本歌取りとHans Wegnerの椅子

オンライン授業の課題公開です。授業は本歌取りに関する講義でした。課題は、本歌取りの事例をあげよという内容で、以下はその事例としてHans WegnerのChinese Chairを取り上げた内容です。

本歌取りによる新しき価値の提言という意味におけるパロディは、本歌のことばによってその主題・内容を反復し、それらと異なる様相を表し、本歌との差異を強調するという内容である。

中国の明王朝で作られた、所謂 Ming Chairをその一例として取り上げたい。Ming Chairは、時代をへて、日本、イギリス、デンマークなどでそのコピーや改変版が作られてきたことが知られ、日本では、江戸時代にMing Chairが長崎の出島で用いられていた記録が『西遊旅譚 第三巻』に記されている(1)。Ming Chairを今日世界的に有名なものになしえた立役者の一人として、デンマーク人デザイナーHans Wegner(1914-2007)が挙げられる。Wegnerは、1943年にデザインしたChinese chairを発表した【図1】。

図1

【図1】Hans WegnerデザインのChinnese Chair(Victoria and Albert Museum所蔵)
http://collections.vam.ac.uk/item/O176209/armchair-wegner-hans/ [accessed 16, June 2020]

このデザインはWegnerが中国明時代のMing Chairの伝統を活かしながら、改良を加えリデザインしたものとされている。明時代(1368-1644)に作られたMing chairは、釘を使わずにほぞ穴とほぞ穴で接続した手法で作られた椅子である 【図2】(2)。

図2

【図2】明時代の椅子(Victoria and Albert Museum所蔵)
http://collections.vam.ac.uk/item/O71485/armchair-unknown/ [accessed 16, June 2020]

 この様な古きに新しきデザインを求める<リデザイン・再構成>という態度は、デンマークの近代家具デザインの父、Kaare Klint(1888-1954)が掲げた「美的要素ではなく、機能性に着目した上で、過去の様式を再考して、新たにデザインを再構成する」という考え方に端を発するデンマーク・デザインの系譜にある(3)。 「本歌」の〈パロディ〉による「新しき心」という視点でWegnerのChinese Chairをみれば、本歌である明時代のMing Chairのデザインを芯にもちながら、モダニズムが敷衍する新しい時代における機能性を考慮してデザインされたという意味でそこに過去(本歌)と異なる、新しく更新されたデザインを見ることができると考える。

註)

(1)司馬江漢『西遊旅譚 第三巻』 天明8(1788)年版(国文学研究資料館蔵)
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100220196 [accessed 16, June 2020],
Di Liu, Ming Chairs: Origin, Past and Presenti (2016)
https://www.rca.ac.uk/students/di-liu/ [accessed 16, June 2020].
(2)Victoria and Albert Museum, Armchair
http://collections.vam.ac.uk/item/O71485/armchair-unknown/ [accessed 16, June 2020],
Vitra Design Museum, Hans J. Wegner: Designing Danish Modern 02.03. – 03.06.2018
https://www.design-museum.de/en/exhibitions/detailpages/hans-j-wegner-designing-danish-modern.html
[accessed 16, June 2020].
(3)Andrew Hollingsworth, Danish Modern (Gibbs Smith,2008),pp.89-90,
西川栄明『増補改訂 名作椅子の由来図典 年表&系統図付き:歴史の流れがひと目でわかる』(誠文堂新光,2015),p.163.

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