交歓するモダン 機能と装飾のポリフォニー
バウハウスの建築・家具に興味があって、その延長線上でアール・デコのデザインも嫌いではない私。よく分からないタイトルでしたが、会場が東京都庭園美術館ならアール・デコと関係あるんだろうと思って行った展覧会です。
作品と構成から明示的に分かるような感じではないのですが、20世紀初頭に「モダン」というムーブメントがどうやってインダストリアル・デザインやファッションに体現されていったかを示したいようで、バウハウスに代表されるような無駄を削ぎ落とした機能重視のデザインだけでなく、展覧会会場である旧朝香宮邸でアール・デコが採用されたように、大都市のうたかたな生活を飾るデザインというのもあったのだよ、ということを言いたいようです。
ふーん、って感じですが、まぁともかく、こんなにテキスタイル寄りだとは。
バウハウス好きな私としては、建築・家具・日用品関連の展示を期待していたので、思っていたものとはかなり違かったのですが、発見もありました。例えばオーケストラの絵をよく描くというイメージのフォーヴィズムの画家ラウル・デュフィ(Raoul Dufy)が、テキスタイルのデザインを手がけていたとか、抽象的なエッフェル塔を描いた(ロベルト)ドローネーの妻ソニア・ドローネー(Sonia Delaunay)もアーティストで、バレエ・リュスの衣装をはじめ、舞台衣装やテキスタイルデザインに携わっていたといった事実を知ったこと、などです。
テキスタイルデザインに焦点を当てる展示という点では、バウハウスでも、またウィーン分離派のメンバが関わったウィーン工房の作品でも徹底していて、ここは展示作品に一貫性があって良かったです。この分野、あまり展覧会でフィーチャーされることはないし、芸術運動においても決して主流ではなかったようなのですが、解説には、建築等の講義に参加したり実践として関与することが難しかった女子学生・女性デザイナーが、テキスタイルの分野に携わることが多かったとあり、ジェンダーの問題を考えさせられつつも、そんな中で表現する手段を模索した当時の女性に思いを馳せたり。
でも、一番会場の雰囲気とも調和していて、展示に力が注がれていたのはドイツ、オーストリア側ではなくてフランスの動きで、20世紀初頭から前半に活躍したファッション・デザイナー、ポール・ポワレ(Paul Poiret)のデザインした服と、彼がテキスタイル・壁紙および家具デザインのために立ち上げたアトリエ・マルティーヌ(Atelier Martine)の製品群は非常に印象的でした。
デュフィがデザインを手がけたのもこのアトリエ・マルティーヌのもので、ウェブサイトやパンフレットにも掲載されているの香水瓶の柄も、ポワレの手による香水ブランド、ロジーヌのためにデュフィがデザインしたものです。四角いガラス瓶に描かれた植物の模様、写真よりも実物の方がはるかに可憐でしたよ。
それにしても、村上隆とか草間彌生のデザインを採用するルイ・ヴィトンみたいなことって、ファッションがレディ・メイドになり始めた頃に、すでに始まっていたんですね。
ポアレのデザインした婦人服も初めて見るものでした。私が服を見るときは、アート観点でなくて自分で着てみたいかどうかが先に立ってしまうので、ストンと落ちるかなり幅広のゆったりとした服を見ても、それほどそそられなかったものの、ハイウェストだったりウェストなしのデザインによって女性がコルセットから解放されたという点では注目に値します。全体的なデザインとしてはそんなに凝っていないので、テキスタイルのデザインや刺繍による飾りに視線がいくし、どれもきちんとした縫製なので丁寧な仕事だなと感心しました。
世に出回っている既成服とオートクチュールメゾンの服を同じ土俵で語るべきではないのはわかってはいても、自分が普段着ている縫い目のヨレた服を見ながら、こういう仕立ての服を着たら気持ち良いだろうなと思ってしまったり。
服についてはポアレとほぼ同時期のデザイナー、ジャンヌ・ランバンや、ココ・シャネルの服も紹介されていました。どれもアガサ・クリスティ作品の映画やテレビドラマで女性が着ているような感じで、どのデザイナーにも見られる類似性が1910年代の流行だったのだろう、というのがわかります。
こういうテーマ展示って、特定のアーティスト、グループ、所蔵館の作品に限定するのよりも遥かに企画が難しいと思います。テキスタイルとインテリアだけ、アトリエ・マルティーヌやウィーン工房に焦点を絞るといったことをすると、コストに対して必要な入場者数を見込めないだろうと、主催者・企画者が思ったんでしょうが、今回のは展覧会タイトルもわかりにくいし、決めたテーマに対して扱う作品の範囲が多すぎたのではないかなぁという気は否めないです。
庭園美術館に新館ができたのを把握していなかった私は、本館規模なら大丈夫だろうと、閉館1時間前の時間帯で予約して余裕綽々で見ていたら、展示室内スタッフの女性が「あと20分で閉館なので、先の展示もご覧になられた方が…」と親切にも声をかけて下さいました。
本館の展示室巡回スタッフと警備員の数がかなり多くて、近代的なセキュリティシステムがないのを頭数で補うヨーロッパの公立小規模美術館みたい、と思っていた矢先でした。そんな美術館で一人で黙々と展示に向き合っていると、この手のコミュニケーションってままに生ずるもので、そんな出来事が建物の雰囲気と相まって、なんとなく異国情緒を感じた夕暮れ後の芸術鑑賞となりました。
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