくことはできません。
ーーー 心身のメンテナンス方法があれば。
フリーランスの心身のメンテナンスとしては、おすすめしたいことが2つあります。
1つ目は、すべての行動に意味を求めないこと。どういうことか具体的に説明すると、空き時間が1時間できたときに、漫画じゃなくてビジネス書を読んで勉強しなきゃいけない、あるいは、コメディ映画じゃなくてドキュメンタリーを見ないといけない。こんな風に、自由な時間があるときに、自己研鑽をしなくてはならないと思うのは、内向的な人に多いんです。ちなみに、ライターは内向的な人が多いと思います。
自分は全然できなかったとか、今日はあんまり有意義なことができなかった、と考える完璧主義な考え方に似てると思いますけど、電車でぼーっと外を見たり、何も考えずに散歩したり空を見上げたり、そういうことでリフレッシュになったりするので、そんなに気を張らなくていい、すべての行動に意味を求めなくていいですよ、というのがメッセージですね。
2つ目は、断る力をつけることだと思います。仕事が増えてくると、仕事を抱えすぎて仕事をこなせなくなってきます。仕事がこなせなくなってくると仕事のクオリティが落ちます。仕事のクオリティが落ちると、クライアントからのフィードバックが増えて、いっぱいいっぱいになってしまう。これはよくあるケースです。
ですから、はっきり「ノー」という力がすごく大切になってくるんですよ。断ることって一見、無礼な感じがしますけど、ちゃんと断れば、次第に尊重されるようになります。
僕は、人柄がいいクライアントと仕事をしたいという気持ちが強くあるので、クライアントの人柄によっては、ご依頼をお断りすることもあります。
師田さんの強みや評価されている点は?
ーーー 師田さんの強みは?
強みは、3つあると思っています。1つ目はスキルの複合性があること、2つ目が短期間でのインプット力が優れていること、3つ目がアジャイルな考え方を理解していることです。
1つ目は、英語とプログラミング、コミュニケーションが僕の強みだとして、お互いに相関性の低いそれぞれの要素ついて、それぞれ上位10%くらいには入ると思っています。その組み合わせで希少な人材になれているのが強みなのかなと。
2つ目は、例えば1週間後に取材が決まったら、必ずその分野についての本を3冊から5冊買って読んで、インターネットにある情報やクライアントの情報についても一通り目を通し、本を出している方であれば著作もチェックします。その知識を生かしながら取材を進めることができるので、短期間でのインプット力には自信があります。
3つ目の強みは、手戻りの少ないアジャイルな考え方ができる点です。アジャイルというのは、プログラミング開発で採用される手法で、少し開発してはテストで結果を確かめ、少し開発してはまたテストをするというやり方です。これを応用して、執筆を始めてから30%くらいの段階でクライアントに見てもらって方向性についての同意を得ることで、手戻りを少なくすることができるんです。
ーーー 師田さんのどんなところがクライアントに評価されていますか?
「専門家同士の対談がファシリテートできて、納期内にクオリティを伴う記事が書けるライター」としての信頼が得られているのかなと思っています。これまでに、高度な数学やプログラミングの知識を前提として英語の論文を読み、専門家の対談をファシリテートするような依頼を数多く受けてきました。毎回、締め切りを守ってクオリティを確保した記事を納品することで得られた信頼だと思っています。
営業方法と将来の展望
ーーー どのようにお仕事を獲得されますか(営業方法など)。
最近はウェブサイト経由で依頼がくるので、自分から営業はしてないですね。ただ、キャリアの早期の段階では泥臭い営業をしてました。仕事を得るためにはオンラインとオフラインでの営業が考えられますが、僕はオフラインの営業を重視して、人脈を築き上げることで仕事を獲得してきました。
具体的には勉強会や交流会、ミートアップなどのイベントに月に5、6件は参加していました。例えば、メディアの代表の方がプレゼンをしていたら、終了後に名刺を渡しに行き実績を見せながら、こういう者なんですけど寄稿させてもらえませんかと挨拶して、仕事をもらうこともありました。このようにして、専門分野の有名メディアにどんどん寄稿して実績を作ることができました。
仕事を増やすためには、既存顧客から受注案件を増やす方法と新規の顧客を増やす方法の二つがあると思います。今はコロナの影響でオフラインでの営業に制限がかかっているので、仕事を増やすことを考えるなら、既存顧客からの受注を増やすことを考えるといいと思います。
ーーー これからはどんなお仕事をされたいですか?
取材の仕事を中心に、活動をしていきたいですね。経営層や著名人など、重要な地位・仕事に関わる方と同じ視座に立って取材を行い、クライアントに満足いただける記事作成に全力投球していきたいです。
さらに、将来的には強みである英語力を活かして、外国人を相手に取材を行うことが当たり前にできるようになりたいです。そのため、英語資格の取得や海外大学院への進学を考えています。
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