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Balthusの絵画に隠れた意味を探ってみると

オンライン授業の課題公開シリーズです。

今回の課題は、リミックスに関連した事例をあげてくださいというものです。

リミックスについて、講義では、古歌のことばを採取し、その古歌の「心」の範囲外において流用する、古歌から採取されたことばは、古歌の心を例示する機能を有さないと説明されていた。そしてその一例をあげよ、ジャンルは問わないということで、私は、Balthusの絵を取り上げることにいたしました。以下その内容です。

1940年にBalthus (Balthasar Klossowski de Rola)(1908-2001)によって制作された油彩作品Still Life with a Figureをリミックスの一例として取り上げる(1)【図1】。

図1

 ナイフがテーブルの上のパンを貫通し、その鋭い切り先はワイングラスに向けられている。基督教でパンがイエスの身体、ワインがイエスの血を表すことを鑑みれば、当時まさに勃発手前であった第二次世界大戦下において、多くの人が負傷し、血を流すということをBalthusが暗示していると解することもできる。次にリンゴに注目したい。リンゴは果物籠から今にも落ちそうになっている。この果物籠は、イタリア美術史上の最も優れた静物画」と評されるCaravaggio(Michelangelo Merisi da Caravaggio)(1571-1610)のBasket of Fruitを元に描かれたと推察できる(2)【図2】。

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 同作品に関する解釈は宗教的なもの、リアリズムに基づいたものなど多岐にわたり、作品に唯一的見解は伴わない(3)。 つまり、同作品の引用は、象徴性という意味では、Balthusの作品との明確な繋がりは見出せないが、イタリアという器(文脈)において、リンゴが理解される必要があると暗示していると理解することができる。そこで、リンゴの象意について着目すれば、古代ローマ人はリンゴ、母親を表す女神にポーモーナという名を与えたたことが示す様に、ポーモーナは結実全般を象徴する女神であったという。さらに、古代ローマ人の饗宴が常に「卵で始まり、リンゴで終わる」ことからも、リンゴが完結を表象することが窺える(4)。この様なリンゴの象意を考慮すれば、果物籠から今にも落ちそうなリンゴは、戦争が破滅という終焉に帰結するということをも暗示しているとも解せる。以上のことから、リンゴ、籠、パン、ワイン等が総合的に一つのキャンバスに描かれ、それぞれのモノに伴う象意が再構成され、画家の生きた時代の文脈と併せて理解することで、単一の象意を越えた新たな意味が生み出されていること、歴史的に有名な絵を引用しながら、その引用自体には決定的な意図が伺えないことから、同作品は、講義で述べられた「リミックス」の事例に該当すると考える。

(1)Balthus,Still Life with a Figure(1940),Tate Modern
https://www.tate.org.uk/art/artworks/balthus-still-life-with-a-figure-t12613 [accessed 16, June 2020].
(2)Artpedia
https://www.artpedia.asia/le-gouter/ [accessed 16, June 2020].
(3)Michelangelo Merisi da Caravaggio,Basket of fruit, THE AMBROSIANA’S COLLECTION
https://www.ambrosiana.it/en/opere/basket-of-fruit/ [accessed 16, June 2020].
(4)de Voragine, Jacobus,The Golden Legend (New York : Longmans, Green & Co., 1941),p.67,

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/antiGM/apple.html[accessed 16, June 2020].

【図1】Balthus,Still Life with a Figure(1940),Tate Modern© ADAGP, Paris and DACS, London 2020
https://www.tate.org.uk/art/artworks/balthus-still-life-with-a-figure-t12613 [accessed 16, June 2020]

【図2】Michelangelo Merisi da Caravaggio, Basket of fruit, THE AMBROSIANA’S COLLECTION
https://www.ambrosiana.it/en/opere/basket-of-fruit/ [accessed 16, June 2020].

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